第27話(モニカ視点)

私が聖女になってから早1か月

夏季休暇も終わりが近づいていた。


この夏季休暇はトニーと各地を巡礼していき、忙しい日々が続いている。


特に夏季休暇の最終日には予定が分単位で決められており多忙なことは目に見えていた。


凱旋パレードなんて正直、やりたくない。

早くダーリン……サムに会いたい。

今のやりたいことはそれだけで、それ以外は何も興味を持てなかった。


サムと会えなくなって1か月……このまま永遠に会えなくなってしまうのではと思う。


今頃、サムは何しているのだろう?

ちゃんとご飯食べているのかな?

すぐに食事を抜いてしまうから心配。

夢中になったら倒れるまで突っ走るから……って、本当に倒れてないよね。


ああ、なんだか余計に心配になってきた。


そんなソワソワした気持ちで迎えた夏季休暇の最終日


「聖女様、お着替えを」

「聖女様、お化粧を」

「聖女様、靴を」

「聖女様……」


目まぐるしく多くの侍女が私の世話をしてくれる。

自分で出来るのに聖女となると自分で出来ない歯がゆさがもどかしい。


まずは、凱旋パレード。


大きなフロートの上にトニーと二人で登る。

大きいなとは思っていたが、上にあがると怖いぐらいの高さ。


「大丈夫かい?」


私が不安に思っているのを見抜いたのかトニーが優しい言葉を掛けてくれる。


「ええ、大丈夫」


こうして始まった凱旋パレード。

私とトニーは勇者と聖女として、皆にお披露目することになる。

一体こんなことに何の意味があるのか私にはわからない。

理屈は分かっている。


国民の不安を解消するためのものだと……それなら代役でも立てて欲しいと思うのはわがまま?


「ほら、皆が感極まっているよモニカ」

「ええそうね」


満面の笑みで私に話しかけてくるトニー

私は凱旋パレードに来てくれた人たちへ手を振りながら答える。

ただ、彼の顔を見る気はない。

必要がないからだ。


「冷たいな、こっちを向いてくれよモニカ」


そう言ってトニーは私を抱き寄せる。


「…………」


ここで取り乱すわけにはいかない。

なんせトニーは偽とはいえ世間では婚約者なのだ。

ここで嫌だからといって突き放すことは皆をだましていることを暴露することになる。

それだけはダメ。


「トニーやめてもらえる」


私は笑顔で国民に手を振りながら答える。


「恥ずかしがらないでいいよ。見てごらん、皆が祝福してくれている。もう、いっそのこと本当に結婚するものいいね」


トニーはどさくさに紛れてあり得ないことを口走る。


「……絶対に嫌よ」


私はトニーにも聞こえるか聞こえないかの小声でトニーの発言を否定する。

ため息をつきながら再度、手を振ることに集中する。


そして、私は見てしまった。


「え?サム……?」


地上はかなりの人混みであるが、サムを見間違えるはずはなかった。

サムだ……1か月ぶりのサムの姿。

私は興奮した。


ただ、雰囲気が変わった?

姿かたちはサムの姿をしているけど……うまく言い表せない。


うーん、見たことない服ね……新しく買ったのかしら?

サムの持っている服は全て把握している。

なぜなら全て、私が用意したから。


でも、1か月もあれば服を買ったりするわよね……サムってあんなにもセンスが良かったっけ?


どうしてこんなにも不安になるの……サムに限って言えば絶対にないよね……浮気なんて……。

あの服、高級そうな服ね。

お値段はいくらなのかしら?


私はサムのことを見つけると彼のことが気になって仕方なかった。


「モニカ、笑顔になろう」

「あ、ごめんなさい」


どうやらかなり真剣に見つめてしまったせいで少しこわばった表情になっていたみたい。

気を付けないと、聖女としての仕事を全うして少しでも早くサムのところに帰らないと。


それにしてもサムの隣の女性は……ロゼッタ公爵令嬢?

どうして、サムと仲良くしているのかしら?


あれ、二人して笑ってる?


そんな二人の笑顔に私はゾクッとするような、背筋が凍る寒気が走る。


な、何かしら。

胸が締め付けられるように苦しくなってくる。


でも、笑顔は絶やすまいと笑顔を作る。


「モニカ、顔が引きつっているよ」

「そ、そ、そうね、気を付ける」


ただ、私の予想は的中する。

先ほどの寒気の正体が……。


なんとロゼッタ公爵令嬢がサムの腕にしがみついたのだ。


「なっ!」


思わず声が出てしまう。


「どうしたんだい、モニカ?」

「い、い、いえ、何でもないわ、オホホ」

「……?変なモニカだな」


トニーは気が付いていない。

自分の婚約者が他の男性と一緒に腕を組んで歩いていることに……。

私はあまりに不釣り合いなカップルに仰天してしまった。


サムは男爵の息子……本来なら公爵令嬢と一緒にいるような身分ではない。


一体、何がどうなっているの?


も、も、もしかして、この1か月の間で仲良くなったの?

私がいない間に……これはもう、浮気ね。浮気をしてるのね、サム……。


でも、大丈夫よ……まだ、大丈夫。

まだ、挽回できる。

前のようなことには絶対にならない様にする。

愛する人と離れて暮らすなんて不幸そのもの。

私はようやくわかったのよ。


この婚約ものちの暮らしのためと思っていたけど……これ以上は取り返しがつかなくなりそうね。

彼を引き留めないと。

そのためには、純潔を捧げる……もう、これしかないよね。


でも…………


私は笑顔で手を振るトニーを見る。


「ん?どうしたんだい?」


この人は絶対に許さないだろう。

なぜなら、国家や教会の信頼を一身に受けて頑張っているからだ。


少しでも不安要素は排除するように動くだろう。


それでも、私にとっての不安要素も取り除かなければいけない。


ただ、問題はチャンスがあるかどうかよね。


お願いします神様……どうか私にチャンスをお与えください!

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