第18話 アート作品

「サム、あなた本当に嫌われているのね」


目の前に現れた女子生徒は昨日デートした制服姿のローズだった。


ただ、昨日のような砕けたものではなく令嬢として気品あふれる言葉遣いをしている。

なんだろう、ちょっと寂しい。

ちなみに腕を体の前で組んでいるが対して大きさが分からないのは何故だろう?


「ああ、おかげさまでな」

「ねえ、あなた、何か変なこと考えてない?」

「いや、別に」


俺は小さいのも好きだが、野暮ってものなので視線を逸らす。


「はぁ、サムって本当にバカなのかしら」

「バカ?違うね」

「へぇー、それじゃあ何なのかしら?」

「超バカだ!」


俺の回答にローズの髪留めが少しばかりずれ落ちる。


「ねえ、自分で言っていて虚しくない?」

「ふっ……」


透かした顔でごまかす。

それを見たローズの髪留めは完全にずれ落ちたのですぐに拾い上げて元の位置で留める。


「それにしてもこんなことに使うことになるなんて」

「何をだ?」

「はい、これ」


ローズが取り出したのは木で出来たイスだ。


「おお!」

「ほら、私の傍にいらっしゃい、そこだと勉強出来ないでしょ」

「いや、いいのか?お前の席は……」

「仕方ないでしょ、ほら早く来る」

「わ、わかった」


ローズにせかされて俺は教室の一番後ろの豪華な席へと移動する。


ただ、俺たち二人が並んでいると非常に目を引いてしまう。


(おい、どうなっている)

(そんな、お姉さま……)

(もしかして、慰め合ってるの?)

(くそ、ロゼッタお嬢様と仲良くしやがって)

(やっぱ、サミュエルのやつ〇ね)


まあ、今まで全く接点のなかった二人だ。

しかも、身分は天と地ほど違うから一緒にいること自体がおかしいだろう。


「気にしちゃだめよ」

「わかってるよ」


こんな時でも俺に気を遣うなんて本当に出来たお嬢様だな。


しかしながらほとんどのクラスメイトは俺たちの関係に妙に納得してる節もあった。

何故なら俺たちには共通点があるからだ。

そう、婚約破棄された似た者同士、そして周りからは傷のなめ合いなどと思われている。


一番後ろの席は教卓よりも大きく宝石などの飾りつけはないが材質は超一流のモノで作られていた。

それもそのはずだ。

公爵令嬢とは公爵家のご令嬢である。

公爵とは王様の次に偉いのだ。

そのせいだろうか?机やイスが普通の学園の備品よりも脚が高く作られている。

イスなんて完全に一段登って座る必要があった。

だからこそ、このイスはちょっと……。


「なあ」

「どうしたのかしら?」

「このイスって」

「ええ、職人に作らせた一流のイスですよ」

「おい、そんなこと聞いてねえよ」

「材質はもちろんトレントという……」

「そこはどうでもいい!それよりもイスの足の高さ!」

「……ほら先生来ますよ」

「……」


ローズは話を逸らしてしまう。

俺は仕方ないのでイスに座り前を見るとこに。

ローズの席はVIP席で幕板が付いているため前の席から足元が見えないのだ。



おかげで俺は…………前が見えない。



「何も見えねえ……」

「仕方ないでしょ……ミックのイスしかなかったのよ」


俺が愚痴を言うと少し顔を赤めてローズが衝撃の事実を語る。


「ちょっと待て、なぜ2歳児のイスを持ってきた」

「だから、それしかなかったのよ」


おいおい、2歳児のイスって……いや、待て……俺が乗ってもビクともしないな……これ、木の素材から組み方からすごい拘りが見て取れる。

素人が見ても「凝ってるな」と思えるのだ


「ってか、2歳児のイスにしては高級だな、おい」

「だって、可愛い天使のイスよ……もっと豪華にそれこそ玉座にしたかったわ」


ローズのブラコンが発揮されている。

しかも、顔がイってるよ……ちょっとヤバイ……ミックよ、強く生きろよ

それにしても玉座って……


「いや、2歳児が玉座なんて座りにくいし、落ちたらあぶねえよ」

「それもそうね」


やっと我に返ったローズ。

いつも通りの表情に戻り前を向く。

そして、俺も前を向く。

ただ、依然として俺の視界には机の脚しか見えないのであった。


授業が始まっても何も見えない俺はローズの立派なイスの脚にもたれ掛かって睡魔という誘惑に身を委ねる。


しばらくすると一限目が終了したのか皆が席から立ちあがる。

俺は机の脚しか見えないのだが他の生徒のイスが床に引きずられる音で目を覚ますのだった。


「おはよう」


俺の頭上から朝の挨拶が聞こえる。

その声の主は少々ご立腹なのだろうか?

少しばかり声のトーンがいつもより低かった。


「あ、おはよう……どうした?」

「いえ、気持ちよさそうで何よりです」


やっぱり少し怒っていらっしゃる

ローズは……女の子なのかな?


「生理か?」

「違うわよ、いびきがうるさかったのよ」

「あ、それはすまん」

「しかも、淑女に生理かどうかストレートに聞くって最低ね」

「まあ、気にするな」

「はぁ……」


ローズとスキンシップを取っていると次の授業を知らせる鐘が鳴る。

皆、足早に各自の席へと戻っていく音だけが聞こえるのだった。

目の前は机の脚しか見えないけど意外と教室の様子が分かるものだと感心する。


「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」」」


何やら教室が一気に騒がしくなった。

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