第108話
地下八階を難なく通り抜け、地下九階。
下りて早々にご対面だ。
ひたすら広大な大部屋の中央、遠近感が若干おかしくなりそうな異形の巨躯がそこに在った。
無数の赤い目玉が俺達を捉えると、怪しく輝く。
精神に何かがこびり付いてくるのを感じる。
「対精神防御、展開しろ」
「了解だ」
ガザキ達が魔導具で精神を守る防壁を張ったようだ。
俺はランゴーンで気が狂うほど精神攻撃を食らったので、対策の研究と開発は十全にしてある。
なのでその何かは容易に撃ち払えた。
とはいえ『外なるもの』が相手だ、簡単に安心はできん。
「まずは俺が行く、事前の作戦通りだ」
返事を待たず、俺が先行して一気に近寄る。
そして『外なるもの』の前に一人の傭兵が立っているのが見えた。
恐らくアレが行方不明になった傭兵だろう。
「待ってく……」
触手を放ち頭部を粉砕し、発火させる。
燃え方が悪い。
まだ生身だったか。
なら吸収だな。
ただし背骨は吸収せずに破壊する。
シヌフラッグとかいう名前の傭兵を、跡形も残さず消し去った。
続けざまに『外なるもの』に攻撃を放つが、やはり魔力が相殺された。
俺の攻撃を受けた『外なるもの』は不愉快そうに体を揺らすと、口から粘液と共に白い枯れ木のような手を生やして俺を掴もうとしてくる。
「キモ」
魔力で加速して逃げる。
あの手、加速しないと逃げるのが困難なくらいに速い。
関節はあるが、人とは違って可動域に制限が無いようだ。
手を口の中に仕舞うと、今度は赤子のような手足に力を込めてジャンプした。
同時に赤い目玉が輝くと、出入り口と天上のない小部屋が生成される。
丁度『外なるもの』がすっぽり収まるであろう大きさだ。
「ちょ」
もっと精神的な搦め手が多いかと思ったら物理全開じゃねーか。
触手を束ね、
溶接工場で聞こえるような甲高い音が鳴り響く。
この一撃で『外なるもの』の外皮が削れ、僅かにだが落下軌道を逸らせた。
これで『外なるもの』は小部屋の壁の上に突っかかり、安全な隙間ができた。
気になるのは攻撃で摩擦熱がかなり出てるはずなのに発火には至らなかった事だ。
「耐熱性が高い?」
思わずそう呟きながら、隙間から脱出する。
あの赤い目玉が再度輝くと、小部屋は消失した。
迷宮を創造する力を攻撃に転用するか。
ここに来るまで妨害が無かった事を考えると創造の範囲は限られると推測できる。
このまま後ろに下がるとガザキ達との距離が縮まるので、彼らと挟むように『外なるもの』の背後に回る。
次はあの目玉を狙うか。
俺が攻撃に移るより早く、『外なるもの』が旋回と同時に口から生やした手で裏拳を放ってきた。
枯れ木のような手とは言っても、サイズが段違いだ。
凄まじい速度で迫る二メートルはあろう拳を回避しきれず、大部屋の端までぶっ飛ばされた。
俺が普通の人間だったら潰れたカエルみたいになってた事だろう。
スライム的には問題ないが、魔力的にいくつか問題が出た。
外面の擬態用の魔力が壊されたのだ。
つまり完全にスライムの姿に戻った。
内部は無事なので、目だけを再生すれば視界は問題なく確保できる。
状況は『外なるもの』がガザキ達に狙いを変更した所のようだ。
擬態の再構築をするような暇はない。
加速して急接近し、掘削機型の触手と、視認しづらい針の触手を展開。
俺に反応し、再度裏拳を放ってくる『外なるもの』だが、それに掘削機型をぶつけ合わせ、針で目玉を狙う。
拳と掘削機では、俺の掘削機が勝った。
白い腕が千切れ、勢いのまま手首から先が大部屋の奥まで飛んでいく。
針を目玉に突き刺し、針先に『発火』『爆発』の魔力を込めた後に分離。
ポップコーンの弾けるような軽快な音と共に、赤い目玉が湿った音と共に飛び散る。
「■■■■■■■■■■■■■!!」
何十、何百もの人が一斉に絶叫したような悲鳴が上がる。
火は燃え上がらない。
「(やはり火は通らないか)」
この戦闘に置けるガザキ達の役割はまだ先。
今はまだ、俺が『外なるもの』の初見殺しを引き出す段階だ。
赤子のような手足に力を込める『外なるもの』。
再びジャンプするのかと思ったら、恐ろしい速度で突撃された。
表面に魔力の障壁を展開したが、相殺されて意味を失い、衝撃をモロに受ける。
物理攻撃は効かないが、魔力を壊されるのが厄介すぎる。
「(バフ消去してから攻撃か、この脳筋がよぉ!)」
また部屋の端まで飛ばされ、今度は体内の魔力で生成した器官も損傷を受けた。
再生含めて魔力の消耗が激しい。
「(魔力に対してメタ張ってんのかコイツ)」
魔力が生命線である俺にとって大分相性が悪い気がする。
コイツには魔法など概念による攻撃は効果が薄いと見える。
逆に有効なのは強力な物理攻撃や、魔力が起点であるものの物理現象である魔術であると予想する。
イナーシャの魔術が攻略の鍵になりそうだ。
ますます傭兵の元にコイツを向かわせる訳にはいかなくなった。
一応俺にも取れる手はある。
変質魔力『圧縮』で身体の一部を硬質化させる。
圧縮の魔力が散っても、硬化した部分が元に戻らないのは結構前に確認済みだ。
今度の『外なるもの』は俺の方を向いたままで、警戒されている。
近付こうとすると、赤い目が光って小部屋に閉じ込められた。
出入り口はないが、天井はあった。
「(閉じ込められた)」
天井に掘削機型の触手を叩き込む。
天井が薄いと読んだが、読みは正しく簡単に穴を開けられた。
その穴から『外なるもの』の巨体が見えた。
天井を壊すのに魔力を消耗したため、今度は落下軌道を逸らせない。
「(上等だ)」
圧縮して尖らせた部分を上に向けて突き出す。
自分から串刺しになるが良い。
轟音と共に天井を粉砕し、『外なるもの』が俺の直上に落ちてきた。
硬い何かを強引に突き破る感触が伝わってくる。
先端に変質魔力『爆発』『冷凍』を付与。
高熱がダメなら低温はどうだ?
「(多少自爆に巻き込まれるが、仕方ない!)」
くぐもった爆発音と衝撃が俺の全身を貫く。
「■■■■■■■■■!!?」
悲鳴と共に『外なるもの』が飛び跳ねて俺から離れた。
多少体積が減ったし、衝撃で中身もボロボロだが再生はできる。
残存魔力は二割といったところか。
戦闘前に八割ほど残ってた事を考えると、短時間で消耗しすぎた感は否めない。
これは必要経費だと割り切る。
離れた『外なるもの』を観察すると、随分と苦しそうに息をしている。
いや内側から爆破されて何で生きてるんだよ。
幾つかの目玉は輝きを失っており、口からは凍り付いた元粘液を吐き散らしながら、しかし傷の再生が始まっている。
時間はかけられない。
だが仕留め方は思い付いた。
ガザキ達と上手く協力できれば勝てるはずだ。
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