第112話
※ 三人称視点
ハーゲンディの極光の剣が深緑の壁を斬り裂くものの、再生の方が早い。
壁によって空が閉ざされるまで、あと僅か。
ハーゲンディは自分への攻撃を対処するよりも、壁を壊して少しでも封鎖を遅らせる事に注力した結果、徐々に傷が増えてきていた。
「――――っ!!」
突然、曖昧だった『外なるもの』の力の輪郭を明瞭になった。
そしてハーゲンディは、苦境の中で研ぎ澄まされた感覚によって、あるものを感じ取る。
それは『外なるもの』、
劣勢を覆す光明を見い出したハーゲンディは、より一層奮起する。
核の位置はハーゲンディから見て下方、ナッツィナの町の半分を地中から押し上げて崩壊させた部分にあった。
「壁による封鎖の妨害と、核への攻撃、同時にやらねばならぬな……」
ハーゲンディが祝詞を唱え、神に祈ると、赤と青の光が現れる。
そして、自分と聖域に守られた領域を保護する為の結界を張った。
赤い光が空に向かい、空を覆おうとする壁に隣接すると太陽のように熱く輝く。
放たれる熱によって光の周囲が燃え盛る。
壁は赤い光を迂回するように高く伸び、あるいは低い位置から横に壁を伸ばし、熱の届かない位置で封鎖を完成させようと動く。
その抵抗に対し、赤い光は意思があるかのように縦横無尽に動き、壁を焼き払う。
青い光は徐々に輝きが増していく。
やがて直視することもできないほど眩しくなると、ゆっくりと動き出す。
光は徐々に加速していき、彗星のように光の尾を引いて、魔力の核を目掛けて深緑の大地を穿つ。
「む……あれは?」
彗星によってできた傷穴ではなく、まるでそこにあったものが突然無くなったかのような空白があった。
ハーゲンディはその空洞の中から人の気配を感じた。
それと、人とは決定的に違う、しかし極めて人に似た気配。
彼はその気配を良く覚えていた。
「この感覚、アリドか」
ハーゲンディは愛馬と共に空洞へ突入する。
青い光は確かに魔力の核を貫いたが、その核のサイズが大きすぎて、小さい穴が空いた程度の傷しか与えられなかった。
小さいと言っても、直径四十メートルはある。
ハーゲンディは傷穴から緑の偽神の体内に侵入し、体の一部を
追いついたハーゲンディが、ソノヘンニールを助けた時と同様に、半透明な光の足場を作り出す。
その足場の上にアリドが降り立ち、スライムの触手で抱えていた五人の傭兵を横たえた後、変形していた部位を人の形に整える。
向き合うアリドとハーゲンディ。
ハーゲンディは何と声をかけるべきか少し悩むが、先にアリドが口を開いた。
「俺はもう働きたくないんだが?」
「第一声がそれか。うぬは吾輩を何だと思っておる」
「めんどくさい使徒」
「正義の使徒であるぞ?」
この状況においても平常運転なアリドに、ハーゲンディは思わず苦笑が零れ、安堵と呆れが半々の感想を抱く。
「敵の心臓は上だぞ」
「分かっておる。うぬらの安全の確保が目的だ」
「ふーん、じゃあ倒した後に何が起きても良いようにしといて」
「この巨体が死した後か……確かに何も起こらぬはずもないか」
アリドは光の床に腰を下ろして、大きく息を吐く。
もう動きたくないと表情と雰囲気と姿勢でアピールしている。
「じゃ、後よろしく」
「うむ、任されよ。アリドは傭兵らを保護を」
「まーそのくらいなら……あ、狭くなってきてるから急いでね」
彼らの居る空洞が狭くなりつつあったが、アリドは緊張感の欠片も無い。
ハーゲンディも当然気付いていて、その上で助ける選択をした。
「問題ない。万事このハーゲンディが解決して見せよう」
アリドをこの場に残し、ハーゲンディは愛馬と共に緑の偽神の核を目指す。
早急に決着をつけるため、極光の剣で核を両断しようとする。
核に満ちる濃密な異質魔力と、極光の剣が相殺し合い、剣は途中で消失した。
「まだだ!」
ハーゲンディは更に上昇し、青い彗星が開けた穴まで戻った。
核を貫通した、この傷穴を起点にして極光の剣で核を斬り裂く。
追い打ちとばかりに、青い彗星が戻ってきたようだ。
ようだ、という表現なのは、青い彗星が速すぎて視認が困難だからだ。
ただ残る光の尾だけが、それがそこを通った事を証明していた。
ハーゲンディの攻撃は勢いを増していき、ついに
宇宙に届くほどの巨体が、動きを止める。
赤い光によって燃やされた壁が、消火される事がなくなった。
空洞が狭まることがなくなった。
軋む音が、割れる音が、砕ける音が至る所から響いてくる。
巨体の端から緑色が失われていき、茶褐色の枯れた姿へと変わっていく。
緑色だった壁が燃え落ちていく。
覆われかけていた空が開けた。
遠い空が僅かに白み始めている。
夜が明けようとしていた。
ハーゲンディは崩れ落ちる緑の偽神の残骸を、光の剣で斬り払っていく。
燃えたままの壁の消火や、倒壊する残骸の塊の処理など、戦いが終わった後も、生き残った人々の仕事は終わらない。
ちなみにアリドは空洞で寝そべっていた。
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