第27話
傭兵ギルドの応接室から出て、職員さんと受付に戻る。
「これからギルドの登録証を作りますので、しばらくお待ちください」
「分かった」
「あまり時間はかからないので、遠くには行かないようお願いしますね」
そう言い残し、契約書を持って奥の事務所らしき場所へ向かう職員さん。
まだ子供に思われてんのか、俺は。
少し憮然とした気持ちになりつつも、表情は動かさない。
というか動かせない。表情筋作ってないからな。
「(一息つけるな)」
正直言うと、ずっと緊張しっぱなしだった。
何事も初めては緊張するものだが、今回のようにスライムバレしたらバッドエンド直行しそうなのは心臓に悪い。心臓ないけど。
心臓で思い出した。体温って調整してたっけ…………うん、してなかった。
「(危ねえええええ……)」
思わず足の力が抜けそうになったが、意思に反してスライムの体は不動を貫いた。
頭の中だけでパニックに陥っていると、職員さんが戻ってきた。
「アリドさん、登録証ができましたのでこちらへどうぞ」
その声に従い、素直に向かう。
「こちらが登録証になります。紛失しないよう気をつけて下さいね」
受付のテーブルの上に置かれたのは、光を虹色に反射する見た事のない金属のドックタグ。
見た感じ鉄のような色合いだが、たぶん別の金属だろう。
「これは何の金属だ? 鉄にしては反射している光が変だが」
分からないので聞いてしまおう。
俺の問いにクスリと上品に微笑み、答えてくれる職員さん。
そこはかとなく子供扱いされてる気がするが、もう気にしない事にする。
「これはエーテル鋼という、特定の魔力を記憶できる合金です。現代では魔導器などに使われる事が多いんですよ」
エーテルね……前世だと五番目の元素だとか、宇宙の元素だとか、魔力を回復したりとか、ファンタジーな作品でそんな感じで扱われてる物質だったかな。
「魔力の波長? 形質? まあ、とにかく、そういったものが記録されて個別認証を可能にするって認識で良いか?」
「アリドさんは聡明ですね。たったこれだけの説明で理解できるんですから」
急に持ち上げてくるじゃん。
でも天狗になったりしません。前世で何度痛い目を見た事か……。
「何かこの登録証にする必要があるのか?」
「いいえ、身に付けておけば、自然とエーテル鋼がアリドさんの魔力を記憶します」
「逆に離しておくと記憶された魔力は白紙に戻る?」
「いいえ、一度記憶された魔力は、特定の手段でしか白紙に戻せませんよ」
微笑ましいものを見る視線を職員さんから感じる。
アレか、子供がなんにでも疑問を持つみたいな、そんな感じで見られてるのか。
いや、気にしないけど。
まだ聞きたい事あるんだけど、ずっとこんな目で見られるのかな……気にしないけどさ。
「一応聞いておきたいんだが、万が一紛失した場合はどうなる?」
「そうですね、登録証の再発行であれば相応の料金が発生します。破損の修理というのであれば無償で行われますね」
「具体的な料金は?」
「大体金貨一枚ほどは頂きます」
相応とか大体って曖昧な……いや、そうか。
一つ思い当たる事があった。
「……あぁ、傭兵団次第で多少変わるのか」
「はい。アリドさんならきっと良い傭兵団に所属できるようになると思いますよ」
「そりゃどうも」
ぶっきらぼうに答えたが、俺の見た目だと逆効果なのか笑みを深める職員さん。
……さてはショタコンだな?
心の中で酷い誹謗中傷をしながらドックダグを手に取る。
俺がそれを手にしたのを見て、職員さんの顔が優し気な表情から、真剣なものになる。
真っ直ぐにこちらを見て、詠うように、
「この時、この瞬間から、アリドさんは傭兵として認められます。貴方の命と力が、闘争と競争の中で輝くか、潰えるか、全ては貴方次第です」
一呼吸置いた後、さっきまでの優し気な表情に戻る職員さん。
「ようこそ、傭兵ギルドへ。貴方を歓迎します、アリドさん」
きっと、今のはある種の
得も言われぬ圧と、昂ぶる熱を胸の内に感じた。
「こちらこそ、今後ともよろしく」
空気に流されないよう、心を平静に保って答える。
「……はい。それでは、本日はどうされますか」
職員さんは何か言いたそうな雰囲気を一瞬出したが、すぐにひっこめて受付嬢らしい対応をしてきた。
見た目相応の子供ではないのだよ。
「取りあえず、金が無いから何か簡単にできる仕事が欲しい」
言ってることはむしろホームレス。
「……本当は、家出だったりしませんよね?」
何言ってんのこの職員。さっき認めるって言ったじゃん。
「してないから。あとちゃんと成人してるから」
「すいません、今更ですけど、今までどこで暮らしをしていたんですか?」
「町の外」
嘘は言っていない。
野営技術は少年とのサバイバル中に学んだぞ。
しかし職員さんには怪訝な顔をされる。
「……そうですか、疑ってすいません」
「とか言いながら、実はまだ疑ってない?」
「いえ、まあ、その……」
そっと目を逸らされる。
こうなったら脅すか。
「仕事ないなら野宿するわ」
謎の脅しである。
「えっ! 危険ですよ!?」
しかし効果は抜群なようだ。
やっぱ子供扱いされてんなー。気にしてないけど。
「だって金ないし。この町来るまでに何度も野宿してるし」
「……傭兵団を紹介しますよ?」
「いや、入団はまだ様子見したい」
傭兵団に所属するなら、そこの目標や受ける仕事の傾向、活動方針などを慎重に吟味したい。
とにかく今は仕事だ、仕事をよこせ。
できれば楽で稼ぎが良いやつ。
職員さんから「我儘言いやがって」みたいな心の叫びが聞こえる気がする。
きっと気のせい。
「そうですか……そうですね、分かりました。所持金がないとの事なので当日で終わる依頼を探して見ます」
「うむ、ありがとう」
俺の感謝の言葉への返答は、少し恨めしそうな視線だった。
なんでだろうね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます