第52話 それだけは奪い取る
「お、おいおい……これ、やばくねぇか?」
「ヤバいどころじゃねぇだろ。こいつぁ、完全に一年生のレベルを越えてやがるぜ」
「ディムナ様~~~~!!! 負けないでえええええええ!!!!!」
「そうですわ!!! あと少しで平民なんて倒せますわ!!!!!!」
「っしゃおらぁああああああああッ!!!! やっちまえガルフううううううううッ!!!!!! そこだ、ぶった斬れえええええええええええッ!!!!!!」
今日一番のどよめきに加え、多数の声援が飛び交う闘技場。
その興奮は一般席だけに留まらず、貴族や豪商……有名どころの冒険者たちが座っている特別観覧席にも及んでいた。
「あのディムナが……平民相手に、押されているだと!!??」
「それは微妙なラインだが、良い戦いをしているのは間違いないだろう。先程までの戦いとは違い、まさに互角の勝負だ」
「ぐっ………………」
プライドの高い貴族たちとしては、何が何でも否定したいところだが……この場には、闘気という言葉を知らない者、見えない者は存在しなかった。
「おいおいおい、マジで激アチな展開じゃねぇかよ!!!!」
「騒ぎ過ぎだ。まだ試合は終ってない」
「バカ、アホ、頭堅過ぎ君!!! んなもん、あっちの侯爵家? のガキをあそこまで追い詰めてる時点で、あいつの価値爆上がりだろうが!」
「…………そうだな。これまで試合で見せた戦闘技術、身体能力の高さ。どれも評価に値する。加えて、あの逆境からの……覚醒、というべきか。運か否かはさておき、強者として必要なものを有していると見て取れる」
「だろだろ!! あのガキ……騎士志望か? それなら、なんとかしてこっちに退き込めねぇかなぁ」
有名どころの冒険者たちはクランという冒険者ギルドという組織に所属していながら、半分独立した組織のトップに立つ者が殆ど。
既に戦力として有望な人物は、今のうちから眼を付けておきたい。
騎士を目指している人物に声を掛けても無駄?
それがそうでもない。
騎士…………という職に憧れを持つ子供は多い。
それは貴族の子供、平民の子供であっても変わらない。
しかし、騎士には一定レベルの実力があればなれる。
レグラ家が管理する領地が異常なだけで、モンスターはどこにでも存在する。
騎士という戦力はどれだけあっても困ることはないのだが……子供の頃に憧れた内容に近しい評価、名誉を手に入れられるかは、また別の話。
クランに所属していれば、クランという組織はうちの何々がこれだけ凄い功績を上げたんだぞ!!! と、所属している冒険者を褒め、宣伝することが多い。
また、クランに所属しておらずともソロ……は厳しいが、パーティーとして活動していれば、活動内容にもよるが各個人が評価されやすい。
それに対し、騎士は騎士団という組織に所属して活動するものであり……全てが汚いとは言えないが、超絶クリーンな組織とは、到底言えない。
国民を、国を守る組織がそんなので良いのかって?
良い訳がないのは間違いないが……どの世界でも、全ての部分に国のトップの眼は届かない。
更に付け加えるならば国……王族が全てを管理している状態でもないため、眼が届いたとしても、正せるか怪しいところ。
そんな世界に入るぐらいなら、死ぬ可能性は上がれど……自分の功績が正しく評価させる世界に行きたい。
平民ではなく、貴族の令息や令嬢であっても、そう思う者は決して少なくない。
今現在、激闘祭に参加している生徒たちの誰かが卒業後、冒険者として活動を始める可能性は……決してゼロではない。
「彼は、噂のレグラ家の子供と共に行動しているのだろ。であれば、中の情報を既に聞いているかもしれない……いや、レグラ家ではそういった情報が入ってこないか?」
「難しい事ではとうでも良い! 平民ってことは、なんだかんだでこっちの世界に来る可能性が高いってこった!!」
「……結論、そうではあるな」
冒険者たちにとっては、どちらにせよ楽しい気分のまま激闘を観戦できる。
個人的な気持ちとしてガルフの方を応援している者が彼等の中には多いが……それでも、平民であるガルフがこのまま押し切れるなどと生温い結果を予想するの者は誰一人としていなかった。
「ッ!! 疾ッ!!!!!」
「ッ! ッ!!!! 刃ッ!!!!!!!」
闘気を会得し、リングに戻ったガルフの動きは……まさに覚醒状態。
当初押し殺していた友をバカにしたディムナに対する怒りが解放され、体の動きに対して良い意味で反映されていた。
だが、それでも戦況はようやく五分に持ち込めたと言ったところ。
ガルフのタイムリミットを込めた評価ではあり、再び戦況が崩れる可能性は大いにある。
それでも、これまでの戦闘内容とは違い、ガルフだけではなく……ディムナの体にも徐々に切傷が増えてきた。
(この様な、ところで、立ち止まっていられるか!!!!!!!)
殺すつもりで倒す。
その思いが乗ったディムナの剣技に対し……ガルフが抱いた感情は、イシュドよりも怖くない。
圧にも種類はあれど、油断してはならないことは解っていても……友を越える圧は感じなくなっていた。
「ぬぅああああ!!!!」
「っ!!! せぇあッ!!!!」
解らないところ生まれた数滴を、全力で蒸発させる。
もうここで終わっても良い、それでも勝利だけは奪い取る。
(っ!!! ………………待て。この俺が、圧されただと……ッ!!!!!!!!)
そんな事、あってはならない。
平民からすればなんとも身勝手な精神と思われるかもしれないが、それがディムナを支える柱。
全て無駄だったと、圧倒的な差を見せ付けて思い知らせる。
それがトリガーとなったのか、この試合に対する意識に変化が起き……より強い光に包まれ、加速する。
(だから、なんだ!!!!!!!)
更に加速しようと関係無い。
無駄ではないと証明するため、結果を引き出す。
両者の全力の思いが乗った一撃がぶつかり合い……二人共リングの端まで押され、退いた。
(斬り裂…………)
元々、ガス欠を狙った勝利など狙うつもりはなく、正面から斬り伏せるつもりであったディムナ。
に・げ・る・な・よ。
声に出してはいない。読唇術といったスキルは会得していない。
だが、口の動きだけでも、ある程度何を言ってるのか解る。
何より……ガルフの表情には、完全に彼の意図が表れていた。
(殺ッ!!!!!!!!!!!!!!)
この瞬間、審判は間違いなく……脳裏に制止の選択肢が浮かんだ。
しかしコンマ数秒遅れで、ディムナから放たれる圧と同等の信念を察知した。
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