第34話 公爵家

「ここかぁ」


俺は巨大な門の前に立っていた。


「なあ、白桃」

「なんですか、マスター」

「制服で来てもよかったのかな?」

「さぁ、制服で公爵家へ行ってはダメというデータは存在しませんね」

「まあ、そうだよね」

「怖気づいているんですか、マスター?」

「当たり前だろ………こんな場所に来る必要性がある人が少ないぞ」

「おや、人が来ました」

「頼む白桃……傍にいて!」

「モニタリングはしておきますので」

「いざとなったら助けてね」

「……はい」

「おい、その間はなんだ?」

「冗談です」


俺に何かあったときに頼れるのは白桃のみ。

頼むぜ、相棒。


「ご用件は?」


鉄格子の大きな門の向こう側から声を掛けられる。

男性は白い口髭を蓄えており、ゆっくりと話をしてくるのだが……眼光が怖い。

今しがた声を掛けてくれたのが多分、この屋敷の執事かな?

そして、その後ろに屈強のSPが控えている。

って、あれ?


「あ、あの時の!」


あちゃーあの時、殴ってKOしてしまった……たしか、って名前なんだっけ?


「ゼリロスさん、お知り合いで」

「あ、はい。えっと」


あ、そうそう。ゼロリスって言われていたな。

何やら執事さんと話をしているな。

話が終わったのか執事は俺に体を向き直す


「どのようなご用件で?」

「えっと、ロー……ロゼッタ令嬢のお見舞いに来たのですが」

「お見舞いの品は?」

「お見舞いの品……いや、その様子を見に来たというか」

「ふぅ、手ぶらで来たのですか?こともあろうに公爵令嬢に会うというのに」

「あ、アハハ、アハハハハハハ」


俺は友達のお見舞いに来たって感覚で来てしまったことを後悔する。

まあ、いくらなんでも見舞いの品ぐらい持ってくるべきだったな。

出直すか。


「ほら、来なさい」

「え?」

「流石に手ぶらでお嬢様に会わせるわけには行きません」

「それって……」

「あ、代金は頂きますよ」


いくらになるんだ?

それ、お高いんですよね?


「あ、あの、えっと」

「大丈夫、簡単なモノですので」

「よ、よかった。はい、ではよろしくお願いします」


こうして俺は公爵家の中へ入ることになった。

その後、執事の人に付いていき焼き菓子を貰いそれをもってローズの部屋へと案内される。


で、簡単なモノって言っていたけど、これ……一か月分の食費なんですが……トホホ。


その後の案内はアンネリーゼさんが担当してくれた。

いや、それにしても公爵家のお屋敷って広いね……迷子になりそう。


「あの、アンネリーゼさん」

「何ですか、サミュエルさん」

「えっと、その、ローズ、ロゼッタ令嬢の婚約なのですが」

「ごめんなさい、私は使用人ですのでお答えできないことも多くございます」

「あ、はい……左様でございますか」

「こちらがお嬢様のお部屋になります」


大きな両開きのドアを開けてくれるアンネリーゼさん

そして中には寝間着姿のローズがいた。


「あ、アンネリーゼ……ってサム?なんでここに?」

「いや、体調不良と聞いてお見舞いに来たんだが」

「ちょっと、待って、いや、出て行って」

「ええ!」

「いや、その、準備があるのよ、だから出て行って」


かなり慌てているローズ。

寝間着姿を見られるのがそんなにも恥ずかしいものなのか?

フリルが沢山ついた寝間着は可愛いと思うけど。


「サミュエルさま、少しばかり部屋の外でお待ちいただけますでしょうか」


アンネリーゼさんも外で待つように言われる。


俺はローズの準備が出来るまで部屋の外で待つこととなる。


しばらく待っていると両開きのドアの片側が少しだけ開く。

そして、顔だけを出したローズが現れる。


「もう、いいわよ」

「ああ、わかった」


俺は扉を開き中へと入っていく。

そこには漆黒のパーティ用のドレスを着たローズがいた。

なんでそんなに気合入れているの?


「なあ、これから夜会でもあるのか?」

「ないわよ、というか、着替えがこれしかなかったの」


ふむ、これは体のラインがとても強調されたドレスだ。

そんなドレスを着たローズは……あれ?パットかな?

そこそこのボンキュッボンになっているな。

というか、腰は細いし手足は長い。

本当にこいつスタイルいいよな。

こういうボディラインが出る服を完全に着こなしているよ


「ねえ、その、ジロジロ見るのやめてもらえる」

「あ、すまない。似合っていると思うぞ」

「………バカ」

「それよりも寝ていなくていいのか?」

「別にいいのよ」


どういうことだ?

もしかして、こいつ仮病か?


「ほう、元気なのか?」

「そうね、元気よ」

「……仮病か」

「……うっさいわね」


白状しやがったな……折角、食費一か月分の焼き菓子を持ってきたというのに!


「じゃあ、これ喰うか?」

「あら、これは高級店の焼き菓子……奮発したのね」

「ああ、色々あってな」

「そっか……心配……してくれたんだ」


どうやらローズはこの焼き菓子が好きなのだろう。

嬉しそうに俺の手渡す焼き菓子を受け取り口に入れる。


「うん、おいしい!」

「おう、そうか、よかったよ」


まあ、あの値段で美味しくないなんて言われたら……最悪だ。


「そうだ、また街へ行ってデートしない?」

「そうだな、また行くか?」


ただ、部屋の隅で俺たちの会話を聞いていたアンネリーゼさんは強い口調で拒否する。


「ダメです!」


俺はアンネリーゼさんの声に驚く。

だが、ローズも驚いているみたいだ。


「アンネリーゼ?」

「お嬢様、もう少しご自身を大切にしてください」

「……わかったわ」


なるほど、本当に体調が悪いみたいだな。

今もただの空元気ということか。


渋々とベッドに腰を掛けるローズ。


あー、なんか空気が重い……ここは話題を変えたほうがいいかな?


「なあ、ミックって弟だっけ?今、何しているの?会ってみたいな」


俺の質問にローズもアンネリーゼさんも顔色を変える。

あ、あれ?


「「………………………………」」


黙り込む二人。


俺、何か聞いちゃいけないこと聞きました?

……誰か、教えて! 

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