第114話


 仕事、仕事、仕事。


 食料調達、インフラ復旧、残骸除去。


 やることが……やることが、多い!


「仕事、したくねぇ……!」


 俺は魂からの言葉を絞り出すように吐き出す。


 二体の『外なるもの』との戦いが終わった後、復興作業に追われていた。


 生き残った人の中で、労力になると認められた人物には仕事が割り振られた。


 あれだけ頑張ったのに、俺に押し付けられた仕事は多かった。


「多すぎる……認められるか……こんな……不平等っ!」


「いや、能力に比例した仕事を割り振ってるだけさ。対価も払ってるだろう?」


 ツッコミを入れてきたのはクールなギルド長。


「金は要らん、休みを寄こせ」


「そんなものは無いよ」


「もしかして人の心も無いんか?」


「あるさ。ちゃんと相手を選んで、どういった心を向けるか分けてるだけで」


 俺に対しても超クールだねギルド長。


 冷酷とか冷徹って意味で。


「復興とか国がやる仕事じゃねえのかよ」


「金の出所は国さ。これでも役人相手に吹っ掛けて来たんだよ?」


「そりゃ大した敏腕で」


「ふふふ、褒めても仕事しか出せないよ」


「じゃあ貶したら?」


「きつめの仕事が出てくるだろうさ」


 どの道、仕事しか出てこねえじゃん。


 ちなみに今からやる仕事は、魔導髄核とかいうやつの調査。


 魔導灯などのインフラ設備に魔力を供給するための導線だそうだ。


 魔力を蓄えるのはそのまんま魔力槽と言って、これの復旧は最初に行った。


「髄核がズレたり、切断されたりすると魔力が漏洩して、その場所がそのまんま魔物に変化したりするからね」


「動く土人形みたいな?」


「土だけならまだいいさ。石や金属が魔物になると厄介だよ」


「へー」


「それで、これから行くのは『外なるもの』によって滅茶苦茶になった髄核の所さ。まあ魔物が出ても、アリドなら大丈夫だろう?」


 吸収すれば良いだけだし、別に構わないか。


 問題は魔物が俺から逃げ出さないかだ。


 なんかすっごい逃げられるんだよなぁ……。


「ところで何で『髄核』って呼称なん? 生物でもあるまいし」


「いいや、生きてるさ」


 予想外の答えに驚く。


 だが少し考えれば何となく理由は分かった。


「……ああ、魔力に触れ続けると魔物になるってゆー」


「その通り。だったら最初から魔物を利用すれば良いってね」


「生きてるなら叛乱とかは……まあ当然対策されてるか」


「思考能力は全く無い人造の魔物だからね。それに快適な生息環境を人類が提供してるんだ……普段ならね」


 ねえ、なんか嫌なフラグ建ってない?


 だが前世でも家畜化によって生態が変化した生物はいるし、大丈夫と信じたい。


 俺とギルド長の二人は、残された半分の町の端まで到着する。


 先に他の傭兵が数名集まっていた。


「あ、アリドだ!」


 その中の一人、イナーシャが俺を指差す。


 他の面々もその声に釣られてか、俺に視線が集まる。


 どんな風に俺の話が広まっているかは知らないが、ざわつく傭兵達。


 ギルド長が手を叩く音を響かせて、傭兵達を静める。


「お前達、ちゃんと仕事の準備はできてるんだろうね?」


「問題ありません、ギルド長」


 代表して答えたのはガザキだ。


「よし、じゃあ早速仕事に取り掛かろうか。二手に分かれて今のナッツィナの外縁を確認するよ」


 みんながんばえー。


 俺が他人事のように眺めていると、いつの間に横に来たイナーシャが俺の手をガシッと掴む。


「行こ」


「いってらっしゃい」


「ほら早く」


「話聞かねえなコイツ」


 ぐいぐいと無遠慮に引っ張られる。


「アリド、そっちはアンタが隊長やりな。副長はガザキだ」


「は?」


「分かりました」


 あのギルド長、俺と話したこと覚えてる?


 髄核だのなんだの、何も知らないんだが?


 キレそう。


「キレそう」


「落ち着けアリド。仕事の内容は俺が知っている」


「じゃあガザキが隊長で良いじゃん」


「いや、一番強い奴がやるのが一番良いんだ。俺達傭兵にとって『強い』ってのはそれだけ重要な事なんだ」


 つまり象徴的な意味合いが強いのか。


 確か傭兵は国籍を持てないんだったな。


 なら一応理解できなくはない。


 傭兵の拠り所とは、国家にも引けを取らない「強さ」なのだろう。


「じゃあ実務は全部投げて良いな」


「……大半の事はやろう。だが最低限の事はやってくれ、頼むから」


 懇願するように言われた。


「最低限で良いんだな? 言質は取ったぞ」


「……ああ、それで良い」


 若干疲れた様子のガザキだが、頷いたので何も問題ないな。


 ギルド長の方を見れば、既に傭兵をまとめ上げて出発していた。


 仮設傭兵ギルドの椅子に座ってるのではなく、必要とあらば現場に出て実績を残しるからこそ、ああも信頼され、上手く傭兵を使えるのだろう。


 対する俺は本当に戦闘力だけだ。


「俺に期待すんなよ。今回の仕事の内容なんも知らんからな、マジで」


「分かった。必要な事があったら俺から言おう」


「準備は終わってんだっけ? じゃあこっちもさっさと行くか」


「ああ……おい、出発だ!」


 ガザキの号令に従い、傭兵達が何かの道具を持って移動を始める。


 このまま見送りたい気分だが、イナーシャが未だ俺の手を掴んで離さない。


「アリド、あの変な魔法の事……」


「まず何が変なのかが分からん。具体的かつ簡潔に説明せよ」


「むぅー」


 頬を膨らませて不満でいっぱいな顔を見せてきた。


 ここ数日で何度か同じ事を聞かれたが、こう返すと言葉に詰まるようだった。


 その後、腕や胴体に頭をぶつけてくる。


「アリド、少し良いか?」


 イナーシャからの抗議頭突きを受けていると、ガザキから声がかかる。


 俺の仕事が始まると、イナーシャもじゃれつくのを止めて真面目な顔になった。


「少し離れた所に魔物が発生したようだ」


「どこよ」


 俺が聞くと、ガザキが指を指して方角を示す。


 魔力視をしてみると、確かに何かが動いているようだ。


「対象は廃屋や土、植物が魔物化したゴーレムタイプが複数。何が核になってるかは分からないが、アリドの精密な魔力視なら分かるだろう? 処理を頼む」


「り」


 傭兵達にはスライム化の魔法という感じで伝わってるはずなので、遠慮せず使う。


 ガザキの言った通り、精密な魔力視なら魔物の心臓や核の位置を特定できる。


 触手でサクッと数体まとめて吸収する。


 魔物は魔力が濃く、吸収すると総量も増えるし回復量も多い。


 俺から見れば、良いこと尽くめな存在だ。


 ただ気付かれると、案の定、今回も逃げ出そうとする魔物達。


「逃がさん」


 一度見つけたからには逃すつもりはない。


 枝分かれした触手が残った全ての魔物の核を貫き、吸収した。


 うまい。


 魔物が俺に気付くより早く、傭兵達が魔物を見つけてくれれば吸収できるのだ。


 やはり持つべきは仲間だね。


「やっぱり変だよー……」


 イナーシャが俺の触手をガン見して、さすったりペチペチ叩いたりしてくる。


 魔物が居なくなって、仕事が一段落ついた判定なのだろう。


「魔法なのに、魔術みたいで……でも魔力の変遷は……」


 ぶつぶつと独り言を呟くイナーシャだが、俺が触手を人の手にすると……。


「あぁー……」


 なさけない残念そうな声を漏らす。


 もの欲しそうな顔を向けられるが、甘やかすつもりはない。


「ほら行くぞ、さっさと仕事終わらせて帰るんだ」


 イナーシャが俺の手を掴んで離さないのは、たぶん知的好奇心によるものだ。


 ガザキが再度傭兵達に指示を飛ばし、髄核の調査とやらが再開される。


 一部の傭兵からは変な視線を向けられるが、ここ数日でもう慣れた。


 仕事はしたくないが魔物を吸収できるなら、まだ我慢できる。


 早く終わらせてダラダラしたい。




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