第12話 悪役令嬢のハイキック

扉を開けるとそこは学園の礼拝堂だった。


ジャスミンという宇宙船から空間移動ポータルに乗ったのはいいが……そこは、学園地下のダンジョンだった。


宇宙船からこの礼拝堂までの道中……そりゃあ、色々ありましたよ。

本当に色々、あったさ……うん。


俺は白桃の力とマギネスギヤの力を借りてなんとか死に物狂いでダンジョンを脱出することに成功。

そして、今に至る。


「し……死ぬかと思った」


何もない場所にウィンドウ画面が現れてそこには白いブリキのおもちゃのようなものが写っている。


ちなみに白桃は忙しいので宇宙船ジャスミンから出るわけにはいかないらしい。

AIが忙しいってどういうことか考えたが……理解できないので思考を放棄。


「ご苦労様です。マスター」

「ああ、本当にご苦労様だよ」


にしても学園の礼拝堂がダンジョンと繋がっていたなんて信じられない。


俺はもう一度、扉を開けて中を覗いてみる。

そこはやっぱり岩で出来た洞窟だ。

しかもかなり暗いので明かりを照らすものが無ければほとんど中を見ることは出来ない。


「ちょっと、あなた死ぬ気?」


俺は腕をつかまれて礼拝堂へと引き出される。

そんなに強い力ではないが、急な出来事だったためにドアに後頭部をぶつける。


「イテテテ」

「もう、その中に入ったらその程度の痛みでは済まないわよ」


俺の腕を引っ張った本人は腕を組み説教を始める。

彼女の名前はロゼッタ=ヴィンダーソン。

王太子殿下の元婚約者だ。


「なんで、こんなところにいるんだ?」

「それはこっちのセリフよ。ここは一般生徒は立ち入り禁止のはずよ。それによりにもよって難易度SSSのダンジョンに入ろうとするなんて」

「へ?難易度SSS?」

「そうよ……って、そんなことも知らずに入ろうとしていたの?」


入ろうとしていたというか、出てきたんだけどね……説明が面倒だから話合わせるか。


「いやー迷子になったんだ」

「迷子って普通は入れないわよ」

「そうなのか?」

「ええ、そうよ。それに見つかったら捕まるわよ」

「マジ?」

「マジよ、ちょっと前に大きな揺れがあって騎士団も出動しているわ」


大きな揺れ……ね……もしかして、ダンジョンで戦闘していた影響か?


「よし……それじゃあ、戻るわ」


捕まるのは嫌と反射的に来た道を戻ろうとしてしまう。


「ちょっと、戻るってなんでダンジョンへ行こうとしているのよ」

「…………冗談だよ」

「もう……あなた……辛いかもしれないけど失恋なんていつでもそんなものよ」

「え?」

「だって、モニカさんに捨てられたでしょ?それで死のうとしているのね……気持ちは分かるけどそのつらさは一時の感情よ」

「は……はぁ……」

「そうだ、私がデートしてあげようか?」

「……は?」

「そうね、気分転換が大切よ。楽しいことすれば少しは気が晴れるわ」


デートだと?公爵令嬢という名のお姫様と?もしかして、美人局?でも、俺なんてだましたところで、彼女にメリットはないよな……マジで善意ですか?


ここは……チャレンジしてみますか!


「そうだな、いつする?」


俺は壁に手を付きカッコつけて返事する。

そうすると意外な返答が返ってくる。


「もちろん、今でしょ!」

「は?マジ?」

「マジ!」


というわけで、なぜかいきなり公爵令嬢とデートすることになった。


この学園は王都のほぼ中央にあり一歩出れば活気のある街へアクセスすることが出来る。


「まずは服ね」

「え?服?」

「そうよ、これからデートするのよ。身だしなみは整えてもらわないと」

「ああ……」


んー、ほぼ、マギネスギヤに乗っていたからあまり汚れていない気も……もしかして、制服デートはだめ?


俺は彼女に連れられて服を買いに行き店に入る。

手を引かれて入った店で服を出されるので試着する。

ただ、試着する服は


「あのー」

「はい?」

「これいくらですか?」


多分だけど、オーナーの人だろうか?男性にコッソリと金額を聞いてみる。


「えっと……お嬢様のお知り合いとならばお勉強させていただきますので……これぐらいでしょうか?」

「………………」


俺は言われた金額を見て目玉が飛び出そうになる。

一般庶民の給料3か月分が可愛く見えるぞ。


すぐにロゼッタ令嬢を呼び俺が一般ピーポーであることを知らせる。


「俺は、一般人であって……この店の服は……流石に買えないぞ」


言葉に詰まりながら説明をする。が、彼女はサッパリとした様子で


「いいわよ、私が払うわ」

「…………」


これは、断ってもダメなやつだろうと俺は服を受け取る。

ああ、これで本日はロゼッタ令嬢の言いなり確定だな、と内心怯えてしまう。

どんなことをさせられるのだろうと、思っていると手を引かれて連れてこられたのは

いい匂いがする屋台だった。


「ほら、あれ食べよう」


ロゼッタ令嬢は屋台で肉を買いその肉を渡される。

そして、驚くことに銅貨で釣銭なく払っているのだ。


「驚いたな」

「何がよ?」

「お嬢様が小銭を持っているなんて」

「なに?私がお金持っているのが不思議?」

「いや、お嬢様なら金貨しか持ってないか付き人に払わせるものだとばかり」

「偏見……いや、意外と多いわね。まあ、そういう点、他の令嬢と違うわね」

「だろ?」

「嫌かしら?」

「まさか!そんなことはありませんよ、ロゼッタお嬢様」

「そう、あ、そうだ。私のことはローズって呼んでいいわよ」

「え?いいのか?」

「あまりロゼッタお嬢様って呼ばれるのは好きじゃないの」

「わかったよ、ローズ」

「よろしい」


意外にもフランクな感じで内心ほっとしていた。

にしても、こいつも婚約破棄されて大変なはずなのに俺のこと気遣うなんてすごい奴だな。


隣に歩くローズに興味が出てみとれてしまう。


トン


俺がローズに見とれているせいで他の通行人に肩がぶつかってしまう


「おい、いてえじゃねえか、にいちゃん」


肩がぶつかってしまった男は2メートルちかい大男でこちらに啖呵を切りながら歩み寄ってくる。


「す、すまん」


あまりの身長差に圧倒されてしまう。

一応、俺は謝る。しかし、何故か男は腹の虫の居所が悪かったのか


「ふん」

「グハッ」


何を言うこともなく痛烈なボディブローを仕掛けてくる。

俺は避けることが出来ずにそのまま受け入れる。

先ほどまで食べていた肉が喉元まで戻ってくるのではないかというぐらい強く打たれた。

まともに立つことが出来ずそのまま膝を地につけうずくまる。


「ちょっと、何してるのよ、こっちは謝っているでしょ」


ローズが大男に対して文句を飛ばす。


「あ?」


どうやら話が出来る相手ではなさそうだ。


「おい、やめておけ」


俺がローズを制止する間もなく大男はローズに俺と同じボディブローを放つ。

しかし、ローズはそれをあっさりとかわす。


「「へ?」」


間抜けな声を上げる大男と俺。


「ブースト!」


自分自身に強化魔法を掛けるローズ。


「ヤァ!」


カウンターの上段蹴りが炸裂する。


しかし、身長差から大男の脇腹にクリーンヒット。

スカートを履いているのにお構いなしで蹴りを入れるローズ。

ちなみにパンツは見えなかった……何してんだ俺!


ドスンという鈍い音が大男に襲い掛かる。


「ガハッ」


大男は口から泡を吹く。

ローズの完璧な身のこなしによりいつの間にか大男は地に伏せる。


「すげえな」

「大したことないわよ、こんな男」

「それよりさ」


俺は辺り見回してローズに状況を察してもらう。


「そうね、ここは退散しましょう」


大通りのど真ん中でひと悶着してしまい、たくさんの人だかりができてしまっていた。


(あのお姉ちゃんすごい)

(大男は見かけ倒しか?)

(いや、見事な魔法だよ)

(あのお姉さま……素敵!)

(それに比べて、隣は彼氏か?)

(情けないやつだな)

(ブーブーブー)


どうやら俺は情けない彼氏というレッテルを貼られているようだ。

トホホ


「ほら、行くわよ」

「ああ」


あまりにも注目を集めているためにその場から脱出する。

ローズに手を引かれて移動する俺。


ローズの顔を見るととても爽やかな笑顔だ。

なんだか、こっちも笑顔になれる。

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