第13話 勇者と聖女の凱旋
情けない彼氏という勲章をもらったのち
俺は手を引かれて小走りになるローズを追いかける。
ローズの口は緩んでおり、とてもかわいい笑顔だった。
その顔に俺は少しばかりだが心がざわつく。
俺と同じ背丈で女性としては背が高いローズ。
ドレスを着こなせばカッコイイ女性として周りから評価を受ける。
そのような女性が無邪気に見せる笑顔がこれほどまで強烈だとは……良いものが見れたな。
「ねえ、見てあそこ……行きたかったのよ、行きましょう!」
小走りで行きついた先は別のお踊りに面する大きなお店だった。
そこは職人がこだわりの家具を売る店だった。
一見(いちげん)さんお断りの超高級店。
「ようこそ、ロゼッタお嬢様、ほら、皆さん、挨拶を」
「いらっしゃいませ、ローズ様」
中に入るとちょび髭で背の高い男性店員が慌ててローズに挨拶をする。
周りの店員を見渡しているとどうやらこの男性がこの店の店長のようだ。
頭を下げる店員達へ手を上げる。
すると全員一斉に頭を上げるのだった。
オーナーや店長だけでなく店員もかなり訓練されているようだ。
まあ、それにしても………………。
流石、公爵令嬢!
店主の腰が低いこと低いこと……
「ねえ、ミックのイスが欲しいの」
「弟君のですね、もちろん最高級の幼児用のイスをご用意いたします」
「頼むわ」
店長はすぐさま店の奥へ行き、他の店員にイスを用意するように指示を出す。
あとから知ったのだが腰の低い店員はこの店のオーナーだったようだ。
「なあ、ミックって?」
「え?私の弟なの。まだ2歳で……そして、天使なの!」
キラキラと輝く目つきでミックに思いをはせるローズ。
どうやら年の離れた弟がよほど可愛いと見える。
俺はどんなイスが出てくるのか楽しみだったが、意外にも店長が持ってきたのはシンプルなイスだった。
「こちらでいかがでしょうか?」
「悪くないわ、これを届けておいてもらえるかしら」
「かしこまりました」
これだけのやり取りとあとはイスが届くのを待つだけらしい。
荷物持ちぐらいはしたほうがいいのかと思ったがこの後もまだ、色々と店を回るから手ぶらで行こうと言われる。
「かしこまりました。後でお屋敷にお届けしておきます」
「よろしく頼むわ」
後日配送するのは当然なのか?
俺たち二人は大勢の店員と店長によって作れらた道を通って外に出る。
一般ピーポーの俺は非常に心苦しい。
俺にそんなに頭下げないで……なんか、かなり申し訳なく感じてしまう。
器が小さいってこういうことなんだろうな。
店を後にした俺達。
その後も彼女はとても元気に俺の手を引きあちこちへと誘導してくれる。
彼女の光り輝く瞳に魅入られて、俺は彼女に付いていく。
にしても、今の彼女に公爵家のご令嬢という姿はどこにもない。
俺の知っているロゼッタ公爵令嬢は物静かで優雅な女性というイメージだ。
若いのに物腰が落ち着いているなという印象だった。
それが今、目の前の彼女にそのようなお淑やかさは欠片もない。
もしかしたら、これが本来の彼女なのかもしれない。
今まで王太子殿下の婚約者で聖女としてふるまう必要があった、
それがなくなり解放されているということだろうか?
それか彼女も無理をしていると考えるべきなのかもしれない。
(マスター)
「なんだ?」
目の前にウィンドウが開く。
そこには「音声オンリー」という文字のみが映し出される。
(つけられていますよ)
「なんだと」
(ウィンドウで確認を……)
音声オンリーと書かれたウィンドウにMAPが写る。
この辺り周辺の詳細図だが、黒い点が俺達で赤い点が5つ俺たちの周りをかこっていた。
「うわ……ほんとだ」
俺は白桃のナビゲーションシステムにより追跡者の位置が手に取るように分かっていた。
ただ、一切手を出そうとする気配はない
様子見?それかローズの護衛かもしれないと思っていた。
「ねえ、何て辛気臭い顔しているのよ」
「してねえよ、お前がそんなキャラだと思わなくて驚いてんだよ」
「もう、私はそんな堅苦しいお嬢様な訳ないじゃない」
「学園では堅苦しいお嬢様だろうが」
「そうよ、だって必要だったんだもん」
「大変だな」
「ほんと、肩が凝って仕方ないのよ」
肩こり?
俺は少し視線を降ろす。
その大きさで?
……っとは口が裂けても言ってはならないだろう。
『おい、新しい勇者様と新しい聖女様のお披露目が始まるぞ』
何やら周りが騒がしくなってくる。
どうやら大広間にて勇者と聖女の凱旋が行われるようだ。
「ねえ、向こう行こうか」
なぜか、彼女は凱旋が行われている大通りとは反対側へと誘導する。
「見に行かなくていいのか?」
「あなた、見たいの?」
どうやら彼女は俺に気を使ってくれているのだろう。
全く気にしていないと言えばうそになる。
だが、前世の記憶が戻っているせいで恋人を取られたことがそこまで苦になっていなかった。
「いや、大丈夫だ。この目で確かめたいんだよ」
「そうなの?」
心配そうに俺の顔を覗き込むローズ。
こいつ本当にいいやつだな。
「ああ、頼む連れて行ってくれ」
「仕方ないわね、それじゃあ一緒に行きましょう!」
俺たちは凱旋パレードを行っている大通りへと足を運ぶ。
それにしても、俺はすごいことをしているという実感があった。
一般市民の俺が公爵令嬢というお姫様と一緒に街ブラをしてるのだ……!
まあ、もっと驚いているのは彼女が公爵令嬢と感じさせないところだ。
なんだろう……とても、懐かしい感じまでする。
彼女の振る舞いのおかげだろうか?
もし、演技だというなら大したものだ。
と、そんなことを考えているとすぐに凱旋パレードが行われている大通りへ到着
そこでは紙吹雪の舞う盛大なパレードが行われていた。
大きなフロートの上には二人の男女が参列者に手を振っていた。
一人は良く知っている新しい聖女モニカ
彼女は聖女としてのトレードマークである宝石を散りばめた様な輝く白いドレスを身にまとっていた。
その衣装は実際に宝石が縫い付けられているわけではないらしい。
着ている者の魔力に反応して光り輝くのだ。
「彼女、大したことないんじゃない?」
たぶんローズは本心ではないだろう。
彼女は公衆の面前で他の男へ移るという残酷なことをしているのだ。
「いや、素晴らしいさ。彼女が少しの間でも俺の傍にいたことを誇りに思えるよ」
「なによそれ」
「おかしいか?」
「おかしいわよ」
「そんなことはないと思うが」
「思うわよ、こんなにもいい女が隣にいるのに」
冗談を言いながら笑顔を見せてくれるローズ。
「…………そうだな、失言だった」
「でしょ?」
「まあ、そんないい女に悪いことしたな」
「え?何が?」
「いや…………新しい勇者なんだが」
そう、もう一人の主役である新しい勇者とはアンソニー殿下だったのだ。
モニカの隣で手を振るアンソニー殿下。
『キャー殿下ぁー』
歓声の中の黄色い声が多いことに気が付く。
正直、今のローズがどういう表情をしているのか見るのが怖かった。
だが、怖いものみたさ恐る恐る視線をローズへ向ける。
すると意外なことに呆れたような顔でため息までついている。
「何?あ、気を使っているの?別にいいわよ、むしろあいつが新しい勇者になってくれて助かったわ」
「そういうものなのか?」
「これが先代の勇者様なら発狂していたかもね」
「え?先代の勇者って確か……」
「そうよ、レイブン様よ。彼が別の女性とくっつくとかそのほうがダメージ大きいわ」
先代の勇者について語るローズの目は異様なまでに光り輝く。
まるで夢物語の王子様を語るような感じだ。
ちょっと待て、先代勇者は確か今年で前世の俺と変わらない45歳のはず……ローズってもしかして……枯れ専か?
………………まあ、人の趣味をとやかく言うのは野暮ってもんだ。
「そ、そうか。ならお嬢様は婚約破棄されてよかったと思っているのか?」
「当たり前よ、あんないけ好かない王子様となんてごめんだわ」
うわー、一国の王子様に対してこの態度……流石だよ。
「それに、今は必要ないでしょ」
ローズは俺の顔を覗き込んでくる。
彼女の顔には俺が何を言ってほしいのか、鈍感な俺でも分かった。
「……ああ、そうだな、こんなにもいい男が隣にいるんだから!」
「そうよ!なんならあつらに見せつけてやるぐらいがいいのよ」
そういって俺の腕にしがみついてくるローズ
「うお!」
「どうしたのよ、変な声上げて」
「いや、急だったから……」
「そう?それよりもさっきのお肉、また食べに行かない?」
「ああ、そうだな」
俺は動揺したことを悟られることなくローズと一緒に移動することに……
見た目の大きさは……その……うん……人それぞれだよね。
ただ、腕に当たる感触は紛れもなく女性特有のものだった。
慎ましいがローズも女性なのだと実感する。
「ねえ」
「ん?」
「失礼なこと考えてないわよね?」
「滅相もございません」
それにしてもどうして女性というのはこうも相手の思考が読めるのだろうか?
不思議で仕方ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます