第19話 謎の美少女

「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」


何やら教室が一気に騒がしくなった。


(めっちゃ、可愛くね?)

(一目惚れしたぞ、俺、放課後告るわ)

(天使のような美少女だ)


男どもの欲望がかなり前のめりになっているご様子。

俺はそんな男子どもの美少女という単語に隣の脚の長いイスに座るローズを見上げた。

ローズは少々面白くなさそうに不貞腐れた顔で頬杖を付いていた。

あら、対抗意識?


「なあ、ローズ」

「なによ」

「お前は可愛いよ」

「え?ちょ!……いきなり何よ!」


ローズは俺の言葉に驚き頬を真っ赤に染める。


「いや、対抗意識でもあるのかなっと」

「誰が誰によ」

「謎の美少女とローズの比較じゃないのか?」

「何よそれ」


クスッと笑うローズは満面の笑みで俺の問いかけに答えてくれる。


「で、今はどういう状況なの?」

「転校生が来たのよ」


ローズはまた頬杖を付いて仏頂面になる。


「なんだ、嫌な奴なのか?」

「そんなわけないでしょ……まあ、私たちの知り合いよ」

「え?」


俺とローズの共通の知り合いで美少女?

心当たりが……って……まさか?


「それじゃあ、自己紹介をお願いします」


担任のエリザベス先生の声がする。

ん?エリザベス先生がお願いします?敬語?これはもう……


「はい、ソフィア=エルミレンディです。皆さん、よろしくお願いいたします」


やっぱり、ソフィアって……あのソフィア?


「ぬおおおお」

「ソフィアちゃーん」

「結婚してくれ~」


ソフィアの自己紹介に騒然となる我がクラスの男子たち。

見えないがかなり興奮しているのは手に取るようにわかる。

一気にすごい人気ものになったな。


「静まれ、男子」


パンパンと柏手を打ち男子どもの喧騒を鎮める先生。

エリザベス先生に逆らうと怖いんだよってのを皆、身に染みて分かってるな。


「それじゃあ、ソフィア様……おほん、ソフィアさんの席だが……ん?今日はサミュエルはさぼりか?」


先生……姿が見えないからってサボりと決めつけないで!


「先生、俺、ここにいます」


俺はローズの机から手だけを出してエリザベス先生に手を振る。


「貴様、なぜそんなところに隠れている」

「机の芸術を保護するためです」

「芸術だ?」


すぐにエリザベス先生の足音が聞こえた。

どうやら俺の席に向かって移動しているのだろう。


「なっ!」


エリザベス先生は俺の机を見て絶句する。

しばらく考えたのち、エリザベス先生は教壇へ戻り


「新しい机とイスを用意するか待っていろ。それとそこではロゼッタお嬢様の邪魔になる。すぐに退去しろ」

「先生、私は大丈夫です。机が用意できるまでこのままでもいいですよ」

「しかし……」

「構いません」

「……わかりました」


流石のエリザベス先生もローズの言うことは聞くようだ。

まあ、本来ならお姫様って言われてもおかしくない存在だしね。


「サミュエル、貴様、ロゼッタお嬢様の邪魔だけはするなよ」

「はーい」


俺は逆らうことなく、またしても机から腕を伸ばして手を振る。


「それではソフィアさんの席はこの一番前の席に……」

「エリザベス先生」

「なんでしょうか?」

「私、サミュエルさんの隣がいいです」

「「「え?」」」


ソフィアの提案にエリザベス先生だけではなく、生徒が全員驚きを隠せなかった。


「そ、それは、どのような意味で?」

「私は他国から来ましたので学園生活が不安なのです」

「はぁ」

「ですので、知人であるロゼッタさんとサミュエルさんと一緒にいると安心できるかと思いますがダメでしょうか?」


エリザベス先生は「うーん」と唸っていた。

しばらく、というかほんの少し考えて「ヨシッ」と自分で納得したかと思うといきなり俺の名前を呼ぶ。


「サミュエル、立て」

「はい」


俺はエリザベス先生の声に反射的に立ち上がり直立不動の姿勢をとる。

そして、見えた姿はやはり俺の知っているソフィアだ。

金色に輝く髪が特徴的で、その長さは腰まで届く。

細くて長いまつ毛が瞳を際立たせ、ライトブルー瞳には光が宿っている。


「サミュエル、お前がここに座れ」


エリザベス先生が出した回答は俺が本来ソフィアの席に座ることだ。


「ソフィア様、しばしお待ちください。ロゼッタお嬢様の隣に席を用意しますので」

「あ、サミュエルさんがここに座るなら私も一緒に座ります」


またしても、ソフィアの発言に教室が驚く。


「「「えっ!」」」


またしても驚きの声がハモる。


そして、一つの机に二人が座るという構図に教室の空気が異様なほどどんよりと沈む。

俺は明らかに殺意の籠った視線を男子生徒一同から受けることになる。


ただ、俺が持って行ったイスはミックのイスで普通の机ですらイスの高さが足りなかった。


「あの、サム、ここに座ってください」


なぜか、馴れ馴れしく名前で呼ぶソフィア


「いや、でも、そこはお前の席だ」

「大丈夫です、私は特別なイスがあることを思い出したので」

「そうなのか?」

「はい!」


俺はソフィアに促されるままソフィアのために用意された普通の椅子に座る。


「では私も座りますね」

「ちょ……ソフィア……さん」


なんとソフィアは俺の膝の上に座ってきたのだ。

前が見えないだろうと気を利かせてお姫様抱っこするかのように横に座る。

俺は彼女の姿勢がきつそうなのでとっさに抱きかかえてしまう。


「サム、ありがとう」

「え、あ……」


これにはクラス全員、開いた口が塞がらない状態だった。


「サミュエルよ……すぐに新しいイスをすぐに用意するから待ってなさい」

「お、お願いします」


流石のエリザベス先生も焦っているのが見て取れる。

そりゃあ……ソフィアの正体を知っているだろうからね。

何かあれば先生の立場がやばいもんな。


そのあと、他の先生たちがアート作品になっている机とおまけ付きのイスを撤去してくれ、真新しい机といすのセットが用意される。


その机に腰かけようとするのだがなぜかソフィアもついてくる。


それに見かねたエリザベス先生は


「ソフィア様……ゴホン、ソフィアさん……彼も学業に集中する必要がありますのでご自分の席で授業をお受けください」

「……仕方ありませんね」


あっさりと引き下がるソフィア


「では、また後で」


ウィンクしながら立ち去るソフィア。

ご機嫌なソフィアとは裏腹に俺に突き刺さる殺意の視線


うん、夜道には気を付けようと思った。

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