第90話


 ゴロツキ共の家に丁度いい部屋があったので、そこで尋問をする。


 前に吸収した奴の記憶が不意に沸き上がり、この家の間取りを知る事ができた。


 吸収した人と縁のある場所に行くと、記憶が想起される事もあるようだ。


 ゴロツキ共は目隠しをして、手を後ろで縛り、椅子に固定した。


「じゃあ人攫って何させてた?」


「し、知らねえ……本当だ……」


 答えたゴロツキに、この家に置いてあった酒をかける。


「森と下水道、どっちが良い? 知ってると思うけど、酒の匂いって色々おびき寄せるんだよね」


「本当に知らない! 俺達は下っ端も下っ端で、上から指示された通りに動いてただけなんだよ!」


 顔を真っ青にして叫ぶゴロツキ。


「最初に本当の事を言った奴を優先して見逃す。定員一名だ」


 囚人のジレンマとかそんな感じのを利用してゴロツキを追い詰める。


 いや、アレは一人ずつ隔離する必要あるんだっけ?


 うろ覚えである。まあいいか。


「し、知らない、本当に知らないんだ……助けてくれ……」


 全員、口を揃えて知らないと言う。


 なら知らないんだろう。


 吸収した奴も知らないし。


「じゃあどこに運ばれてる?」


 この質問には我先にと口々に答えるゴロツキ共。


「教会だ! 深夜、教会に運んだ事がある!」


「町外れにある農家にガタイの良い野郎を送った!」


「歓楽街もだ! 女を運んだ!」


 三人とも必死に思い出すように口の中で「後は」「他には」と呟いている。


 しばらく待つが、思い付かなかったのか口をつぐんで黙りこくる。


「他は?」


「……分からない、俺達は、そこしか知らない」


 本当に知らないか分からんが、まあ良いだろう。


「じゃ、協力関係にあった他の組織は……」


「コーラス商会! あそこの経営陣の半分以上はグルだ!」


「教会だ! あそこの司祭が上の連中と話してるのを知ってる!」


「えっと、あ、アレ、アイツ……領主とパイプがあるって奴が居る!」


 おっと、最後の奴は非常に気になるな。


 答えたのは俺が足を砕いたゴロツキだった。


 コーラス商会とやらも気になるが、領主がどうなってるのか深掘りしてみよう。


「領主は若造らしいが、そいつが直接?」


「いや違う。何でも仕事や計画を補佐する仕事をしてる男と繋がってるとかで、領主本人ってわけじゃねえみてえだった」


 なるほど、有益な情報だな。


 他二人には酒を振りかけておこう。


「ひっ」


「な、なんで!?」


「お前らの情報は人を運搬した先を聞けば分かる事なんだよ」


「だって最初に言った方が良いって――」


 目隠しをしてるため、バレる心配がないので腕をスライムにする。


 悪趣味だが、あいつの触手をアレンジするか。


 口答えをしたゴロツキの足に巻き付き、刺を生やす。


「ぎゃあっ!」


 更に変質魔力で高熱を纏う。


 人肉の焦げる音と臭いが窓のない密室に充満する。


「あ、ああっ!? アアぁあ熱い熱い痛い熱いィ痛いィイいいイッ!!!」


 必死に体を揺すり、椅子ごと床に倒れた。


「良い部屋だな。どんなに五月蠅くても外に漏れないんだろう?」


 あくまで淡々とした口調で言い放つ。


 触手を解き、他の二人の顔のすぐ前を横切るようにして戻す。


 目隠しで視界を奪われると、それ以外の感覚が鋭敏になるはず。


 悲鳴、臭い、熱気、それらを感じてくれただろう。


 後は彼らの頭の中で、仲間が何をされたか勝手に想像されると思う。


「な、何をしや……したんですか……?」


 テンプレゴロツキがしおらしく聞いてくる。


 当然質問には答えない。


「俺が質問する側で、お前らはされる側。立場が分からねえか?」


 俺の言葉に対する返答はない。


 ふくらはぎが焦げついた穴だらけになったゴロツキの、ひゅうひゅうという喘息のように乱れた呼吸の音だけが響く。


「何でも答えます、嘘は言いません、隠し事もしません」


「お、俺も誓いますぅ、絶対逆らいません」


 二人は正直者として生きていくという宣誓をしてくれた。


 とても助かるね。


 次の質問はどうするか。


 町外れの農家……まあ違法な植物を育ててるんだろうと仮定。


 歓楽街……水商売を元々やってたらしいから違和感はない。


 賭場や高利貸しもやってたらしいが、そこら辺は信頼できる連中が仕切ってるんだろう。


 裏稼業の稼ぎは膨大だ。


 その分、根回しや痕跡を消すのにも大金を使う必要がある。


 下手に渋れば破滅して、地獄まで真っ逆さまだ。


 ケチ臭い奴や、組織への忠誠が浅い奴に金は持たせないだろう。


 こいつらは下っ端で、はした金で使い捨てられる駒にすぎない。


 それでも引き出せる情報はまだあるはずだ。


「お前ら元々は賭場と金貸しで身持ち崩させて、借金のかたで取ってきた女を水商売に沈めてたんだろ? いつから強引に人攫って、農家だの教会だのに流すようになったんだ?」


 ギルド長からの情報を元に、以前の手口を推測して、それに当てはまらない悪事について聞き出す事にした。


「コーラス商会がこの町に来てからです、俺らのシノギがきつくなったのは」


 どうやら推測は外れていなかったようだ。


 ゴロツキ共は何の疑問も持たずに俺の質問に答える。


「一年前くらいです、その頃から借金のねえ奴にも手を出すようになってぇ……」


 そこからつらつらと自分語りを始めるゴロツキその二。


 最初の情報だけは有益だったが、自分語りは全く価値のない話だった。


 どうでもいい話で時間を潰されたので酒をかけておく。


 ついでに泣きながら椅子ごと寝転がってる奴の足にも。


「冷たっ!」


「いぎゅいいいぃぃい!!」


「無駄話してんじゃねえよ。あとお前、泣けば許されると思ってんの?」


 下手に出てれば大丈夫と思ってたんだろうか。


 そんな訳ないのにねえ。


 他人の人生食い物にしてた奴らに、情けをかける理由も道理も無い。


「次、俺の時間を無駄にしたら……分かってるな?」


「は、はいぃ……」


 まあ緑混じりのお前は見逃さないんだけど。


「運んでたのは人だけか?」


「あ、そのー、野菜を、運んでました」


 ビクビクしながらテンプレゴロツキが喋る。


 野菜……野菜ねえ。


「どこに?」


「コーラス商会ですぅ。日の出前に、納品に合わせてぇ」


「ソレ、お前ら食った事ある?」


「あ、はいぃ。俺とぉ、そこで転がってる奴がぁ、勧められてぇ」


 なんかゴロツキその二の喋り方がウザくなってんだが。


 それはともかく、その「野菜」が魔力緑化の原因っぽいな。


 質問を続けよう。


「お前は何で食わなかった?」


「あ、はい、俺はハイエナの獣人なんで、草は苦手でして」


「食ったお前らは?」


「え、なにが……あ、そうか、俺は馬の獣人ですぅ、そこのはビーバー」


 単に種族的な好みか。


 何か理由があって魔力の緑化の対象を選別している訳ではないのかな。


「あ、味はすっげえみずみずしくて、甘くて美味くて、やみつきになりそうでした」


 いや特定の種族に対して中毒性がある可能性が出てきたわ。


 てか無駄話すんなって言った後に良く味の事なんて言えたな。


 でも有益だったので酒はかけないでやろう。


「で、そこの転がってるのはダンマリか」


「……たしゅけて、くださらはい」


 痛みのせいでか、上手く呂律が回らないようだ。


 魔力視で見ると、緑の魔力が傷口を塞いでいた。


 肉眼で見れば緑の筋肉繊維のようなものがニョロニョロと生えていて、炭化した皮膚を突き破って穴を横断している。


 弱った体と魔力を貪るように、緑の魔力が奴の体内で暴れ回っている。


 魔力緑化現象は衰弱や損傷によって加速するようだ。


 魔力だけじゃなくて物理的にも内側が緑化してそうである。


「お前は助からない」


「そ、そんな……」


「え?」


 テンプレゴロツキが何かに気付いたように顔を上げた。


「助けないじゃなくて、助からない、ですか?」


「こいつが食った野菜が、普通の野菜だと思ってんのか?」


 あ、なんか上手い具合に最初にカマかけに使った言葉を利用できるな。


「お前らは生贄にされた……俺はそう言っただろ」


 同じく「野菜」を食べたゴロツキその二が、俺の言葉で激しく動揺したようだ。


「え、待ってくださいよぉ、それじゃぁ俺ぇ、どうなるんですか」


 泣きそうな声で俺に聞いてくる。


「さあな、俺に言えるのは、今なら人として死ねるってだけだ」


 兎になるとか言っても信じないだろうし、教えないで良いだろう。


 憐れむ感情は無いが、勿体ない精神はある。


 どうせ助からないなら、何か有効利用したい所だ。


「そんなぁ……知ってたら食べなかったぁ」


 顔をくしゃりと歪めて子供のように泣きじゃくる。 


「野菜の流通は……お前らに聞いても分かんねえか」


「あ、はい、すいません」


 早めに行動に移さないとヤバイな。


「泣いてねえで答えろ、何度食って、いつから野菜運びを始めた」


「ひっぐ……食べたの、一回ですぅ。ぐず……はぁ、運んだのは、一週間くらい、前にぃ」


 一度でも食えば魔力に混ざるのか。


 野菜の出荷は一週間前で、今はまだ実験とか検証の段階か?


 町で見た人に緑化魔力は見えなかった。


 まだ止められるかもしれない。


 流通が始まったら一瞬だろうな。


 さっさとギルドに向かいたいが……こいつらどうしよう。




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