第147話
俺氏、絶賛逃亡中。
つか要所守ってますって顔してたのに何普通に俺の事追いかけてくんのアイツ。
めっちゃ正確に追跡してくるし、どういう理屈だよ。
いっそ聞いてみるか。
通路で止まり、少し待てば学者風の男が追い付いてきた。
謎の無魔力空間に入らないよう気を付けつつ、口と肺を作り声を出す。
「どうやって追跡してんの?」
「む、人語を解する……確かに最初は人に化けていたな、ある意味当然か」
足を止め、程よい距離感で立ち止まってくれた。
「折角だし教えてくれる?」
「何を言うかと思えば……よかろう、教えてやる」
マジで?
「こっちから言っといて何なんだけど、良いの?」
「良いとも、何故ならば――」
そこで両足を揃え、左手を胸に添えて、右手を後ろに回して拳を腰のあたりに当てて、斜め上に顔を向けながら口を開く。
「――私はプロフェッサー。教え、授ける者だ」
何そのポーズ。
さてはコイツ、面白いな?
それはそれとしてプロフェッサーが教え授ける者って意味なのは気になる。
「てかプロフェッサーて……どこの言葉?」
「こことは違う世界の言葉だ。君に言っても分からないかもしれないがね」
いやいや、まさかとは思うが……。
「異世界からの転生者でも居るの?」
「ほう……君の知性に敬意を払い、答えようじゃないか。その質問はある意味正しい。教会が『外なるもの』と呼んでいる存在だ。聞いたことはあるかね?」
「ある」
「ならば話が早い。そいつらの中には私達の世界とは似て非なる世界を知っている輩も居てね、この名はそいつらの知識から拝借したのさ」
俺の前世と同じ世界を知っているのだろうか。
そいつが同郷でない事を祈って質問をする。
「その『外なるもの』って、似て非なる世界でも『外なるもの』だったりする?」
「実に素晴らしい質問だ。そしてその問いに対する答えは是である」
ああ、良かった。
内心滅茶苦茶ほっとした。
別に前世の世界に『外なるもの』が居たとしても、もう俺には関係ないが、同郷が相手だと洒落にならん。
「一応聞きたいんだけど、どうやって知ったの?」
「その『外なるもの』が、そうほざいたのだよ」
「もしかして知り合い?」
「ああ、奴は『文明の発展をもたらす事で私の目的は果たされる』などと
おおー……今までのは何だったんだってくらい情報出てくる。
「めっちゃ教えてくれるじゃん」
肝心な所をぼかしてる気がするけど。
「言っただろう――私はプロフェッサー。教え、授ける者だ。私がこの世で唯一敬愛するワイズマン様より賜ったこの名に恥じぬよう、常々心掛けているのだ」
なんか新しい人が出てきた。
あとまたさっきのポーズしてる。
まあいいや、ちょっと学生のノリで行こう。
「じゃあ教授ー、その手に持ってるのは何ですかー?」
「教授……ふむ、悪くない響きだ。まあ良かろう、教えてやる。こいつは私が発明した魔導器、『携帯型霊力遮断結界・試作二号』だ」
「霊力? 魔力じゃないんですかー?」
「当然の疑問だな。君は魔力が上手く機能しなくなったが故にそう思ったのだろう?」
「それもあるけど、魔力視でも教授の周りに魔力見えないんですけどー……」
「ふむ……君はエネルギーという概念を知っているかね」
なんかいきなり話が飛んだな。
これは俺が前提知識を知らないパターン。
「知ってまーす。上手く言語化しようとすると面倒だけど」
「知っているなら良い。さて、このエネルギーだが、物理、魔力の他にもう一つある。分かるかね?」
「さっき言ってた霊力ってやつ?」
「そうだ。霊的エネルギー……霊力とも呼ばれるそれは、概念や魂など、物理的な干渉が本来不可能なエネルギーだ」
「魂がエネルギーになるのは分かるけど、概念も?」
「君の思考は物質主義に寄っているようだね。スライムこそ霊的エネルギーの集合体だというのに」
思考の偏りは前世の影響です、はい。
てかスライムって幽霊みたいなもんなのか?
考えてみれば脳含めた内臓なしに動けるし、最初は意識だけだったし、魔力なしだとスライムに縛られた魂とか精神って事になるのか。
確かに地縛霊っぽいかも。
「まあ良い、結論から言おう。霊的エネルギーを物質世界に実体化させる触媒、それが魔力であり、この装置は魔力の霊的エネルギーを触媒する性質を制限するものだ」
「そうすると魔力視でも魔力が見えなくなる?」
「いいや、厳密には違う。真面目に考えてみたまえ」
んー……なんか本当に授業受けてる気分になってきたぞ。
「……魔力視って実は魔力見てない?」
「半分正解だ。訓練すれば魔力そのものを見る事は可能となる。君が私の魔導器のせいで魔力が見えないのなら、それは単に君の技量不足だ。とはいえ、スライムに求めるものではないというのは分かっているとも。この私が正解できるとは微塵も思ってなかったのだから、半分当てただけでも大したものだよ」
どこまでも上から目線な教授だが、俺にとっては有用な情報なんだよな。
「簡単に言えば、一般的な魔力視とは、魔力という窓越しに霊的エネルギーを見ているだけだ」
「はえー分かり易い」
「当然だとも――そう、私はプロフェッサー。教え、授ける者だ」
なんだろう、そのポーズ気に入ってるのかな。
「じゃあその装置は窓に鍵をかけて開かないようにする感じなんすね」
魔法はその窓を開ける行為で、魔力の大きさは窓の大きさに比例する感じか。
「概ねその認識で正しい。君の学習能力は中々のものだ。私も気に入ったよ……さて、そんな君に選択肢をあげよう」
「もうちょっと話さない?」
その装置理解したから対策立てたいのよ。
「一つはその悪だくみをすぐに止め、私に飼われるという選択。もう一つは最後まで足掻き、ここで死ぬという選択だ」
速攻でバレてーら。
「じゃあ教授に最後の質問。教授と、教授の所属する団体の目的って何? それが分からないと決めようがないんだけど?」
「当然の疑問だな、答えてやろう。私個人の目的は敬愛するワイズマン様のお役に立つ事。私の所属する団体は『新世界の夜明け団』だ。名目上は世界の新生を最終目標に据えているらしいな」
「その口ぶりだと信じてない感じ?」
「というより、無駄だ。無理とは言わんが、世界が変わった所で人類は変わらんよ」
僅かに目を細め、人は変わらないと吐き捨てる教授。
「その人が変わらないってのは同意できるわ」
「悪いようにしないさ。君ほどの知性があれば外の世界に興味を持つだろう?」
「興味がないって言ったら嘘になるね」
前世だと宇宙の雑学動画とか結構好きだったし。
「ではその魔力を……」
「――でもね、俺がなりたいのはヒモニートなんだわ」
貯蓄して水をウォータージェットとして放ち、その反動を利用して距離を取る。
水の刃は透明な壁に阻まれ、教授には届かない。
元より初撃より魔力が減ってて、威力出ないから当然と言えば当然。
今は全速力で逃げる。
教授は霊力遮断結界とやらを、さっきまでより広範囲に展開しだした。
たぶんあの空間の中でも魔術は機能するんだろうけど、想定も対策もされてないはずがない。
魔術は確か、魔力を何やかんやして物理現象を起こす技術だったはず。
霊力じゃなくて魔力をエネルギー源にしてるから、あの結界内でも大丈夫なんだろうな。
「残念だよ。教えを授けた者を始末しなくてはならないとは」
距離を取って作戦を考える。
正攻法じゃまず負ける。
知識、技術、装備、全てで負けているのだから、当然だ。
勝ってるのは体の強度くらいのものだが、あの結界内ではその体も動かせない。
「死体の一部をサンプルとして持ち帰るくらいはしてやろう」
教授の移動速度が上がっていて、逃げ切るのは困難……。
いや、逃げ切るどころか、その内追いつかれるわこれ。
距離が取れねえし、走るフォーム無駄にキレイ。
傲岸不遜で余裕綽々に見えて、実際は油断も隙も無い。
あの手の頭の良い奴の殺し方は、俺の知る限り三種類ある。
一つは騙し討ち、次は相手がまだ知らないか想定できない方法を使う、最後は超特大の馬鹿をぶちかます。
どれも似たような感じだが、微妙に違うのだ。
「(方針はあるが方法がなぁ……)」
一応思い付いた作戦が一つある。
というか他に思い付かない。
「(死ぬかもしれんが今更か)」
死ぬにしても自分の作戦で死ぬか、敵に殺されるかの違いしかねえのよ。
覚悟を決めて反撃の準備を始める。
混沌神製スライムなはずなんだけど、なんか毎回死にかけてるよな俺。
なんなら一回……いや沢山死んで、生き返った記憶あるんだよね。
おかげで今の状況でも冷静でいられるんだけどね。
何も嬉しくねえのよ。
あと教授は準備終わるまでこっち来んなください。
てかその追跡技術について聞くの忘れてたわ。
「教授ー、走りながらで良いからその追跡技術教えてくれない?」
大声で質問してみる。
「君が動けなくなった時に教えてあげようじゃないか」
ちゃんと答えが返ってきた。
でも、それじゃ意味がないのよ。
良き教育者として教えた事を人生に活かせるようにしてくれないと困るよ教授。
まあ幸い地図は頭の中にあるから、行き止まりは回避できてる。
準備が終わるまで命懸けの鬼ごっこの始まりだ。
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