第21話 学生寮のアート作品

俺はトボトボと歩いて寮の自室へと戻る。


「はぁ」


出るのはため息ばかり。

エリザベス先生から渡された紙は将来の伴侶としての約束ではなく……金を出せ!という内容だった。


『授業料未納』


エリザベス先生が手渡ししてくれた紙を見つめる


「はぁ」


ため息しか出ない。


それにしてもなぜ授業料未納になったのか?

大方の予想だがモカのオヤジ……聖女モニカの父親にあたるマクスウェル男爵のせいだろう。


本来ならマクスウェル男爵が俺を支援するという名目でこの学園に通わせてもらっている。


一応、俺の母親はマギネスギヤのパイロットとしては超一流で名前もエリザベス先生並みに知れ渡っている。

まあ、流石にあれほどの実力者の息子が魔力ゼロの無能とは誰も思うまい。

おかげで変なとばっちりを受けずに済んでいる。


そんなすごい女に貸しを作っておいて損はないというのがマクスウェル男爵の魂胆だろう。


しかし、今やモニカ……娘が聖女になったのだ。

マギネスギヤのパイロットを支持するなんてことは些細な事になってしまったのだ。


たぶん、金は全て聖女モニカへの支援金にでもなっている。

まあ、モニカが一定の戦果を出せば、後は遊んで暮らせるだろうからな。

ましてや自分の実の娘だ。

俺なんかよりもよほど大切だろう。


それにしても、どうしたものか。


母は他国へ遠征に行っているので連絡手段がない

俺は金を稼ぐ必要があった


「仕方ない、社会勉強としてバイトでもしますか!」


でも、この世界に来て仕事なんてしたことがない。

俺にできることがあるのだろうか?


それにしても一体、どんなものがあるんだろ?


時代的には、産業革命が起こってはいるがまだまだ人力が主流だ。

というよりも魔力なんてものがあるから機械の利便性が低いんだよな。

下手な機械よりも魔法を使ったほうが便利という……なんと言えばいいのやら。


まあ、魔力のない俺が出来る事なんて小売業の荷下ろしや店番ぐらいか?

明日でも組合ギルドへ行って登録しようかな。


「よし!稼ぐぞ!」


俺は拳を作り天高く掲げる。


胸を張り背筋を伸ばして自室のドアを開けると……


「……………はぁ」


現実を見てしまう。



またもや、猫背で暗い顔をして、ため息付きながら俯く。


まあ、教室の机やイスと同じような被害をここでも受けていた。

壁一面にアートが描かれ、ベットは中身が爆発している。


机と椅子に至ってはもはや原型をとどめていなかった。


これ、どうすればいいのだろうか?

俺は何もない左肩付近に話しかける。


「なあ、白桃」

「なんですか、マスター」

「これ、何とかして」

「ん?これをですか?」

「ああ、頼んだ」

「ご自分で片づけてください」

「……薄情者」

「それよりも誰か来ますよ」

「ん?」


白桃の促される方向へ視線を向ける。


すると、廊下の向こうから女神のような美しいプロポーションの女性が見える。

カツカツとヒールの音が心地よく歩く姿はまさにパリコレ。


「あれ?エリザベス先生、どうしたのですか?ここは男子寮ですよ」

「ああ、分かっている」

「……はっ!もしかして……男子生徒がお好みで?夜這いですか?」

「そ……そんな……ハレンチなことはしたことが……!!!って何を言っているだ、馬鹿者!」


おや、もしかしてエリザベス先生は清らかな乙女ですか?

……やばいな、誰か貰ってあげて!まじで好みだわこの人……!理性が吹っ飛んだら襲っちゃうよ?


「オホン、それよりもサミュエル、自分の部屋の前で何を突っ立ている?」

「いえ、どういえばいいのか……アハハ」


俺は後頭部をさすりながらごまかそうとした。

しかし、俺の態度が不自然なのは目に見えている。

エリザベス先生は俺の部屋を覗く。


「ふむ、ちょうどいい」

「え?先生、ちょうどいいって、ひどいじゃないですか!」

「あ、いや違う。そういう意味ではない」

「じゃあ、どういう意味なんですかね」


俺はエリザベス先生に顔を近づけて先生にガンを飛ばす。

あまりに顔を近づけてしまって気持ち悪かったのか、はたまた息が臭かったのか分からないが顔を逸らすエリザベス先生。


「いや、その……だな」

「ええ、なんですか?聞きましょう」


この部屋を見て、ちょうどいいと言われたことに、流石に俺はムッとしていた。


「ああ、もう離れろ!」


俺が顔を近づけているため話が出来ないとエリザベス先生は俺を突き飛ばす。

その力が意外にも強く、俺の腹部に強烈な一撃がクリーンヒット。


「ぐふっ」

「あ、すまん」


俺は腹部を抱えてうずくまる。

エリザベス先生は俺と少し離れたかっただけだろう。

ちょっと照れている感じがしたので可愛いと思っていたが……油断した。

ここまで力強いとは……


「立てるか?」


俺を気遣って手を差し伸べてくれるエリザベス先生。


「先生酷いですよ、責任取ってください」

「す、すまん。そのなんだ……私の部屋に来るか?」

「え?」


やっぱり、エリザベス先生は俺のことを一人の男として見てるのか?


もしかして、今晩の俺は狼になっていいの?


俺は乱れるエリザベス先生を妄想しながらエリザベス先生ことエリーに付いて学園の寮を後にする。

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