第6話


 視覚的な擬態のレベルは下がったが、魔力視を誤魔化せる手段を身に付ける事に成功した。

 だが残念ながら生命力を視覚化することは出来なかった。


 魔力視に関しては目に魔力を集めたら見えるようになった。

 ラノベ知識様々ですわ。


「(擬態性能の向上に関して思いつく限りの事は試した。後は実際に効果があるかどうか……)」


 結局効果があるかどうかは実戦まで分からないものだ。仕方がない。


 それはそれとして、魔力視を習得してから様々な恩恵を得ることができた。


 例えば、流れる水に僅かだが魔力が混じっているのを見つけることができるようになった。

 それを吸収する事で少しずつ自分の魔力総量を増やせるようだった。塵も積もればなんとやらだ。


 しかし吸収を繰り返した結果、新たな問題が発生していた。


「(何か身体でかくなってるし)」


 当たり前と言えば当たり前かもしれない。

 吸収したらその分、増えるというのは。


 何が問題かと言えば模倣に使う体積が増える事。ひいては維持するための魔力が増える。

 総量が増えても維持に使う費用が増えてしまっては元の木阿弥だ。


「(まったく、次から次へと問題が出てくる……)」


 愚痴っても仕方ない。

 こっちがサボれば、それだけ人間達が有利になるし、弱点があるなら遠慮なくついてくるだろう。


 問題点が抽出できるのは、むしろ幸運だと言える。改善できるのだから。

 それに自覚のない弱点ほど対処しにくいものもない。


「(どうするかな……体積をー……圧縮?)」


 いきなり体全体は危険なので、一部だけを魔力で覆って圧縮してみる。


 ぐちゃり、という何かが潰れた音が響く。

 魔力で覆った部分が小石の一つほどまで圧縮された。


「(んんんんんん? あ、そっか。圧縮率指定しないといけない奴かコレ)」


 全体を覆わなくて良かった……流石に焦ったぞ。


「(圧縮された部分が戻らねえんですけど)」


 すっげぇ硬くなってんぜ。

 塑性限界を超えたのか、元々こういう体なのか、さっぱり分からん。

 検証すべきなんだろうが、どうやって調べたものか。


「(あ、そうだ。自分に分析かけたら良いのでは?)」


 なぜ今の今まで気づかなかったのか、これが分からない。

 でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。


 さて、自分を分析してみよう。



 ……。



「(……はっ!?)」


 意識が飛んでいたようだ。この感覚は前にもある。

 たしか、最初に魔力で疑似脳を作ろうとしたけど魔力が足りなかった時だ。


「(なんで? 魔力が足りなくなった? 多分そうだ。模倣が解けて元の体に戻ってる)」


 模倣で作ったものが全部解除され、最初の状態になってしまっている。


 なぜ魔力が足りなかったか疑問だが、それは後だ。

 急いで模倣器官を作り、五感を取り戻していく。そして気づいた事がある。


「(魔力切れになっても圧縮した所はそのままなんだな……これは使えそうだ)」


 いっそ子犬くらいのサイズまで小さくなれば擬態しやすくなるだろうか。

 だが以前のような熱攻撃を小さい体で受けた場合、熱の回りが早くなるという心配がある。これは逆の冷却でも言える事だ。

 断熱魔力の層を突き破られた時のリスクを考えると小さくなりすぎるのも問題になる気がする。


 吸収しまくった後に圧縮して、高密度になれば体も頑丈になるだろうか?


 検証したいが、下水道の水を吸収し過ぎて水位が下がったりすると余計に脅威だと思われそうだな。

 水以外だと虫とか鼠とか、たまに流れてくるゴミくらいしかない。


「(そろそろこの下水道から出て、外の世界を目指すべきか?)」


 人に見つかってしまったのだ。

 永遠に隠れられるだなんて楽観はできない。したら死ぬ未来しか見えない。

 下水路の終着点の位置も大まかにだが把握できている。


「(思い立ったが吉日とも言うし、下水の出口付近にまで向かってみよう)」


 だが、その前に体のサイズをどの程度にするか決めよう。


 高さ二十センチメートル、直径六十センチメートルくらいでいいかな。

 この数値は以前遭遇した人間が、前世の人間と体格的な差がないものとして考えた場合だ。


 形のイメージは某国民的RPGにおける、はぐれてるメタルなスライムだ。

 多分この世界にレベルはないので、経験値目当てで狙われるような事はないだろう。


「(一応、念のため、慎重に体の端からちょっとずつ圧縮していこう)」


 じわじわ自己改造を進め、ちょっと時間はかかったが無事、平たい姿になれた。


「(よし、行くか)」


 模倣で水路と同じ材質の無機物を纏い、下水道を下っていく。




 下り続けた先、出口より大分手前の位置で、俺は進めなくなっていた。

 正確には何が何でも進みたくない。理由は明確だ。


「(何か人がいっぱい居るっぽいんだけど……しかも出口の近くに)」


 音が遠くから聞こえる。

 目視できない距離だが、近づきたくない気持ちでいっぱいだ。


 金属がぶつかり合う音。

 何かが爆ぜるような音。

 湿った何かが床にぶつかる音。

 人の怒号。

 悲鳴。


 これ絶対戦ってるよね。何との戦いかは知らんけど。


「(そっとしておこう)」


 俺はただのスライムです。

 人様の闘争に関わるつもりは一切合切ございません。 

 どうぞ勝手にしやがってください。


 水路の端で擬態して潜伏しておく。

 リスクはあるが、対魔力視対策の効果のほどを確かめておきたい。


 戦闘帰りなら、見つかっても追ってくる元気がないかもしれないし。

 いつか試すなら、リスクの低い内に試しておくべきだろう。


 ここを通らないなら、それはそれでいいや。わざわざ自分からリスクを冒しに行く必要もないだろう。


 俺は水の中で、音が止み、人の気配が去るのを静かに待つ事にした。





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