第24話 高台

王都でも名高い有名シェフが料理を出すホテル。

かなり高級な料理の数々に貴族御用達で一般人には無縁な場所。

王都の中心に位置するそのホテルは予約を取るだけで半年から一年という。


そんなホテルの5階

それこそ有名シェフが料理をもてなすところにお目当ての人物はいた。


そんな二人を俺とローズの二人は別の場所から監視していた。


しかし、かなり離れているので多分そうだろうという程度しか、認識できなかった。


「ちょっと、遠いな……仕方ない魔導具の出番だ!」

「あなた使えるの?」

「使えない、だからお前に来てもらったんだ」

「えっと、これはレンズに魔力を通すのね、こんな感じ」

「よし、そのまま魔力通しておいて」


俺は魔力を使った望遠鏡によってエリザベス先生の姿を捉える


「OH!NO!」

「ちょっと、どうしたのよ?大丈夫?」


いつものスーツ姿ではなく、ボディラインがはっきりとわかる白のドレスを着たエリザベス先生。

いつも見慣れているスーツとは違った大人の女性の色っぽさに俺はたまらず声を上げてしまう。


「ああ、大丈夫だ」

「…………ちょっと見せて」


ローズが俺から望遠鏡を取り上げる。

そして、そのまま覗き込む。


「……ねえ」

「なんだ?」

「…………スケベ」

「ちょっとまて、俺は純粋に……」

「純粋に?」

「……すごいなって思っただけで」

「何が?」

「な、な、なにがって……それよりもオーナーはいるのか?」

「逃げたわね」

「いいから、俺に見せてくれ」


俺はローズから奪い取るように望遠鏡を覗き込む。

しかし、ローズが手を離すと魔力が通らないのでローズの腕ごと自分に寄せる。


「ふむ、やっぱりオーナーだな」


女神エリザベス先生の目の前にある丸いテーブルを挟んで対面には金髪の日焼け肌のイケメンオーナー。

何やら爽やかな笑顔で喋っている。


そして、その会話でエリザベス先生は手を口に当てて「オホホ」と笑っているように見える。


「……なんか、嫌だ」

「何がよ?」

「エリザベス先生がお上品に笑っている」

「……そうね、それはちょっと……怖いわね」

「だろ」


俺のエリザベスはもっと豪快に笑う人だ。

どこぞのお嬢様のように「オホホ」なんて……もしかして、イケメンオーナーは好印象なのか?


「それにしてもちょっと肌寒いわね」

「そうか?」


夏季休暇が終了して日が暮れると風が冷たくなる。

俺は張り込むつもりで来たのでコートを着てきた。


しかし、ローズは学園の帰りに魔導具屋へ来たので、レース素材で風通しの良い夏服。

それにここは向かいの建物を見下ろせるような高台。


確かに風が肌に触れる場所は少し肌寒い。


「ねえ、もう帰りましょう」

「ちょっと待ってくれ、もうちょっと」


俺はエリザベス先生の意外な一面を見ているという状況に興奮していた。

確かにフラれてしまったが、いまだに未練がましく彼女にどこか思いを寄せているのだろう。


自分では引き出せないようなエリザベス先生の一面に嫉妬していた。

自分の思い人が別の男の前では自分の見たことのない姿を現しているのだ。


焼きもち、嫉妬


この感情以外の何物でもない。


「ねえ、もう寒くて無理帰るよ」

「ちょっと待て、寒いならほら」

「え?キャァ」


俺はピーチクパーチクうるさいローズを黙らせるために自分のコートの中にローズを入れた。

流石に俺のコートの中は暖かいのだろう。


しばらくの間はじっとして黙ってくれていた。


俺は今、忙しいのだ。

目が離せない。

エリザベス先生の一挙手一投足が気になって仕方ない。

そして、イケメンオーナーは雇い主ではあるが、負のオーラを送り続けていた。


「クソ、会話が聞こえない!」

「無理でしょうね、この距離だと」

「やっぱりあれか、読唇術を使うしかないな」

「へぇ、あなたすごいのね」


感心してくれているローズを気にせず、俺はイケメンオーナーの唇を読む。


”ア・イ・シ・テ・ル”


な、な、なんだってー

ストレートに来たな!


「あら、直球なのね。男らしくて良いじゃない」

「良いわけあるか!」


そして、俺はその返事が気になりエリザベス先生の唇を読む。


”ワ・タ・シ・モ・ヨ”


「チクショォォォォォ」


エリザベス先生の返答に俺は発狂してしまう。


「ちょっと、うるさいわね。耳元で大声出さないでよ……それにしても信じられないわね」

「ああ、俺だって信じられない。っていうか信じたくない」


俺の目から汗が溢れ出てくる。

なぜだ、なぜあの男なんだ。


「そうよね。でも、人の好みってわからないものね」

「ああ、そうだな。あんな男のどこがいいんだ?」


ローズは自信満々に俺の問いに答えてくれる。


「そりゃあ、お金持ちでイケメンでスタイルもいいわね」

「……チクショウ、勝てる要素がねえ」

「それよりもさ」


ローズはとても不満そうな顔を俺に向ける

だが、俺としてはおセンチな状態なので、ローズの言葉にムッっとする。


「それよりもって俺にとっては一大事だ」

「そうじゃなくて、今の状態分かってる?」

「何のことだ?」

「私ね、女なの、淑女なのよ」


一体何を言っているんだ?

ローズの言いたいことが分からない。

コートの中でぬくぬくしているローズ。

顔が少し赤いからもしかして、暑いのか?


いや、淑女?

女であることを主張?


「…………」


もしかすると、胸の大きさでエリザベス先生に負けているのを気にしているのか?


俺は再度、望遠鏡を覗き込み、女神のたわわに実ったものを拝む。

そして、今度はローズの発展途上国を確認


「大丈夫、ローズも女だ!」


俺は自信満々に答えた。


「どこ見て言ってんのよ!」


バチン


こうして俺の左の頬には真っ赤なもみじが出来上がる。


「それよりもあなた、読唇術が使えたのね」

「いや、今、初めて使った」

「…………バカね」

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