第17話 二学期の始まり
今日から夏季休暇が終わり二学期の始まりだ。
とても穏やかな晴天の日
のんびりとした学園生活を思い描くもそれを早々に壊してくれる人物が現れる。
この世界ではかなり珍しい自動車
庶民では絶対に手にできる代物ではない
それが学園の前に停車する。
自動車なんて伯爵以上の貴族しか乗れないだろう。
そんなものを学園の通学に使う輩がいるのだ!
まあ、言わずと知れた人だけど……
学園の前に止まった自動車から一人の男性が降りる。
高貴な人はゆっくりと歩くだけで絵になっている。
そんな注目の的になっているのは新しく勇者という称号を手にした第二王子のアンソニー殿下だ。
『キャー、アンソニー殿下』
豪華な靴は地面を踏みしめると黄色い声がするらしい。
何と憎たらしい靴だろう。
そして、その憎たらしい王子様の後から降りてくるのは俺がよく知っている……いや、もう別人かもしれない聖女モニカ様だ。
王子様は聖女モニカ様が自動車から降りるのをエスコートする。
二人は手を取り合って見つめ合いゆっくりと自動車から降りてくる。
その光景に周りに生徒は釘付けになっていた。
王子様の笑顔に心奪われている女子生徒も多い。
対して、男子生徒は聖女モニカ様を見て頬を赤く染めているものもいる。
たった二人だけだが、間違いなくこの朝の正門の風紀を乱しているな。
「けしからん!」
「何がですか?」
見えない場所から声が聞こえてくるが、これは俺にしか聞こえない。
超高性能サポートAIの白桃だ。
「いや、男どものいやらしい目がモカ……聖女モニカ様に向けられていると思うと居ても立っても居られないんだ」
「そうですか……で、あの方がマスターの元恋人ですか?」
白桃の問いに俺は少しばかり硬直してしまう。
ただ、すぐに元に戻り返事を返す。
「ああ、そうだよ」
他人に元恋人と言われるとなんとなくだが胸にとげが刺さるような痛みが走った。
割りれていない証拠だ。
「マスター、早く忘れたほうがいいのでは?」
「ぜんぜん、意識なんてしてないよ……本当だよ」
「それで幸せですか?」
「………………ああ、幸せさ」
白桃の回答に強がって見せる。
確かに本音ではモカと幸せな家庭を築き上げて行きたかった。
しかし、それは泡のように叶わぬ夢となり果てる。
「彼女の幸せだけを願う。それが俺のやるべきこと……いや、やりたいことだよ」
「寂しい人生になりそうですね」
「ほっとけ」
「そんなマスターをサポートしないといけないとは、ヤレヤレです」
「貴様……」
俺は白桃の悪態に激おこぷんぷん丸状態になりそうだったが
「ねえ、何アレ?」
俺の少し後ろの女子生徒が隣の女子生徒に疑問を投げかける。
どうやら俺が一人でしゃべっていると思われていたのだろう。
「え!知らないの?コソコソ」
隣の女子生徒が耳に顔を近づけ手で壁を作り小声で何かを話しかけていた。
「うわ、可哀そうに……きっと捨てられておかしくなったんだ」
「シー」
何を話しかけたのかある程度想像できるが、たぶん嫉妬で狂っているように思われているのだろう。
流石に気まずいので俺はその場から逃げるように退散した。
(ほら、あいつだよ)
(夜会での?)
(あいつは元から気に入らなかったんだよ)
(彼女に相応しいのはこの俺のはずだ)
(負け犬が歩いてる)
(馬鹿じゃないの?)
(近寄ったらだめだよ)
俺が移動していると周りの生徒は皆、俺の陰口を叩いている。
陰口叩くなら本人が聞こえないようにしろと言いたい。
「散々な言われようですね」
「ほっといてくれ」
「マスター元気出してください」
「ふん、元気いっぱいだよ」
「それはそれで……この状況で?大丈夫ですかマスター?」
「大きなお世話だ」
チラリとだが、聖女モニカ様に視線を移す。
先ほどから俺は彼女の視界に入る位置にいるのだが、一度も目を合わせてくれなかった。
どうやら嫌われているかもしれないな。
喧騒とするホームルーム前の教室。
俺は教室へ入るためにドアを開ける。
すると、教室にいる全員が俺を見るやピタリと会話が止まってしまう。
どうした?と思もいながら自分の机に到着するとその意味が分かる。
俺の机は物凄い状態だったのだ。
「俺って人気者だな」
「これが?」
白桃が映るウィンドウ画面は他人には見えない。
まあ、画面を見ずとも、口調だけで呆れているのがわかる。
「だって、見てみろよ……寄せ書き?」
「マスターそれを落書きと言います」
机の上に書かれた文字は放送禁止用語満載の下品なものだった。
木製の机にインク?で書いているのだろうと触ってみるとインクが滲む。
どうやら昨日、または今朝あたりにやられたのだろう。
暇な奴もいるんだ。
まあ、先ほどから俺を見てほくそ笑む人物が教室の隅にいるのであいつらかなって目星は付いた。
たしか、名前は……ブタトン?いや、ポルトンだっけ。あのデブ……とんかつにでもしてやろうか!
いかんいかん……大の大人がこんなことで心を乱してどうする。
気にすれば気にするほど相手の思うつぼだ。
気にしないようにしようとイスを引いて座ろうとしたのだが、イスにも色々と人気者の証が存在した。
「どうみても汚物?だよな」
ぼそりと呟いたら頭に白桃も同意する声が響く。
「ですね」
幸いにもかなり乾燥したもので匂いはなかった。
ただ、隣の生徒は物凄い嫌な顔でこっちを見てくる。
いや、俺も嫌だよ……まあ、隣の子はとばっちり受けて可哀そうだよな。
「どうすっかな」
「空気椅子ですね」
「二学期初日から空気椅子か……なかなかハードな授業になるな」
「冗談だったんですが、やる気ですか?」
「……グーでOK?」
俺が白桃を殴るか殴らないかで揉めていると同じクラスの女子生徒が俺に近づく。
「サム、あなた本当に嫌われているのね」
目の前に現れた女子生徒は昨日デートした制服姿のローズだった。
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