第40話


 下水道に入ると、魔導灯と呼べるようなものは無く、真っ暗な闇が俺を出迎える。


 魔力視を使ってみるが、壁や床に魔力は見えない。


 一方で流れる水には色々な魔力が混ざっていて、混沌としている。


 聞いた話では、石や鉱物も魔力が侵透すると魔物化すると言われており、下水道の水路や壁には魔力を断絶する素材が使われるという。


 ソノヘンさんから預かったランプを取り出し、教わった通りの手順で光を灯す。


 魔石という魔力バッテリーをセットする事で光る。光った。


 こういうの、なんかテンプレだね。


 異世界転生してるって感じる。


 ソノヘンさん曰く、頑丈なので簡単には壊れない実用性重視のデザインらしい。


「さて、どうしようか」


 触手を伸ばすにしても、入口に突っ立ってると敵が追ってきた場合面倒になりそうだ。


 ある程度進んで、良い感じの場所まで進んでから触手でゴリ押すか。


 とりあえず、頭の中で地図を作りながら適当に進む。


 魔力視で水路の位置を、ランプの明かりで壁や足場を確認しながら道なりに歩く。


 方角的には教会から離れるように。


 もし後からやってきた眷属が、傭兵ギルドでの情報を元に教会の地下に向かっていると判断した場合、背後を突ける。


 ソノヘン人形ドールの内部に疑似脳を増やし、情報処理能力を向上させておく。


「(今更だが、便利だなソノヘン人形)」


 とはいえリスクもある。


 接続が糸触手一本だけで行われていて、これが切断されたら制御できなくなるであろうという事。


 もしかしたらスライムに戻ってしまうかもしれないし、そうなるとかなりの魔力が無駄になる。


 時間がなく、色々試せなかった事が悔やまれる。


 ほどほどに進んでから足を止める。


 ソノヘン人形の足を崩し、複数の触手に分解して水路の底を這わせる。


 名付けてボッチ人海戦術。


 ……ちょっと悲しい気持ちになった。


 途中、一般スライム君を数匹見かけた。


 触手を近づけると必死に逃げ出した。


 回り込むと逆側に逃げようとするので囲んだ。


 水路から這い上がってまで逃げようとしたので、可哀想になってやめた。


 でも新しい因子あるかもしれないので一匹だけ捕まえて吸収した。


 なんか俺、もの凄く魔物から嫌われているのかもしれない。


 ……そこはかとなく悲しい気持ちになった。


 まあいいや。


 今は下水道の地図を完成させよう。



 そのまま続けて、たぶん一時間くらい経った。


 触手を伸ばしすぎてソノヘン人形が胸から上しかない状態になってしまった。


「どんだけ広いんだよ」


 思わず口の中だけで呟く。


 教会の地下付近までの地図はできた。


 町の方はまだまだ先が長そうだ。


 これは迷子になって出れなくなるって話も頷ける。


 ひょっとして一定範囲毎に区切られてるとか無くて、町全体の地下に広がっているのだろうか。


 一旦町の方に伸ばした触手を回収する。


 そっち方面のマッピングは後回しだ。


 教会は町の外れにあるので、こちら側なら完全にマッピングできると判断した。



 更に体感一時間。


 町外れの下水道の全容を脳内マッピングできた。


 ただし通路ではなく、水路の。


 やっと一息つけると思った矢先に、次の事件がやって来た。


 入口を見張っている触手カメラが人影を捉える。数は二つ。


 腰にランタンと剣を吊り下げている山羊と馬の獣人。


 傭兵ギルドで絡んできた二人だ。


 二人の間に会話は一切無い。


 馬の獣人は落ち着いた感じだったので違和感はないが、山羊の方が静かなのは違和感を覚える。


 そのまま教会の地下方面へ無言で歩を進める。


 傭兵ギルドで見た態度とは随分と違うな。


 表情は良く見えなかったが、なんとなく無表情っぽいと感じた。


 俺の事を気に掛けていたのは、俺が奴らにとって想定外の存在で、どう影響が出るか監視したかったという事だろうか。


 残念だが、状況的に傭兵ギルドは敵と思って動くべきだろうな。


 触手で二人を尾行して、俺自身も離れた場所から追跡しよう。


 その為には伸ばしまくった触手の回収が必要だが……。


 回収終わるまで見失わずに済むかな。




 割と素早く触手の回収が済んで、獣人コンビを見失うことなく追跡できている。


 相変わらず会話が無く、足音と下水の流れる音だけが響いている。


 ソノヘン人形は解体して回収した。


 手数が減るが、今は隠密性の方が重要だと判断。


 足をスライム化して、足音が立たないよう移動する。


 歩く。


 歩く。


 歩く。


 歩き続ける。


「(……どこまで歩くんだ?)」


 ちょっとうんざりしてきた。


 マッピングが間違っていなければ、奴らは貯水槽を目指している気がする。


 もしそうなら、かなりの回り道をしている。


「(俺が水路を直行できるだけで、通路的には回り道せざるを得ないとか?)」


 気を張って注意しながら他人のペースに合わせて歩くというのは思ったよりも精神的に疲れる。


 いっそ接触して真意を問うのも一つの手段だが……。


「(できればそれはしたくない)」


 ゾンビ眷属もそうだが、誰かが遠隔操作しているのであれば、戦っても一方的に情報を抜き取られる事になる。


 それと人辞めてる眷属はともかく、獣人コンビは傭兵ギルドに登録されている「人」だ。


 俺がやったという証拠を残したくない。


 俺は面倒が嫌いなんだ。


 なので焦れる気持ちを抑えて追跡を続ける。



 更に歩き、行き止まりで二人が足を止めた。


 水路的には行き止まりだったが、どうやら扉があるらしい。


 目的地は貯水槽ではなかったようだ。


 果たしてここには何があるのか……。


 山羊の方が扉に手を掛けると同時に、内側から弾けるように扉が開く。


 その衝撃で山羊が吹き飛ぶが、馬の方はそれに目もくれずに剣を抜き放ち、扉の内側に入り込む。


 金属音が響く。


 どうやら何者かとの戦闘が始まったようだ。


 見知らぬ誰かを囮にすれば不意を打てるかな?


 何にせよ距離を詰めないと判断が難しい、急ごう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る