第11話 白桃

俺の目の前に現れたブリキのおもちゃは流暢に話しかけてきた。

ただ、俺は想像からかなり逸脱した姿をしているために言葉に詰まる。


「お、おお、おま、お前は?」

「キュートな姿に驚きました?」

「あ、いや……えっと」

「あ、これは自己紹介が遅れました。私の認識コードはW21815109407618205544435409です。あなたをサポートする超高性能サポートAIです。よろしくお願いいたします」


自己紹介で認識コードを教えられても覚えられないな

それに、こいつ良くしゃべる……情報の処理が追いつかない。


「名前はないのか?」

「認識コードですか?それなら先ほど」

「違う、もっとその簡単な名称はないのか?」

「私は認識コード以外の名称を登録していません」

「そうか……」


にしても認証コード……覚えれないな


「なあサポートAI」

「なんでしょうか?あ、ちなみに超高性能サポートAIです」


変な奴だなっと思いながらも再度、その姿を瞳に移す。

似ているんだよね……

前世のご当地キャラで桃ちゃんという名前だったよな。

更にこいつは白いから……


「白桃って名前じゃダメか?」

「マスターがそう呼びたいならどうぞ」

「わかった、ならそれで頼む。認証コードは覚えれないよ」

「了解です。マスター!『白桃』をアーカイブへ登録しておきます」


白桃は特に変わった様子はないが何やら内部で処理を行っているのが分かる。


「では、質問。白桃、ここはどこだ?」


なんとなくだが、白桃の処理が終わっただろうというタイミングで俺は話しかけた。


「宇宙船ジャスミンの中です」

「……は?」


宇宙船?それは宇宙へ行くための船!

って、まじか?


「宇宙船の中です。そして、現在位置は操作系が集中するメインブリッジですね」

「…………は?」

「マスター、言葉がわかりませんか?」

「そうじゃなくて……なんでこんなところに俺はいるんだ?」

「連れてきました」

「なんで?」


正直、理解が追い付かない。

こいつの言っていることは本当なのか?


「ナノマシンによる生体強化を施すためです」


白桃は更に訳の分からない言葉を並べ立て俺を混乱させる。


「……は?」


俺は白桃の言葉を聞き、もしかしてと思い慌てて体のいたる場所を触る。

ナノマシンだって?

俺はロボットになったのか?

ロボットは好きだが自分がロボットになるのはちょっと抵抗があるぞ。

もしかして、男性のシンボルも……よし、大丈夫……健在だ。


「どこ触っているんですか?」

「いやいや、いきなり宇宙船に連れてこられて生体強化?何、俺ってサイボーグにでもなったの?」

「サイボーグ?……あの歯車で動く人形ですか?」

「違うのか?」

「マスターの言っているサイボーグとはこのようなものですか?」


そういって俺の目の前に現れるウィンドウには機械仕掛けの人間が映し出される。

その映像はまさにキ〇カイダー!


「そうこれ」

「違いますよ。私が施したのは生体強化ですので……そうですね超人と言ったほうが良いかもしれません」

「マジか」

「マジです」

「疑問なんだが、なんで俺を超人にしたんだ?」

「マスターは死にました」

「…………は?」

「その顔、やめましょう。馬鹿に見えますよマスター。ナノマシンの調整が必要なのでしょうか……それとも、ただの馬鹿ですか?」

「おい」


死んだ?もしかしてあの黒づくめの仕業か?

あいつは一体誰だったんだ?


「なあ、白桃。俺を殺そうとしたヤツのことは知っているのか?」

「さぁ」

「さぁって……」


俺の傍に浮かんでいるブリキのおもちゃは表情を変えることなく淡々と話しを続けてくれる。


「マスターはブラック・アカシックレコードからシステムをダウンロードとインストールを行いました。そして、この船のスーパーユーザーとなったマスターの危機に駆け付けただけですから」

「お前ってこの船のAIなのか?」

「はい、このジャスミンの制御からお掃除まで担当する超高性能サポートAIです」


白桃は自信満々に自分の胸を叩く


「自分で高性能って大した自信だな」

「この銀河にいる以上、最上位システムと言っても過言ではありません」


物凄い自信だな。

自信過剰じゃないか?

まあ、いいか。それよりも……


「じゃあ、その超高性能なAIくんにお願いがあるのだが」

「命令でしょうか?」


命令?まあ、俺がマスターになるから命令になるのかな。


「まあ、そうだな。俺を自宅まで帰してくれないか?」

「申し訳ございませんが、エネルギーが足りません」

「何故だ?」

「マスターの治療にほとんどのエネルギーを使ってしまったので、現状も余剰エネルギーで何とか稼働しています」


俺の治療ごときで宇宙船のエネルギーがなくなるのか?

まあ、助けてもらったからあまり無理は言えないか。


「エネルギー不足って今後はどうするんだ?」

「とりあえずは恒星からエネルギーを補給しようかと」

「恒星?太陽からってなると太陽電池ようなものか?」

「いえ、そのような非効率的なもではなく、直接太陽などの核反応エネルギーを貰います」


白桃が言ってることが理解できないが何やらすごい技術のようだ。


「そのエネルギー補給というのはどのぐらいかかるんだ?」

「2か月ほどは掛かりますね」

「おいおい、すぐに帰りたいんだが」

「方法がないわけではありません」

「何でもいいよ、頼むよ」


そうじゃないと学園の出席日数が……あっ、そういえば夏季休暇か?


「ただ、よろしいでしょうか?」

「なにがだ?」

「この宇宙船をこのまま目標地点まで落下させることならできますよ」


なんだ、出来るんじゃないか。

最初から……ん?落下?いや、その前に燃え尽きないのか?


「なあ、大気圏突破出来るのか?」

「この程度の惑星の大気圏で傷がつくジャスミンではありません。ただ……」

「ただ?」


俺は少しばかりだが、嫌な予感がしてきた。


「減速ができません」


んんんんんんんん?


「ちょっと待て」

「そのまま地表に落下という形になります」

「おいおい、木っ端みじんじゃないか」


自殺行為を進めるなんてなんてクソAIだ?と思ったが、予想外の答えが返ってくる。


「ええ、惑星がね」

「え?そっち?」

「この船はブラックホールに飲まれても平気な設計ですよ。この程度の質量の惑星に衝突した程度では無傷です」

「なあ、それって帰る帰らないじゃなくて、帰る場所がなくなるよな」

「そうともいいますね」


どうしよう……このサポートAI……ポンコツなのでは?


「なあ、他に方法はないのか?」

「そうですね、その他の方法となると……検索してみます」


白桃はどうやらアーカイブに接続して検索中のようだ。

俺は検索結果が出るまで待つことにした。


「お待たせしました」

「何かあったか?」

「ええ、地上にある特定のポータルと接続をつないで転移することが可能です。あ、もちろん学園の付近で検索しましたよ」

「なるほど!ってエネルギー不足なのに転送できるのか?」

「ポータル施設に残っているエネルギーを使用します」


正直、白桃が何を言っているのかよくわからないが帰れるなら良しとしよう。

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