第32話 無事帰還

俺は何とか無事に戦場から帰ってくることが出来た。

それにしても疲れた。


ってか、あのドラゴン……様子がおかしかったな。

まあ、いいか。

なんか、ドラゴンの肝?は手に入ってポルトンもドラゴンスレイヤーの称号を得る。

アンソニー殿下は勇者として箔が付いた。

聖女モニカ様も無事に帰ってこれた。


まあ、全くの犠牲がなかったわけではない。

戦死者がいたのも確かだ。

ただ、かなりの大物だったために報酬はかなり多く、下っ端の俺ですら学費一年分が払えるぐらいもらえた。


戦闘が終わって凱旋、そしてその夜の祝賀会の豪華なこと……まあ、俺は金がないのでそこでウェイターとしてバイトしたけど。

残り物が美味かった!


めでたしめでたし……というわけにはいかない。


俺にはまだ、肝心なことが残っている。


とあるドアの前で俺は立ち止まる。

学園の寮の玄関から真っ先に向かった部屋。

そう、マイスイートルーム……ってか自室。


前回は開けるととんでもないアートが飛び出して来たんだよな。

それを回収してくれたと聞いているが……はたして、真実はいかに!


俺は恐る恐るドアノブを握る。


「すぅ……はぁ」


緊張した面持ちでドアを開け中を見ると、なんと綺麗になっていた。


「……よかったぁ」


安堵とともに独り言をつぶやいてしまう。

一歩部屋の中へ入り、ドアを閉める。


部屋を見回して家具の位置やどのようになっているかを探っていると……なぜか、メイド服を着た女性がいた。


あ、あれ?

おかしいな?

メイド服を着た女性がいる?

もしかして、この寮の各部屋に配置されるようになった?

いやいや、それだと料金がめっちゃ上がるのでは?

どうしよう、折角、ドラゴン退治でもらった給料で一年分の学費を払ったばかりだぞ!

追加料金なんて……無理だ!


そんなことを考えながら頭を抱えていると、背の高い金髪切れ目のメイドさんが俺に向かって頭を下げる。


「あ、おかえりなさいませ」

「へ?あ……ただいま」


深々とお辞儀してくれるメイドに反射的に頭を下げる俺。

頭を上げたメイドさんは部屋を勝手に使っていることに対する謝罪を述べる。


「申し訳ございません。お嬢様のわがままでこちらのお部屋を使わせてもらっています」


お嬢様のわがまま?

おいおい、他人の部屋に入り込むとは一体、何処のお嬢様……だ?


俺はベッドに視線を送る。

すると、そこには横たわり眠っている女性がいた。

こいつがわがまま令嬢だなっと思ってよく見てみると……意外なことになんと……悪役令嬢だった。


訳が分からないのでとりあえずメイドさんに聞いてみる。


「えっと、どうして俺の部屋に?」

「すみません。私にもわからないのです。実はお嬢様は体調不良で横になっていたのですが起き上がるなり急にあなた様に用があると言ってこちらを訪れたのですが……」

「で?なんで寝ているの?」

「待ちくたびれたみたいでして」

「どのくらい待っていたのですか?」

「15分ぐらいでしょうか」


15分って……

こいつはお子様か?


「お嬢様、お嬢様」


メイドさんがローズをゆすって起こす。

しかし、ローズは起きる気配がない。


「困りましたね」

「……くぅ」


全く起きる気配のないローズは本当に気持ちよさそうに眠っている。

ただ、流石に俺も今日は疲れているので帰ってもらいたのだが……。


一応、二人部屋を一人部屋に変更してくれたおかげでソファがある。

俺はベッドを占領されているのでソファに腰を下ろす。


「よっこいしょ」

「うふふ、おじいさんみたいですね」


メイドさんが俺に笑いかけてくる。


「いやー疲れているんですよ」

「そうなんです。お疲れのところ申し訳ありません」


またしても頭を下げるメイドさん。


「いや、別にいいですよ……気にして……ません」


あ、やばいな。睡魔が襲ってくる。

このままでは眠てしまうと分かっていながら俺は睡魔に勝つことは出来なかった。


「おやすみなさいませ」


ああ、メイドさんが俺に毛布を掛けてくれている。

申し訳ないと思いながらも睡魔に抗えずそのまま眠りに落ちるのだった。





翌朝


俺はどうやらそのまま、ソファで眠ってしまったようだ。

目が覚めると何故か左腕がしびれている。


「ちょっと、何しているのよ!」


ヒステリックな女性の声がするので目を開けると、目の前には悪役令嬢のローズが体の前で腕を組み仁王立ちしていた。


「あ、おはよう」

「おはようじゃない、これはどういうこと!」


どうしたんだ?朝からご機嫌斜めだな。

寝ぼけた頭ではどうにもローズの言っていることが理解できない。

一体全体、何を怒っているんだ?


ずれ落ちた姿勢を直そうとしたときに左腕のしびれの正体がわかる。


「え……?メイドさん?」


なんとソファの横で俺の左腕を枕にメイドさんが寝ていたのだ。


「アンネリーゼ、起きなさい!」


このメイドさんはどうやら、アンネリーゼという名前らしい。

って、そんなことよりも何故、ここで寝てるの?


「あ、おはようございます、お嬢様」

「あ、あんたも呑気におはようじゃない。どうなっているのよ?」

「え?ああ、昨日はなかなか起きないお嬢様を待っていたら私も眠くなったので寝たのですが」

「どうしてサムの腕枕で寝ているのよ」

「気持ちよさそうでしたので」


次第に顔が真っ赤なトマトのようになるローズ。

その直後、彼女が地団太を踏みながら雄たけびを上げる。


「もう!サムもアンネリーゼも二人とも離れてぇぇぇ」

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