第110話
残存魔力は一割強。
割としんどい。
突き刺して爆破した部分がそのままなのに気付いて、ガザキ達に合図を送った。
しばらく『外なるもの』と殺し合ってると、彼らが突撃してきた。
羽虫のドローンを打ち上げ、この場を俯瞰して見れるようにしておく。
ジレンが使えた『分離』の魔法を使えば、短い時間だが無線でドローンと情報をやりとりできるようになった。
「(問題はどう弱点を伝えるか、そして攻撃させるか)」
俺に余力はほとんどない。
止めを刺すのは傭兵達に任せる事になる。
敵の余力が分からないが、攻撃が緩和するどころか激化してるので、たぶん攻撃リソースが尽きる事は無い。
だから俺は、敵にとっての最大の脅威であり続けなければならない。
傭兵達のリソースは『外なるもの』の撃破に全部注いでほしい。
「(こっちを見ろ)」
圧縮した
強度という面では敵の装甲を上回る圧縮触手だが、下から貫けたのは敵の自重が加わった事が大きい。
手足を広げ、可能な限り身を低くする『外なるもの』。
対するこちらも、形状を平べったいスライムに変えて「ちょっとでも浮いたらすぐ潜り込むぞ」と圧をかけていく。
敵に対し、警戒せざるを得ない状況を作る。
傭兵達が近付いて来たのに反応した『外なるもの』は、口から生やした白い腕を伸ばし後方を薙ぎ払おうとする。
その手を後ろに使い、浮けないなら隙ができる。
俺がその間に詰め寄ると、白い腕の関節部から追加の白い腕が生えた。
不意打ち気味に放たれた正拳突きだが、分かりやすい隙を晒す時は罠だと経験則から分かっているのでギリギリで回避した。
三本目を警戒するが、それは来ない。
代わりに壁を作って進路を妨害してきた。
「(乗り越えるか、ぶち破るか、迂回するか……)」
余力的にぶち破るのは……と言いたい所だが、ぶち破る。
魔力を込めて圧縮触手を壁に突き刺し、爆破する。
時間が惜しい。
俺がこの壁に時間をかけるほどガザキ達に及ぶ危険が増える。
あの傷も時間が経つと塞がってしまうかもしれない。
外もいつまでも無事とは限らない。
スライムの体と魔力を消費してでも強引に間合いを詰める。
手足を動かし、俺から這って距離を取る『外なるもの』。
敵の向こう、ガザキ達が何かを『外なるもの』の足元にばら撒くのが見えた。
這って俺から離れようとする限り、敵はそれの上を通る必要がある。
「(成程、良い仕事だ)」
口から生やした手で、傭兵が撒き散らした何かに触れる『外なるもの』。
その何かが弾け、粘着質な物体が現れて、敵の手と床をくっつけた。
動けなくなった『外なるもの』の手足に追いつき、新たに生やした圧縮触手で攻撃する。
触手に付与する変質魔力は最低限の『加速』のみだが、それでも『外なるもの』を支える手足を破壊力は十分だった。
バランスを損ない、『外なるもの』の巨体が傾く。
「見えたぞ、あれだ!」
身を低くした傭兵が『外なるもの』の下部に出来た傷穴を指差す。
「(気付いてたのか)」
まあ狙いを伝える手間が省けたのはありがたい。
俺は続けてこちら側の手足を壊していく。
十メートルもある巨体で、重量もかなりあるのだ。
支えを失えばまともに動けなくなるだろう。
凍らせる事で再生が遅れるのは分かったので、効き目は悪いが、変質魔力で強引に傷口を凍らせてしまう。
そして残りの魔力は一割を切る。
『外なるもの』は白い手を自切して、残った手足で俺に突撃をかましてきた。
刺剣型の触手を突き出すように構えれば、敵から突き刺さりに来るも同然。
その勢いもあって、目論見通り突き刺さる。
残る魔力の大半を注ぎ込み、『冷凍』『爆発』を付与して分離する。
轟音と衝撃が空気を震わせる。
「■■■■■■■■■!?」
吹き飛ばされながら『外なるもの』の悲鳴を聞く。
俺はもう何もできない。
羽虫ドローンでガザキ達の様子を見るくらいか。
少し前からイナーシャ以外の四人は魔導具らしき物を使って水を作り出していた。
膨大な量の水が溢れ、それをガザキが魔法で操って『外なるもの』の足元へ集めていた。
俺への突進を見て、背を押すように勢い良く水を噴出し、ひっくり返そうとしたようだった。
水に押されて体は大きく傾き、残った手足は地面を掴めず、そのまま続けば『外なるもの』の巨体が裏返っていた事だろう。
だが魔法を構築していた魔力は『外なるもの』の魔力で相殺され、ただの水に戻る。
その時、イナーシャの魔術が複数発動した。
まず五人を覆うように半透明の膜が現れる。
次に保護膜の外に魔術による闇の塊が現れ、急激に温度を低下させていく。
水は凍りつき、氷柱となって『外なるもの』の体を支える。
今の傭兵達には、俺が開けた傷穴が良く見えているだろう。
だが『外なるもの』の赤い目が輝くと、白い壁が現れてガザキ達を覆う。
「(これは……流石に詰んだか?)」
だが魔術は変わらず機能している。
魔術の闇が『外なるもの』に触れ、なぞるように動くが、特に何も起きない。
そこで羽虫ドローンが魔術に耐えれなくなったのか、落ちてきた。
「(この魔術、どういう効果だ?)」
俺の羽虫ドローンは普通の虫とは違う。
寒いくらいで動かなくなる事は無いはずだが……。
見れば『外なるもの』は全身が凍り付き、動けなくなっているようだった。
「(ソノヘンさんから教わった魔術の定義は、魔力によって起こされる物理現象だったはず……)」
行き過ぎた化学は魔法と変わらないという言葉が前世であったが、この世界でも行き過ぎた魔術に対して同様の事が言えるのだろうか。
俺は自分の体に変化がないか確認してみる。
凍り付いているが、それだけ……いや、中身含めて体が動かない。
正確に言えば動かなくなった。
さっきまで動かせてた視界が、今はピタリと固定されている。
なけなしの魔力は動かせた。
「(運動が止められてる……?)」
普通の生物ならこれで死に至るだろうが『外なるもの』は普通ではない。
だがそんな心配は杞憂に終わった。
音もなく、握り潰されるように『外なるもの』が内側にへこんでいく。
最後はくしゃくしゃの紙屑のようになって消えてしまった。
魔術で作り出された闇は、いつの間にか消えて無くなっていた。
徐々にだが温度が戻りつつあるように感じる。
しばらくすると、ちゃんと体が動くようになった。
「(まあ何をやったかは、今は良いか)」
大事なのは『外なるもの』を倒せた事。
ガザキ達は上手くやってくれた。
今はそれで良いだろう。
最低限、人の姿を再構築してガザキ達の所に向かう。
あ、そうだ。
ここで女になれば、ガザキのモンペを回避できるんじゃなかろうか。
最低限の機能に抑えるのなら、構築する部品は男より少なくて済む。
疲弊した精神で考えた結果、そうしようと思った。
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