第28話(モニカ視点)

私のお願いを神様が聴いてくれているかどうかは分からないが、チャンスがすぐにやって来た。


現在、自宅に戻るために自動車に乗っている。

ただ、同乗しているのはアンソニー殿下ではなく

伯爵令嬢にして私の侍女をしてくれているザラシア=ノーブル、ザラと一緒に乗っていた。


「雨がふりそうね」

「そうですね」


私が天気の話を振るもザラは微動だにせず背筋を伸ばした状態で答える。

無愛想なのだが、とても美しい姿勢を見て私も見習い背筋を伸ばす。


それは本当にふとした瞬間だった。

これが聖女の力なのかどうかわからない。

どちらかというと女の感だと思う。


(近くにサムがいる!)


私は見えもしないサムを感じ取る。


「お願い、止めて」


運転手は急に止めて欲しいという私のお願いに戸惑いながらもブレーキを踏み自動車を止める。


「聖女様、どちらへ?」

「ごめんなさい、私、行かないと」

「?」


ザラは私の言っている意味が分かっていない。

私もザラにどう説明すればいいのか分からない。


「傘借りるね」

「あ、聖女様、待ってください」


ザラの制止を振り切り自動車から飛び出す。

そして、サムのいる場所へと向かう。


私にはサムのいる場所がはっきりと分かった。

その場所がなぜわかるのか分からないがとても胸騒ぎがする方向へ足を向ける。

私は居ても立っても居られない状態で走ってその場所へ向かう。


そうして、到着した場所には傷だらけのサムがいた。


「冷たい」


ボロ雑巾のようになったサムが呟いている。

本物のサムだ。

ずっと会いたかった……やっと会えた。

目の前にサムがいることに口の中が乾いてしまう。


ただ、凱旋パレード時のロゼッタ公爵令嬢とのツーショットが脳裏を過る。

それと同時に私の心臓がドクンと大きく鳴る。


二人の関係がどうなっているのか聞きたかった。

でも……聞くのが怖かった。

まるで自分が否定されてしまうかのように思えて仕方なかった。

今のサムの中に私がいるのか不安で仕方ない。


「あれ……?」


私はサムが雨に濡れないように自分の傘を差しだす。

正面に向かう勇気が出ずに後ろからという形になってしまう。


サムはその後、振り向き私の顔を見る。

とても驚いた表情をしている。

ああ、よかった……いつものサムだ。


「……サム」


私はあまりの嬉しさに涙が出そうになった。

サムと離れるのは今後のためと言っても辛いものだ。

だけど、彼と一緒になることを拒絶する大きな力があるのも事実。

それを乗り越えるためにもトニーとの婚約は必要不可欠だった。


今すぐにでも抱きつきたい。

そして、抱きしめて欲しい。


「モ……」


サムに「モカ」って呼んでもらえる。

たったそれだけなのにこんなにも心躍るものなのね。


ただ、私の期待はすぐに裏切られてしまう。


「聖女モニカ……様?」


その他人行儀な呼び方に私はサムに突き放されたような気分になる。


「……」


お願いそんな他人行儀はやめて。


私はすぐにでもなんとかしなくてはいけないと思い、サムの手を引き自動車に乗せる。


「聖女様、その方は……どちら様ですか?」


運転手とザラはサムを見て驚く。

ボロ雑巾のようにボロボロの姿でずぶ濡れになっている男性を連れてきたからだ。

当たり前といえば当たり前だ。


「お願い、何も言わずに彼を私の部屋に連れて行って欲しいの」

「しかし」


運転手が私の言葉に戸惑っているのは理解している。

それでも私は強引に彼を自室へ連れて行って欲しいと懇願した。


すると、先ほどまで目を閉じて何か考えていたザラが口を開く。


「わかりました」

「ホント!ありがとう、ザラ!」


ザラが折れてくれた事でサムを自室へと連れ込むことに成功。


「しかし、そのまま聖女様の部屋へお連れすることは出来ません」

「どうして?」

「流石にこの汚れた姿のままというわけには……汚れを落として着替えてもらいます」

「うん、それはいいわ。自室のシャワー室を使ってもらうわ」

「いえ、それはなりません」

「どうして?」

「ですから、この汚れた姿で一歩たりとも聖女様の部屋に入ることは許しません。別の浴場にて体を清めてもらいます」

「……うーん、分かったわ」


ここはとりあえず、ザラの言うとおりにしましょう。


さあ、ここからよ。


私は今日、サムと結ばれる……サムの女にしてもらうことを決心し帰路に就いた。


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