第26話
能力テスト後に、傭兵ギルドの応接室にて登録を済ませた所で、職員さんに声を掛けられた。
「アリドさんは、どこかの傭兵団へ所属を考えていますか?」
傭兵団かー……一応おおまかに知ってるけど、俺の目標に沿うかどうかが不明なんだよなぁ。
「いや、よく分からないから考えてない」
なので、とぼけておく。
「そうですか……よろしければ傭兵団について説明しましょうか?」
さて、どう答えるかね。
一応俺の知らない情報が出てくるかもしれないし、聞き得か?
「教えてくれるなら聞きたい」
俺がそう答えると、にこりと笑って説明をしてくれる。
「はい、それじゃあ説明しますね。とは言っても、基本的な事は分かっていそうですね……では、実際に所属する事で得られるメリットについてから説明しましょうか」
気の利くお姉さんだと感心してしまう。
表情や喋り方に、こちらを下に見るようなものが混ざっていないと感じる。
「まず何と言っても『身を守りやすくなる』というのが一番のメリットであり、傭兵をやって行く上で最も重要な事でもあります」
それを聞いて、気になった事ができたので質問をする。
「……具体的に、何から?」
「様々なものから、ですね。そうですね……例えば、怨恨とか、秘密の隠匿とかでしょうか」
概ね予想通りだな。
内心で頷いていると職員さんが続ける。
「傭兵になるという事は、国家に守られなくなるという事です。極論ですが、死んでも惜しまれないんです」
以前資料を漁った時にも思ったが、傭兵って人権が無いな。
「傭兵の仕事は主に武力行使を要求されます。知らず知らずのうちに誰かを傷つけたり、妨害したりなんて日常茶飯事です」
「いつ、どこで、誰から恨み買ってるか分からない、と」
真剣な顔で頷く職員さん。
俺の理解が正しいか、考えを口にして確かめてみるか。
「それに、傭兵が死んでも国は責任を負わない。死地だと分かっている場所に送り込んでも「知らなかった」としらを切られればそれまでなんだろう」
職員さんは驚いたように目を見開く。
「何かの犯罪行為に加担させられた場合だと、依頼者は傭兵を殺す事で証拠隠滅できるなら、きっと実行するだろう」
良くある話だ。
「巻き込まれた場合でも、国は傭兵を守る必要はない……「自分の身は自分で守れ」なんて言われそうだな。盗難被害なんかが出ても自己解決しろってなるか」
「……本当に成人してるんですか?」
「してるんだが?」
そんなに子供だと思われていたのだろうか……ちょっと童顔にしすぎたか?
でも今更顔の造形変えるのもなぁ。
良い感じの顔を作るのって結構大変なんだよね。
「あ、すいません、つい……ところで、アリドさんの性別は女性なんですか?」
「男だが」
設定上は。あと前世でも。なので精神的には。
まあ生殖器作ってないから無性なんだけどね。
必要になったら生やせば良いやのスタイル。
「そうなんですか、いえ、男性なんですね……そうですよね、人間て多様ですからね」
ちょっと遠い目をする職員さん。
え、なに、そんなに? なんか変?
俺がショックを受けていると、職員さんが一つ咳払いをして空気を仕切り直す。
「ええと、話を戻しましょう。他のメリットと言いますと、ギルドの施設の利用費や、ギルドと締結している商店での取引が有利になります」
「大口取引だと割引になるとか?」
「そうですね。個人よりも団体の方が結果的に費用が抑えられる事が多いですね」
こういうのは異世界でも同じなんだな。
「他にも受けれる依頼の規模が大きくなりますし、拠点を持つ傭兵団であれば宿の心配もありません」
大人数が必要な場合、不特定多数の人を集めるより、一定の規律に従う集団の方が需要は高いよな。
俺だって依頼する側ならそうする。誰だってそうする。たぶん。
「後は傭兵団の名声が高ければ、治療などに関しても良質なものを受けれるようになりますし、他にも様々な面で好待遇を与えられます」
優秀な人材は大事に扱う、という事だろう。
国家に属さなくなる大きなデメリットがある分、福利厚生は手厚いようだ。
俺の場合、初めから戸籍が無いのでデメリットはないが。
「以上が傭兵団へ所属する事で得られるメリットです」
「なるほど、大体把握した」
「ですので余程の事情がなければ、どこかの傭兵団へ所属する事をお勧めします」
とても重要な事なので、とやたら念を押してくる職員さん。
「アリドさんは魔術も使えるんですから」
その言葉を聞いて、ふと思う。
たぶん魔術を使える人材は少ない。あるいは大手の傭兵団が独占しているか。
訓練場で魔術を使っている人が居たが、思い返してみると高級そうな装備をしてた気がしないでもない。
この場を離れる前に気になる事を聞いておきたい。
「ちょっと質問していいかな」
「はい、大丈夫ですよ」
嫌な顔一つせず、笑顔で答えてくれる職員さん。さぞ人気がありそうだ。
「魔術が使える人材ってのはどの程度居る?」
「そうですね……決して多いとは言えないです。高名な傭兵団であれば三、四人程度は居ますね。魔術を行使するにはそれなりの教養が必要でして……」
最後の方でちょっと言い辛そうにする職員さん。
「教養があれば、傭兵になりに来るような奴はほとんど居ないと」
「はい、いえ、傭兵の皆さんを悪く言うつもりはないのですが……」
なるほどねぇ。まあ分からんでもない。
安全に安定して稼げるなら、誰だってそっちの方が良いわな。
「次の質問だ。貴族や教会とはどういった距離感なんだ?」
「距離感ですか……貴族とはあまり良好とは言えませんね。我々は国家の属さない武力なので、煙たがれる事も少なくありません」
「特定の傭兵に個別の依頼を継続されたりはしないのか?」
「傭兵団に所属する傭兵を指名する事はギルドの規則によって禁止されていますからね。言いましたよね、守れるようになる事が重要だと」
ドヤ顔をする職員さん。
引き抜きや特定個人への悪意ある行いを防ぐ目的があるんだろう。
「なるほど……教会の方は?」
「対して教会ですが、こちらとは良好な関係を結べていると言えます」
宗教とは上手くやってるのか、傭兵ギルド。
「傭兵の多くは戦神への信仰心を持っていますから。大昔の話ですが、傭兵の中から戦神の使徒が
「へぇ」
使徒や聖女にまつわる話には少し興味がある。
純粋な興味もあるが、何より世界の敵への戦力として少しでも情報が欲しい。
「それに教会は国家と違って最低限の武力しか持てません。しかし国の武力に依存すると、立場的に宗教が政治の道具にされてしまう可能性が危惧されています」
「信仰の自由か」
「はい。色々ありますけど、教会は傭兵ギルドにとって重要なお客様なんですよ」
ふむ……このまま傭兵として立ち回るなら、まずは教会側と関係を結ぶべきか。
職員さんから得られた情報をもとに、これからの計画を立てていこう。
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