第85話


 ギルド長の陰謀によって仕事がグレードアップした。


 だが後回しだ。先に聞く事がある。


「じゃあ早速ギルド長に相談なんだけど……」


「構わないよ。やる気があって実に結構」


「この町の犯罪組織って何がある? 扱ってるものも含めて教えて」


 意外な質問だったのか、ギルド長は少し首を傾げる。


「ふむ? まあいいさ、私が知ってるのは『森竜会フォレストドラゴン』って所だね。水商売と賭場、それと高利貸し。昔の事だが、一部の馬鹿共が世話になって、ちょいとイザコザがあったのさ」


「人身売買とかは?」


「私も詳しくは知らない。けど、当時はやってなかったと思うよ。そういった痕跡は出てこなかったらしいからね」


「教会との癒着は?」


 この質問には少し考える素振りを見せるギルド長。


「……そういやアリドはランゴーンの元司祭の護衛だったね……何かそういったものに気付いたのかい?」


「俺じゃないけどね。その元司祭が違和感感じてた」


 目を細め、鋭い目つきで考え込むギルド長。


 ガザキに目を向けてみると、そんなこと信じられないという顔だった。


「俺が思うに、白いやつが被害者と入れ替わってるなら、町の人は減らないはずだ。にもかかわらず失踪者が出てると衛兵さんが言ってた。別口で人攫いが発生してるんじゃないかな」


「目的はなんだと思う?」


「知らない。ただ眷属が関係してるなら、生贄とか、眷属の増産に使ってるんじゃないかな。関係してないなら社会不安を利用した悪い事とか」


「なるほどねぇ、そいつは探りを入れた方が良さそうだ」


 ギルド長が笑う。その顔は肉食獣を思わせる顔だった。


 静かにブチギレるタイプだな、きっと。


「ひょっとして、アリドが前に見たって言う兎モドキの話に繋がるのかい?」


 ふと何かに気付いたようにギルド長が聞いてきた。


 確かに、虫じゃなくて兎の可能性もあるのか。


「分からん。ただ、どちらにせよ人が人を害する状況はマズいから、さっさと潰した方が得策だと思ってるだけ」


「違いないね」


 これでソノヘンさんを遠回しだけど援護できたかな。


 戦闘力が高いのは知ってるけど、調査能力は知らないのよね。


「じゃ、次は衛兵とギルドの関係性について教えて」


「良くはないが、悪くもない。持ちつ持たれつさ」


「犯罪組織の調査に巻き込めそう?」


「巻き込むのさ。思った以上に状況は切羽詰まってる。四の五の言う余裕はないね」


 ギルド長から頼もしい言葉を聞ける。


 俺は『外なるもの』の調査に集中したいから助かる。


「ああ、あと領主ってどんな感じの人?」


「今の領主か……あの子は、ちょっと頼れるか難しいね」


 領主に関して聞くと、歯切れの悪い言葉が返ってきた。


「能力不足とか、特定方向に尖りすぎてるとか?」


「成人したばかりの子でね、まだ経験も覚悟も足りていない」


「若すぎると……親は、まあ何となく察するけど」


「察しの通りさ。先代は既にお亡くなりだよ」


「……ちなみに何年前?」


「一年前に先代が亡くなって、今に至るまでの間に領主やってる子以外の家族全員、それと優秀だった使用人も何人も死んだよ」


 領主は機能してないのか?


 いや、仕事できる奴を狙い撃ちにして次々に死んだっぽいな。


「流石に作為的すぎない?」


「そうだね。だが証拠は見つからなかった」


「常識では有り得ない死に方したとかは?」


「そこは私も詳しくは知らない。調査は別の所が担当したからね。町の衛兵達と、領主に使える騎士達がさ」


 後で情報を聞き出す方法を考えよう。


 もし情報を握ってる奴が犯罪組織に加担してくれてたら吸収して即解決だが、問題は俺の手がそこまで手が回るかどうか。


「領主に会える?」


「難しいね。色々あったせいで、正規の手段で面会は無理だろうさ」


「正規じゃないなら?」


「今の問題が解決すれば用意できるが、アリドが求めてるのは今だろう? なら、さっき言った通りさ」


 相談に乗ってくれるって言ったのに!


 そう言っても、相談はするけど解決できる保証はしてないって言われて終わるな。


「一応場所だけ教えて。時間あったら偵察行く」


「良いよ。ただヘマするんじゃないよ?」


「分かってる」


 横に居るガザキが「え、良いの?」と言った感じのリアクションをする。


 真面目だねぇ。


 ガザキに仕事を割り振るなら、正道に則ったものだけが良さそうだな。


「他は……ないな。とりあえず今はこんなもんかな」


「そうかい、それじゃあまずは休みな。昨晩から動きっぱなしだろ」


「ですが……」


「りょ」


 ガザキがまだ働けるみたいな事を言い出しそうだったが、割り込んで頷く。


 続きを口にする前に素早く席を立って、部屋の出口に向かう。


 ガザキがこっちとギルド長を交互に見る。


 ギルド長が手を振って退出を促すジェスチャーをすると、ガザキも席を立った。


 部屋の外に出ると、ガザキから声をかけられる。


「アリド、この後はどうするつもりだ」


「休む。疲れた頭で考えて選択ミスしたら余計被害でるし、疲れた体で肝心なタイミングで力が出ないとか、ただの足手まといだからね」


「それは……そうだが……」


「じゃ、また夜にでも。ちゃんと休まないと頼ったりしないから」


 そう言って傭兵ギルドから宿に戻るため歩き出す。


 ガザキも付いてきたので、ちゃんと休める場所に戻るのだろう。


 不服そうな顔は隠そうともしない。


 いや、隠す余裕もないのか。


 ギルドの入口で別れ、俺は一旦宿に戻った。




 宿が見えてきた辺りで、ユーティとナンパ君が一緒にお出かけに行くのが見えた。


 まあいいか。


 俺は今、精神的に疲れてるので何か癒しが欲しい所さん。


 自分の部屋に戻る途中、アルシスカと出会った。


「よ」


「ん、アリドか、一応頼まれた事は済ませたぞ」


「早いな。で、今は何してるんだ?」


「昼食を部屋に持って行くんだ。クタニア様は人目を好まない」


 まあ予想通りだが。


 一度仲良くなると段々遠慮がなくなってくるタイプなんだけどね。


 前世ならやりすぎて友情ブレイクして陰キャが悪化するまでがセット。


「今の時点でもう飯出てんの?」


「ああ、鐘の鳴る少し前に並べられている」


「報告聞くついでに昼飯一緒にいいか?」


「ダメだ」


「分かった、クタニアに聞くわ」


「こいつ……ッ!」


 なんやかんや他愛ない会話をしながら昼食を持ち、クタニアの部屋に向かう。


「ついてくるな」


「なに、気にする事はない」


「気にさせてる奴が言っていい台詞じゃないだろッ!」


「なに、気にする事はない」


「全部それでゴリ押しする気かッ!?」


「なに、気にする事はない」


 本当、アルシスカはいじりがいがあるなぁ。


 賑やかに歩いていると、クタニアが部屋から顔を半分覗かせてこちらを見ていた。


「あ、クタニア様……」


 ジト目で口を横一文字に結んでた。


 拗ねそう。


 近づくとパタンと扉を閉めて引っ込んでしまった。


 拗ねたな。


「クタニア様、昼食を持ってきました。開けてくれませんか」


「………………」


 返事が無い、ただの引き篭もりのようだ。


「ク、クタニア様ぁ……」


 情けない声を漏らすアルシスカを横目に扉に近付く。


「開けるぞー」


 ドアノブを回すと鍵はかかっておらず、普通に開いた。


 部屋の中にはベッドの上で体育座りをしているクタニアが居た。


 長い髪で顔を隠しているが、若干ふくれっ面に見える。


「昨日言った事、もう調べてくれたんだってな。ありがと。飯の後に聞かせてくれ」


「…………うん」


 ねぎらいと感謝の言葉を投げかけると、口をもごもごとさせた後、肯定の言葉を返してくれる。


 少しは機嫌が良くなったようだ。


 その後はあたふたしてるアルシスカと、つんとしたお澄ましクタニアと共に昼食を済ませた。


 見ててヨシ、いじってヨシの二人には大変癒されるね。




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