第119話
俺達は教会自治領に到着した。
ナッツィナに教会自治領からの復興支援が来た時に、ソノヘンさんがせっつかれて自治領に向かう事になった。
駅馬車が再開されてから、すぐにナッツィナを発った。
ちなみにガザキ達も教会自治領に向かうとの事で一緒になった。
ガザキ達は先の一件で団員を失いすぎたため、しばらく活動を控えるらしい。
しばらくは傭兵にとって安全な地である教会自治領で過ごすとの事だ。
教会自治領の町並みは石か煉瓦造りの建造物が多く見える。
この辺りの地形は、南東は大きな河と隣接していて、西は海峡があり、南北にかけて長い都市が広がり、街道もそこから伸びている。
そして東から北東にかけて大教会と呼ばれる山のような教会がそびえ立つ。
と、ソノヘンさんから聞いた。
「こっから見ると、教会ってか城とか宮殿っぽく見えるな」
見た目ゴツイし、城壁みたいなのあるし。
「無駄に大きいもんね」
俺の独り言に対してイナーシャが反応した。
「入った事あるのか?」
「あるよ。入ってすぐの聖堂って所しか知らないけど」
「というか奥に入れるのか?」
「知らなーい」
俺とイナーシャが話してると、ソノヘンさんが答えを言ってくれる。
「私が居た頃と変わっていなければ、資料館や図書館などの入口に近い施設になら一般の方でも入ることができます。大教会の奥は貴重、又は重要な資料などがあるので、要職に就く者だけしか入る事はできません」
「なるほど」
ソノヘンさんと言えば、ここで依頼は完了になるんだよな。
「ところでソノヘンさんはこの後どうすんの?」
「私は大教会に向かいます。アリドさん達はどうされますか?」
「俺は宿取って休む。当分働きたくない」
俺の迷いのない回答に、ソノヘンさんは苦笑を零した。
「では、一旦別れましょう。依頼書にはサインしておきましたので」
「うむ」
今生の別れになる訳でもないし、別に構わんだろう。
後は教会に適度に情報を渡して、俺が頑張らなくても『外なるもの』の脅威を退けてくれれば良いんだ。
いつかの死霊術師のように『外なるもの』を呼び込む者も含めて。
とは言え、混沌の神様曰く「まだ」俺が何か頑張らないといけないらしい。
「アリド、この町の傭兵ギルドへの案内は必要か?」
ソノヘンさんから依頼書を受け取り、別れた所でガザキが声をかけてきた。
「あー……ちょっと待ってくれ。ツレ次第で優先順位が変わる」
クタニアとアルシスカを見ると、ユーティと何かを話している。
アルシスカが俺の視線に気付くと、こっちに寄って来た。
「司祭が離れて行くが、良いのか?」
「ソノヘンさんは教会のお偉いさんに呼ばれてるしな。俺らが勝手について行くと逆に迷惑がかかるかもしれん」
アルシスカはチラリと去っていくソノヘンさんの背を見る。
「まあ、そうだな……」
その声から、少し寂しさのようなものを感じた。
何だかんだ言ってソノヘンさんを仲間と認識していたのだろう。
「別に二度と会えない訳じゃないさ。何かあったら俺に依頼が寄こされる可能性もある。まずは自分達の事だ。そっちには宿の確保を頼みたい。俺は傭兵ギルドに行って情報収集と依頼達成の報告をしてくる」
「分かった……だが、合流はどうする?」
うん、どうしよう。
いやでも、この町を知ってる奴らが居るな。
俺はすぐ傍に居るガザキの方を向く。
「ガザキ、どっか良い感じの集合場所ない?」
「む……そうだな、大教会の門前の広間とかが分かり易いが……」
「門て一つしかないのか?」
「……いや、複数あるな」
駄目じゃん。
「親父、アタシがアリドとギルドに行くから、あっちの道案内してやったら? あと大教会近くの宿って高いでしょ。合流場所はウチの団の拠点とかでも良いじゃん」
イナーシャから妙案が飛び出す。
「待てイナーシャ。絵面的にそれは無いだろう」
眉をハの字に曲げて及び腰になるガザキ。
「俺はイナーシャの案は道理に適ってると思うぞ」
「ほら!」
「待ってくれ。せめて俺とイナーシャを逆にしてくれ。頼むから。本当に頼むから」
ったくしょーがねーなー。
ガザキが余りに必死なので、要望通りに人員を分ける事にしよう。
「という訳でアルシスカ。このエルフ、イナーシャって言うんだが、こいつに案内されておけ」
「確かにガイドがあった方が良いのは分かるが……」
アルシスカが「大丈夫なのか?」と言った感じの目をイナーシャに向ける。
「えー」
イナーシャはこの班分けに対して不満気だ。
「ユーティって居るだろ。あの目を閉じてんの」
俺が指差すと、イナーシャの目がユーティの方を向く。
「うん、あの凄く綺麗な人……」
語尾に小声で「怖いくらい」と付け加えたのが聞こえた。
中々勘が良いな、俺もそう思うんだ。
だが今は行ってくれ。
「なんか精霊って言う魔力生命体と交信できるらしいぞ」
「えっ!? 本当!?」
もの凄い食い付いてくる。
イナーシャの好奇心の強さは教会自治領までの旅で嫌と言うほど実感したものだ。
「直接聞いてこい。タダで教わるのが悪いと思うなら、案内を買っておけ」
「んー……親父、良い?」
好奇心に突き動かされる前に保護者に確認を取るあたり、性格は良いんだよな。
「アリド、あのユーティという人は……その、どういう人なんだ?」
「よく分からん。
「急に私に振るなッ!? ……ゴホン、あー、まあ、不思議な所もあるが、悪い人ではない……はずだ」
ガザキとイナーシャの視線を浴びて、しどろもどろに答えるアルシスカ。
人見知りなんだろうか。
そういやソノヘンさんの事は信頼していたようだが、結局名前では呼ばなかったなコイツ。
「おっ、いつもの威勢はどうした?」
「お前みたいに、誰に対しても無作法だと思うなよッ!?」
「ちゃんと相手を選んでマウント取れる喋り方を選んでるつもりなんだが?」
「余計タチ悪いわッ!!」
アルシスカが叫んだ所で、堪えきれなくなったようにイナーシャが笑い出した。
「ほら、漫才やってんじゃねーんだぞ」
「お前が言うなああああッ!!」
このまま延々と弄れそうだが、この辺にしておこう。
「とりあえずガザキ、イナーシャを派遣するかどうか決めてくれ」
「……いや、そこで会話打ち切って良いのか? ……まあ、そうだな、彼女が言うに、問題のある人物ではないのだろう」
さっきまで笑ってたイナーシャは呼吸を落ち着けている。
しかしガザキの話はちゃんと聞いてるようだ。
「分かった、イナーシャの案を受け入れよう……イナーシャ、気を付けるんだぞ」
「はー、はー……うん!」
イナーシャは満面の笑顔で返事をした。
「じゃ、宿探しよろしく」
なぜかアルシスカは顔を赤くしてプルプル震えていた。
「お前、後で、憶えてろよ……」
「もう勝負ついてるから」
そう言い残してその場から離れる。
「ガザキ、案内」
ガザキの背中を押して歩かせる。
アルシスカの恨めしそうな視線を背中に感じるが、放置しておこう。
「なあアリド。彼女、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫、性格は何だかんだマトモだよ」
「いや、彼女の性格じゃなくて……口論とか、喧嘩とか……」
「良いんだよ。あれも遠慮せず言いたいこと言えるって関係の一つだ」
「……そういうものか?」
「そういうもんだ。それより……」
それからガザキにこの町のことを聞きながら傭兵ギルドを目指した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます