第14話 戦闘プログラム

ローズと凱旋を見た後、再度、肉の屋台へと足を運ぶ。

まさか俺なんかが公爵令嬢と腕を組んで足並みを揃えて歩く日が来るとは……。

人生、何があるか分からんもんだな。


「それにしても夏季休暇なんてあっという間ね」

「え?」

「なに驚いているのよ。明日からまた授業再開でしょ」

「…………」


明日から授業?

夏季休暇は?

俺の……夏季休暇はどこへ?


「ただ、どうやらマギネスギヤを使った授業の再開はできないらしいわ。まあ、あれだけの爆発があったから仕方ないのだけど」

「爆発?」

「え?知らないの?」

「すまん……その……実家にすぐ帰っていて」

「そうなんだ。あのねマギネスギヤの格納庫が爆発しているよ。犯人は騎士団の人が探しているんだけど……おかげで貴重なマギネスギヤが一体、行方不明なのよ」

「あ……そ、そ、そ、そうなんだ」


俺は動揺しないように平静を装う。


「ねえ、あなたさっきから可笑しいわよ」

「そんなことはないぞ……いやー、それにしても元気がでた!うん!」


俺は二の腕に力こぶもどきを作って元気をアピール。すると……


「そっか、よかった!デートしてあげた甲斐があったわ」


ローズの笑顔に俺は自然と笑顔になる。

それと同時に不思議な気持ちでもあった。

心の底から湧き上がる気持ち。


正直、前世の記憶が戻ってしまったせいで同世代が子供に見えてしまうのだが、彼女だけはカワイイと思ってしまう。


まあ、身分の差が大きすぎるので叶わぬ恋だろうけ。

久しぶりにこんな気持ちになったよ。


「ああ、ありがとうな」


俺はこの時、どんな顔をしていたのだろうか?


「ま、ま、ま、まあ、こんなことならいつでもいいわよ」


俺が素直に感謝を伝えると……彼女なりの照れ隠しだろうか。少しばかり頬が赤くなっている。


「それにしてもローズがこんなにも親しみやすい人とは思わなかったよ」

「そう?まあ、私も色々とあるのよ」

「そうなのか?」

「ええ、女には色々とあるの!」


彼女の言葉になんとなくだが、違和感があった。

それが何なのか言葉にすることが出来ないが彼女は何かを隠している気がしていた。


「こっちが近道だな」

「そうなの?」

「ああ、この裏道を通ればさっきの屋台の目の前に出るぞ」

「それじゃあ、行きましょう」


先ほどまで表情に影を落としていたがそれが一瞬にしてなくなるローズ。

なんというか表情がコロコロと変わるな。


まあ、とっつきにくいよりはいいかな。


そんなことを考えながら歩いていると路地の入り組んだところで


ドンッ


「キャ」


突如、背中に何かがぶつかる。


俺が振り向くとそこには美少女が尻もちを付いていた。

長い金髪のロングヘアーが特徴の女の子はすぐに立ち上がり強く打ち付けた臀部をさすっている。

ちなみにパンツは……見えなかった。


「イタタタ」

「大丈夫か?」

「あ、大丈夫、平気よ。それよりも急いでいるの……あっ」

「?」


金髪美少女は何かに気が付いて慌てて俺の影の中に入ってくる。


「どうした?」

「シー、匿って追われているの」

「マジか?」


彼女の言葉と同時に黒服で筋骨隆々の男性が数名現れる。

俺は何故か彼女を匿うことにした。

ただ、俺一人で完全にごまかすことは出来ないと思ったのでローズに助け求める。


「なあ、ちょっと手伝ってくれないか?」

「ええ、私が?」

「何でいやそうなんだよ」

「別に~、いいですけどね~」


若干、機嫌が悪そうなのは理解が出来ない……何故だ?


「人助けだから」

「はいはい。で、何するの?」

「ちょっと失礼」

「ふぇ!」


俺はローズを抱き寄せる。


その影に金髪美少女を配置。


更に路地の死角を使って上手いこと金髪美少女を隠す。


「おい、どっちにいった」

「見失う馬鹿がいるか、探せ!」

「こんな失態許されると思うなよ」


黒服の男が声を荒げる。

かなり焦っている様子だ。

正直、あの人たち関係にこれから巻き込まれると考えると……超怖い。


「こっちだ」


もう一人の黒服の男が俺たちのいる方へ指をさす。

そして、その指をさす先に丁度、俺とローズが抱き合っているのが見えたのだろう。


「おい、無粋な真似をするな。行くぞ」

「へ、へい」


どうやら黒服の男は紳士だったようだ。

すぐさま別ルートへと走り出す。

こうして、なんとか金髪美少女を匿うことに成功。


「行ったみたいだな」

「ええ、そうね」


ローズは俺の意見に同意しながら俺の頬をつねる。


「イテテテ」

「もう、急に何するのよ」

「いやぁ、彼女を隠すのに妙案だったと思ったが」

「馬鹿じゃないの!いきなり抱き着くなんて」

「悪かった……」


咄嗟に思いついた案を実行したのはまずかったな。

昨日までほぼ赤の他人のような男に抱き着かれるなんて思ってみなかっただろうからな。

ん?でも、さっき俺の腕に抱き着いてきていたような……


「アハハ、楽しいですね」


何やら俺とローズのやり取りが気に入った金髪美少女。ただ、彼女は意外にもボンキュッボンで目のやり場に困る。顔つきはまだ幼い感じなだけになんだろう、罪悪感が……。


一方でローズに視線を向ける。

背が高くスタイル抜群なプロポーションだが如何せんボリューム感が……。


「ねえ、サム、何か言いたいことがあるの?」


ローズが鋭い視線を俺に向ける。


「何もありません!」


俺は直立不動にてローズの問いをはっきりと否定する。


「あ、自己紹介がまだでした。私はソフィアと申します」


金髪美少女はスカートの裾をつまみ上げ首を垂れる。

とてもきれいな所作で少し見とれてしまったが俺もすぐ名乗る。


「あ、俺はサミュエル……知り合いにはサムって呼ばれているよ」

「わかったわ、サム。それとありがとうございます」

「にしても、なんで追われていたんだ?」

「えっとですね……それは……」


俺が理由を聞くと何故か視線を逸らすソフィア


『いたぞ』


なぜか先ほどの黒服の男が戻ってくる。

欺けたと思ったがどうやらそんなに簡単にはいかないようだ。


「やっぱり、あそこだった」

「さあ、お前たちそこをどきなさい」


黒服の男はただ者でないのはすぐにわかった。

白いシャツに黒いジャケットを着ているのだが、筋骨隆々の筋肉が見て取れる。


「さもないと……」


腰に帯刀していたものを抜き、指で魔法陣を描く。


素早くなる魔法を使って自己強化をする金髪筋肉。


「うわ……ただのチンピラじゃない……」

「そうでしょうね」


なぜか冷静に相手のことを理解するローズ


「うーん……白桃」


俺は白桃に助けを求めるためにウィンドウ画面があった場所に問いかけてみる。

出現場所は大体左肩付近。

すると……


「なんですか、マスター」

「お、つながった」

「まあ、今は安定しますから」

「なあ、なんとかして」

「なんとかしてって……ああ、そういうことですか」


ウィンドウ画面の白桃がチンピラを見て状況を把握してくれる。


「頼む」

「仕方ありませんね……簡易戦闘プログラムのスクリプトを実行させますのでどうぞ」

「わかった」

「あくまでも簡易プログラムなので気を付けて下さいね。マスターが強くなっている訳ではないので、ナノマシンによる本当に簡単なサポートなんですから」

「はいはい」

「正直、マスターにスクリプト実行させるぐらいならそこの背の高い女性に実行させたほうが強くて頼りになりそうですが……」

「おい、うるさいぞ……」


こんな怪しげなものローズに使えるか!

ナノマシンによる身体強化なんて説明しても理解できないだろうに……。


だからこそ、ここは俺がやるしかない!


俺は素人ながらに戦闘態勢に入る。

二人の美女の前に立ちファイティングポーズを取る。

格闘技などやったことないので素人丸出しのファイティングポーズだ。


「おいおい、そんな構えでやる気か?まあ、俺たちに牙を向けたんだ死んでも恨むなよ」


相手はかなりの手練れだろうか?

髪をかき上げ、その後、勢いよく突進。

初速から新幹線の最大速度並みに高速接近を仕掛けてくる。


だが、ナノマシン?によって誰でも強くなるよ状態の俺は相手が見えていた。

見えているというか遅い、いや止まってる?と思ってしまうほどだ。

フェンリルの攻撃のほうが早かったな……。

流石にあの難易度SSS洞窟の主と比べるのは可哀そうか?


相手の刀が俺の体を一直線に狙って繰り出す。


しかし、左手で相手の刀の背を強く強打して払いのける。


「なに!」


そして、相手の腕をつかんで引っ張ると相手は少しだけ体制を崩す。

その隙に死角にもぐりこんで俺は強烈な裏拳を相手の顔面にぶつける。


「グハッ」


たまらず相手はその場で崩れ落ちるのだった。


「な!ゼリロスが……おい、こっちだ、すぐにこい」


もう一人の黒服の男が増援を呼んでいるのが分かりすぐに逃げの一手に出る。


「ヤバ!」

「ほえー、サムすごいですね」


呑気な口調で驚くソフィア。


「よし、逃げよう」


逃げるが勝ち!

それを考える前に実行する。

どうするかは逃げてから考えよう。


「キャ」

「ちょっと、なんで私を脇に抱えるのよ」


ソフィアを肩に抱きローズを脇に抱える。

何処へ逃げようかなんて考えていない。

兎に角、走った。

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