第93話
俺とギルド長で動員できる傭兵をギルドに集め、識別を行った。
結果、集まった人の中に異変は見えない。
「居ない」
「この中には、だね」
「来てないのは?」
「呼んでも来ないなら、そういう事だろう」
この場に居ない傭兵は要警戒となる。
警戒対象の中にはジレンやメガネが混じる事となった。
「(虫に傭兵や衛兵の目を誘導して、その間に例の野菜の生産と流通させる作戦だったのかね? 敵も頭使ってくるなぁ)」
たぶん虫はバレても問題なかったのだろう。
必ず食い付くと分かってる餌を小出しにされていた気がする。
「アリド」
鱗を生やした大男、ガザキに声をかけられた。
顔色は別れた時より幾分良くなっているように見える。
「休みは取れた?」
「ああ、問題ない」
この男の鶴の一声によって多くの傭兵が集まった。
人望というステータスは俺には無いものだから助かるね。
「それより何の目的で傭兵を集めたか、まだ聞いてないんだが」
「ギルド長が喋ってくれるよ」
集まってざわついている傭兵達だが、ギルド長が一度手を叩くと静まり返り、次第に彼女へと視線が集まる。
「本日諸君に集まって貰った事には理由がある」
静かに、しかし良く通る声が一同の耳に届く。
「今起きてる事件について知らない者も居るだろうから、簡潔に説明するよ……」
彼女が事のあらましを説明しようとした時、ギルドの扉が開かれ、ド派手な男が入って来た。
服もそうだが、髪の色が特に派手だ。
頭皮に近い部分は鮮やかな青、そこから毛先に向けて緑になるグラデーションで、所々に金色に縁取られた黒い斑点のようなものが所々に混じっている。
「吾輩も同席してよろしいか?」
「(孔雀?)」
物理的にキラキラしてる男の登場に傭兵一同呆気に取られる。
「なんだい、使徒様のお出ましとはね。教会には従わなかったのかい?」
傭兵達が驚きに満ちた顔でギルド長と男を交互に見る。
「フッ、吾輩の正義は、教会の正義と必ずしも一致はせぬのだよ」
格好つけたように言い放って髪をかき上げる使徒。
長い髪が広がると、孔雀が羽を広げたように見えなくもない。
「まあいいさ……ほら静かにしな傭兵共、使徒が来るほどの事態が町に起きてるんだ。そして時間もあまり残されてない。それを説明する」
固唾を飲んでギルド長に傾注する傭兵達。
俺は内容を知っているので、現れた使徒に目を向ける。
あちらも俺に気付いたのか、顔を向けてくる。
視線がぶつかった。
そのまま観察してみるが、見た目が派手という事しか分からなかった。
これといった感情や意思を、顔からも目からも読み取れない。
「……というわけだ、ゴロツキ共が集まって何かしようとしてるのも、何かの予兆だろう。ここに集まった連中で部隊を編成し、町に展開してもらうよ。報酬はたんまりあると約束しよう」
ギルド長の説明が終わったようだ。
傭兵達は一気にざわつき出す。
どこかの傭兵が伊達男な使徒に声をかけた。
「なあアンタ、ギルド長が言うには使徒なんだろう? 本当に化け物がこの町に?」
「教会が大敵と指定する程の存在がこの町に居る事、吾輩が保証しよう」
「マジかよ……しかも逃げられねえって……」
ギルド長が声を張り上げて指示を飛ばす。
「ガザキ、あんたはこのメモに従って傭兵団の戦力を上手く配置しな! アリド、ハーゲンディ、二人はこっちに来な!」
ギルド長はガザキに一枚の紙きれを渡し、俺と使徒を呼ぶ。
まあここは従うか。
ギルド長に従って歩き、適当な一室に入って扉に鍵をかける。
魔法だか魔術だかで部屋を覆うのも見えた。
「ふぅ……いきなり来ないでくれよ、心臓に悪い」
そう言って使徒に恨めしそうに目を向けるギルド長。
どうやら顔見知りらしい。
「すまぬな。だが此度の教会の決定、いささか違和感を感じたものでな」
「どんな違和感か聞きたい所だが、長くなりそうだね。後にするよ」
「うむ、助かる……で、うぬがアリドであるか」
急にこっちに話が飛んできた。
「然様」
古風な話し方っぽいので合わせてみた。
「教会でソノヘンニールから話は聞いておる。随分と買われているようだな」
「それほどでもない」
「此度の件にて最も状況を把握できているのはうぬであると言われておったぞ」
「確かにそうだね、アリドは随分と優秀さ」
なんで急に持ち上げてくるわけ。
前に仕事を増やされたので警戒心が刺激される。
「して、『外なるもの』は如何に?」
まあ使徒なら信用はできるか。
信頼できるかは不明だが。
「誘い出す。集まってるゴロツキは仕込み」
「民の安全はどうするつもりだ」
「完全には守れない。というか既に百人に一人は虫みたいなのに乗っ取られてる」
「虫とは?」
ギルド長と一緒に今まで知った虫や兎、野菜の情報を渡す。
後は二人で考えた作戦も。
「それらが暫定眷属で、タイムリミット目前。んで『外なるもの』は推定二体」
「状況は最悪であるな」
「最悪なのはこの町を生贄にする前例を作る事だと思うよ」
「否定はせぬが、それは手遅れと言うのだ」
「一理ある」
誰かを生贄にする事を許容するようになったら、人類が一丸になるなど夢のまた夢だろう。
そうなったら普通に詰みそうだな。
「一応、私が傭兵達を使って被害を可能な限り抑えるつもりさ」
「明日を待つより被害は減ると思うって判断だよ」
「うぅむ……致し方なし、であるか」
今から他の手段を用意する事はできない。
それが分かっているのだろう、使徒は不承不承ではあるが理解をしてくれた。
「だが一つ確認させて貰う」
俺をじっと見てくる使徒。
厳かな雰囲気を纏い、神の審判であるかのように問いかけてくる。
「アリド、うぬは何を望みこの戦いに臨む?」
そんなものは決まっている。
「ヒモニート生活」
「……は?」
「働かず、誰かの脛を齧って、自堕落に生きていきたい」
なぜか「こいつ何言ってるんだろう」って顔で俺の事を見てくるギルド長と使徒。
ついでに神々しい感じの空気は霧散した。
聞いてきたのそっちじゃんと言いたい。
「見た目的には行けると思うんだけど」
「ハーゲンディ、アリドが言ってるのは……」
「……本音のようであるな」
「だって世界が滅んだら寄生先が居なくなるじゃん」
困惑したように使徒が口を開く。
「うぬもまた神との邂逅を果たしたのでは……」
「したけど、別に使徒じゃないし、混沌神からの依頼は人類とか無関係だし」
会話も毎回軽快だし。
「……何だか私、聞くべきじゃない事を聞いた気がするねぇ」
「大丈夫、ギルド長は賢明だって信じてるから」
「嫌な信頼だねぇ……」
と、そこで部屋の扉がノックされる。
「もう時間も無いし、お話は後でいいでしょ」
「ふぅむ……よかろう、今は我らが大敵を討ち取らん」
「久々に現場に立つ事になりそうだね、労わって欲しいもんだよ」
部屋を封鎖していた魔力を霧散させて、迎えに来たガザキと共に外へ向かう。
ギルドから出ると、傭兵に囲まれたゴロツキ、ジューヤルが居た。
そういや集め終わったら来いって言ってたな。
傭兵を掻き分けてジューヤルに近付く。
「首尾はどうだ?」
「あ、はい、上手く行きました」
後ろからギルド長が追い付いてきて、俺に問う。
「アリド、そいつは?」
「
「こいつがそうかい……よし、ガザキ!」
ギルド長の声でガザキがやってきた。
「はい、何でしょう」
「状況開始だ、部隊を動かしな!」
「……了解です! 各隊、決められた場所に向かえ!」
彼の号令で傭兵達が一斉に動き出す。
俺はゴロツキの集団に混ざっているであろう眷属の存在を暴き、町の人々にソレを認知させるのが今作戦における最初の仕事だ。
万が一居なかったら虫に乗っ取られた人を使おう。
「じゃ、ちょっと敵を炙り出してくる」
「吾輩はアリドと共に行動し、事が起こり次第、民の被害を減らすため戦おう」
「私は領主館に向かうよ。アリド、ハーゲンディ、頼んだよ」
皆それぞれ行動を開始する。
移動を開始した時、ガザキの指揮する部隊が見えた。
方角的に彼らは下水道へと向かうようだ。
仇討ちかな。
「あ、あの……俺は?」
ジューヤルが不安気に聞いてきた。
「自分の手で復讐してえなら、森竜会の幹部なりボスなりに接触して、コーラス商会に誘導しとけ」
「そんなこと……」
「無理なら適当な場所で隠れとけ。お前が何もしなくても、たぶん死ぬしな」
俺の言葉に、ジューヤルは俯いて黙りこくる。
「自分の命をどう使うか、自分で決めろ。それを他人に委ねたら前と変わんねえぞ」
「あ……はい……そう、そうだよな」
一度目を強くつむり、開いた後、ジューヤルはどこかへと向かって走り出す。
その眼には力が籠もっていた。
「存外、優しいのだな」
振り返ると、なんか使徒が優しい目つきで俺を見ていた。
お前もそういうクチか。
「利用するための偽善だよ」
そう言い捨てて、早足にゴロツキが集まる場所に向かう。
現に俺はジューヤルを使い捨てるつもりで復讐心を駆り立てた。
使徒は何も言わずについてくる。
まったく、これからってのに微妙な空気になったじゃないか。
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