第31話 お気に入りの軍服
俺たちが敵の情報と戦略を話し合っていると偉ぶった声が近づいてくる。
「おい、独り言なら仕事が終わってからにしろ」
ちなみに白桃の写ったウインドウ画面を第三者が見ることが出来ないため独り言を言っているように思ったのだろう。
そして、嫌悪感がする声の主は案の定、俺の大嫌いなポルトンだった。
俺に近づいて、わざわざふんぞり返って立っていた。
「あ、あの……サム」
その嫌な奴とほぼ同時に現れたのは聖女モニカ様だった。
しかし、先ほどの露出の高いドレスの上に地味な色のトレンチコートを着ており、髪を上げ月桂樹で作られた冠、月桂冠を頭にのせている。
ただ、派手過ぎず地味すぎずで少しばかり大人っぽく見える聖女モニカ様に変身していた。
元気いっぱいのモカの姿ばかりを見てきた俺としては別人のように思えてしまう。
「これは聖女モニカ様、出陣前の励まし痛み入ります」
ポルトンは兵士としてモニカに頭を下げる。
「おい、サミュエル、貴様は土下座だ。俺がいいというまで顔を上げるな」
「あぁ?」
「生意気な奴だな」
反抗的な態度を取る俺にポルトンは俺の頭を掴み地面に叩きつける。
「グッ」
ポルトンはそのまま俺を押さえつけて俺の額を地面にこすりつける。
「聖女様の前で無礼を働くな」
「え……あ、あの……その……」
俺の姿にモニカはどういう表情をしているのだろうか?
まあ、既に俺のことを見下して入るだろうが、聖女として下手なことは言えないのだろう。
言葉が見つからずに口ごもっている。
にして、なんとも情けない姿であるが致し方ないことなのだ。
今のポルトンに逆らうということは死を意味する。
たぶん、他の兵士達は許してくれないだろう。
素直にポルトンに従うしかない。
それがもし、死ねという要求であってもだ……まあ、本当にそんな命令されたら逃げ出すけどね!
「わたし、精一杯歌いますので……頑張って下さい」
「ありがたき幸せ。このポルトンは聖女モニカ様のために粉骨砕身の思いで戦わせていただきます」
聖女モニカに美辞麗句を並べ立てるポルトン。
ただ、俺はその隣で額を地面にこすりつけているだけだった。
「おい、貴様も感謝しろ」
理不尽にも俺はポルトンに蹴り飛ばされる。
そして、無様に転がっていく。
「クッ」
我慢だ……我慢しろ、俺!
土下座をしてモニカに感謝を述べる。
「聖女モニカ様、ありがたき言葉頂戴致しました」
「…………はい、頑張ってください」
それにしてもなんぜこいつら俺のところに来たんだ?
頼むから俺の邪魔するなよ……全滅しそうなんだから。
「すみません、時間を取らせてしまい申し訳ありません。騎士ポルトン」
俺との対応とは打って変わってしっかりとした口調でポルトンとは話をする聖女モニカ様に少しばかりモヤモヤする。
「とんでもございません。出陣前の激励、しかと承りました」
ポルトンはモニカの前では巨大な体をしっかりと固定して紳士にふるまう。
流石は腐っても貴族の息子、礼儀作法は出来ているなっと感心する。
ポルトンの挨拶を聞いてお辞儀をして聖女モニカは踵をひるがえしてアンソニー殿下の元へと帰っていく。
聖女様がいなくなるとすぐに俺の背中に足をのせるポルトン。
「準備は出来ているな?」
「はい、ポルトン様」
俺は頭を上げることなくそのままの体勢で返事をする。
ポルトンは俺の返事が気に入らないのか3度踏みしめて唾を吐く。
「ふん、お前みたいなのをドラゴンの餌にしないだけでもありがたく思うんだな」
反抗することなく俺はポルトンに感謝した。
「ありがとうございます」
ポルトンはマギネスギヤに乗り込む。
ただ、マギネスギヤのコックピット入り口とポルトンの腹回りが同じサイズなので乗り込むというよりも押し込むというほうが正解だ。
あーさっき綺麗に磨いたのに絶対に入り口に腹が擦れたキズが付いてるよな……また後で磨こうかな。
それよりも……だ。俺は……
「あーぶん殴りてえ」
「ダメですよマスター」
「戦闘プログラム実行しなきゃいいんだろ?」
「それではあのブヨブヨにあまりダメージが通りませんよ」
「あのブヨブヨにそんな防御力が!」
「あれだけあればありますね」
「マジかよ」
どうやらポルトンは巨体を生かした防御力を保有している事実に驚いた。
ただの肉団子ではないということか!
「まあ、マギネスギヤの操作に支障が出る体系ですが」
「だよな、この間も一人で降りれないで結局降ろしてもらっていたよな」
ちょっと白桃の機嫌が悪いことに気が付いた。
まさか、俺のために怒ってくれているのか?
AIの癖にいい奴だな……いいAIか。
「ありがとうな、白桃」
「ん?何がですか、マスター?」
「いや、俺の仕打ちに対して怒っているんだろ」
「え?なぜですか?」
「は?いや、機嫌が悪そうだからてっきり」
「あのブヨブヨは犬の糞を踏んだ靴でマギネスギヤに乗ったんです。あれは私も整備を手伝ったので愛着があります。そのような汚い靴のまま乗り込むなんて言語道断です!」
なんだよ、俺が踏まれたり蹴られたりしたから怒ってくれているものだと……あれ?ちょっと待って……ポルトンの足の裏に犬の糞?
「なあ、白桃」
「なんですか、マスター」
「もしかしてだけど、俺の背中……」
「……エンガチョ」
「テメェ!」
俺はすぐさま来ている上着を脱ぎ棄てる!
「……はぁ、この軍服、カッコいいからお気に入りなのに……」
予備の軍服を申請してもいいものだろうかと考えながら俺は戦場の様子を少し離れた場所から伺うことにした。
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