第22話 プロポーズ

本日の俺の仕事は魔導具ショップの店番だ。

学園の授業料が未納のために汗水を垂らし働く必要がある。


「はぁ」


当たり前のことだと分かっている。

別に働くことが嫌とかはない。

前世は完全なる社畜だった俺からしてみたら店番なんて遊んでいるようなものだ。


俺は魔力がないので扱うことが出来ない魔導具がたくさんある。

しかし、魔導具の理論は結構面白い!


本来なら俺の好物である魔導具。

マギネスギヤの次にこの世界で興味のあるものだ。


「はぁ」


だが、そんな好物に囲まれた環境でも気分が上がらない。


なぜか?


それは昨晩のエリザベス先生の部屋で起こった出来事だ。



☆彡



俺はエリザベス先生の部屋の前で立ち止まる。

ぱっと見の見た目は木製のどこにでもある普通のドアだ。

ただ、かなりの板厚のあるドアのため重厚感がある。


うちの学園は泊まり込みで働く先生が多く、先生のための独身寮が完備されている

先生の部屋の前は他の部屋と変わらず殺風景で通路とドアのみ。


しかし、このドアの向こうには俺の知らないエリザベス先生……エリーがいるに違いない!


期待と不安に胸に抱き先生の後に続く


「入ってくれ」

「おじゃまします」


日本のように靴を脱ぐ場所があるわけもなくそのまま部屋へ移動。

間取りとしては1DKという感じで風呂とトイレも完備。

流石、国内ナンバー1の学園の独身寮ということだけはある。


にしても、本当にここは女性の部屋なのかと思うほど……何もなかった。

全くと言っていいほど生活感がない。

先生……本当にここに住んでいますか?


「適当に座ってくれ」

「あ、ありがとうございます」


先生が座ってくれという目線の先には腰ぐらいの高さのテーブルにイスが4つあった。

これもまた、何も変哲もない木製のテーブルとイスのセット。

テーブルの上には花すら置かれていない。


本当にないもない部屋にポツンと木製のテーブルとイスが置いてあるだけだ。


俺はイスを引き腰をかける。

俺が座るとその対面にエリザベス先生も座る。


向かい合う二人。

しかし、何故か先生は少し思い悩んでいるようにも思えた。

そうか、そんなに真剣に俺との将来のことを考えているのか。


ただ、少しばかりの沈黙が俺は耐えることが出来なかったので口を開いてしまう。


「とてもいい部屋ですね」

「ああ、そうだな」

「ここなら居心地がよさそうだ」

「ああ、そうだな……」


ふいにエリザベス先生は影を落とす。


「どうしました?」

「いや、気にするな」


あれ?もしかして、地雷踏んじゃいました?


エリザベス先生は30超えても独身。

独身寮が住み心地が良くて出られない。

のではなく、結婚相手がいないから出られない。

それを住み心地がいいから出られないと掛けて馬鹿にしてしまった?


まさか、そんな風に思っていませんよね?


ここは弁明せねば!


「いや、決して結婚できないとかそういう話をしているつもりは」

「き、き、きさま……殺されたいらしいな」


あ、どうやら、先ほどの発言が地雷を踏みぬいてしまったようだ。

ど、ど、どうしよう?


「さあ、ここは私の部屋だ、死体が転がっていもおかしくないな!」

「いえ、普通におかしいです。自宅に死体が転がってるっておかしいですよ!」


腰に差していた剣を抜き、その切っ先を俺に向けるエリザベス先生。

抜き身の剣を構えるエリザベス先生はカッコイイ。

様になっている。

しかし、その剣先が俺に向かっているという事実が恐怖以外何者でもない。

ただ、恐怖と同時にちょっと涙目のエリザベス先生が可愛いと思ってしまった。


「先生!話が……話があるのでは?」

「(ぷるぷる)……そうだったな」


俺は話題のベクトルを変えるべく先生をなだめる。

しばらくすると震える剣先が俺から離れていき、俺は「ほっ」っと安堵する。


「貴様の学費だが、少しばかりは待ってもらえることになった」

「本当ですか?」

「ああ、ただし条件付きだ」

「条件?」

「まずは、これから1か月、私の知り合いの紹介の店で働いてもらう」

「それから?」

「とりあえずは店の手伝いのみだ」


なるほど……その話をしたくてここに呼ばれたのか。

あれ?

それじゃあ、もしかして……今夜、俺が狼になることは……なし?


「先生」

「なんだ?」

「それだけですか?」

「……?それだけって、十分大変なことだろ?」

「……いや、もっとこう……先生の気持ちとして……なんというか……」

「貴様は何が言いたいんだ?」


俺は勇気を振り絞ってストレートに聞いてみることにした。


「いえ、部屋に呼ばれるのでもしかして、俺と男女の関係になりたいとか?」

「は?お前とか?ないな」


あっさり、きっぱり、そして即レスで断られる。


「貴様を男として見れるわけないだろ」

(チーン)


……いや、まだだ。

なら男として見てもらうために……俺がすることは……


「エリザベス先生、いえ、エリザベス、俺はあなたが欲しい」

「……は?何を言っているんだ。私が欲しい欲しくないなど、私は物はない」


エリザベス先生……もしかして、そこまで恋愛音痴だっとは……。

ここはど真ん中のストレートに言うしかないのか?


俺は深呼吸した。

真剣な目つきでエリザベスを見つめる。

そして……


「エリザベス、結婚しよう」


ここで茶化したりは絶対にしない。

真剣であること、エリザベスを好きなことを打ち明ける必要がある。

そのためには姿勢が大事だ。


しかし、エリザベス先生は呆れた顔をして顔に手を当てる。


「……はぁ?馬鹿にしているのか」

「いや、本気です」


俺は真っ直ぐにエリザベスを見つめる。


「……ああ、わかった。お前は疲れているんだな?」

「違います」

「なるほど、ふざけているのか?」

「それも違います」


エリザベスはイスから立ち上がり俺に指さす。


「まあ、いい。明日から仕事をしてもらう。それだけだ」


流石に俺もここまで相手にされないとなると、黙ってはいられない。


「俺は真剣に言っています。答えをください」

「……わかった」


エリザベスは玄関へ体を向けていたが、俺の方へ振り向き鋭い視線を向ける。


「答えは"NO"だ」

「な、なんでですか?」

「さっきも言っただろう。貴様を男と見ることは出来ない」

「…………………………」





エリザベス先生の回答に俺は何も答えることは出来なかった。





その後、俺は自室に戻れないので別の部屋を借りて一晩を過ごした。

しかし、朝になってどうやって別の部屋に移ったか覚えていない。

ましてや、ここはどこ?状態。


幸いバイト先の2階ということもあり、初出勤は何とか遅れず無事に出社することが出来た。

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