第10話 マギネスギヤ

夜会の翌日


俺は前世の記憶が蘇ったことでやってみたいことがあった。


それは未だに解読不能とされているマギネスギヤという巨大人型ロボットのブラックボックスを操作してみることだ

どこかで見たことある文字だと思っていたが何の変哲もない普通のプログラミング言語であることを思い出す。

確認をするために俺は学園の訓練用のマギネスギヤを借りることにした。


まずはマギネスギヤの教官、ギルボア先生に許可をもらう。

とても情に深い白髪の先生で俺の好きな先生だ。

母の遺言としてああだ、こうだと説明をして使わせてもらうことに……まあ、母からはマギネスギヤを「ああだ、こうだ」なんて一切聞いたことがない。


「そうか、おっかさんの……」

「……はい」


俺は罪悪感を感じながら学園にある訓練用のマギネスギヤの元へ案内される。

格納庫の奥にある全長10mの機体に目を向ける。

マギネスギヤは赤と黒のアドバンスカラーで塗装されていた。


「はぁ……カッコイイ」

「ふっ、おめえもこいつの良さが分かるのか」

「当たり前じゃないですか、ワクワクが止まりません」


前世と合わせるといい年した精神年齢のおっさんになるが、ロボットだけは別腹だ。

この合理性の合わせ技がなせるフォルム……魔力とかわけわからんが、駆動関係やこいつに使われるパーツはとても理にかなっている。

前世で人型のロボットを見たいと思ったら新幹線に乗る必要があったが、こうして目の前にあるだけで感無量だ。


「ほらよ、鍵の魔石だ」

「あ、ありがとうございます!」

「なに、気にするな。おっかさんの思い、無駄にするなよ」

「……はい」


キュィーン


借りた魔石を使うとマギネスギヤの起動音がする。

ああ、この音……心地いぃ!

この音を聞くたびに俺は鳥肌が立ち武者震いをする。

はあ、自分自身でこのマギネスギヤに魔力を入れて操作できたらどんなに気持ちいいことか。


まあ、そんな夢物語は置いておいて作業だ。

コックピットの操作パネルの根本にキーボードを繋いでキーを叩く。

これをこうして……ここを入れ替えて起動っと。

前世の記憶が思い出せたおかげで変更する工程は頭の中に出来上がっていた。

しかし…………


ビィー


警告音が鳴り響く

それと同時にコクピットの前面に赤く光る文字が浮かび上がる


「あ、失敗した……」


これは少々骨が折れる作業になりそうだな……。


「あのギルボア先生」

「なんだ?」

「もう少し、ここにいてもいいですか?」


なぜかギルボア先生は少し涙目になりながら


「そうか、おっかさんを思い出したか……ああ、いくらでもかまわんよ」


壮大な勘違いをしているようだが、この際、ヨシとしよう。


「俺は戻るから好きなだけやってくれ」

「ありがとうございます」


ギルボア先生は俺を残して職員室へ戻っていった。

その後、俺はマギネスギヤのコックピットに残り赤く発行する文字と戦うことになった。


「さあ、前世で嫌というほど見てきたエラー文そっくりだ。一日で片付けてやるよ!」


服の袖口をまくり上げて気合を入れる。

そう、この程度の作業はあのデスマーチと比べれば屁でもない。


その後、次々と修正していくが、妙な感覚に陥り自分でも不思議だった。

俺ってこんなにプログラミング得意だったっけ?

前世では仕事だから仕方なくやっていた。

だが、この若い体だからだろうか?

かなりのペースで修正作業が終わっていく。


「よし、完成、スイッチオン!」


修正作業を終えて再度、マギネスギヤの起動をする。

甲高い機械音と共にマギネスギヤのコックピットが光り輝く。


成功かな?と思った矢先に突如、目の前にウィンドウスクリーンが表れる。


『パスワードを入力してください』


パスワード……流石に分からない……適当に何か入れてみるか?

といっても何を入れようか悩んでいた。

うーんっと唸っても出てくるのは前世のスマホのロック画面に入力していた数字の羅列のみ……しかし、安直すぎるから却下する。


「よし、これ入れてみよ」


俺が入れてみたのは前世の自作パソコンで使っていたパスワードだ。

あまり金がなかったから最安の低スペックパーツをかき集め作った。

しかし、あまりに低スペックすぎてWINが動かなくてオープンソースのOS入れたんだよな……。

幸い会社で使い慣れたOSのために別に苦労したことはない。

むしろ仕事の勉強になったよな。


っと、パスワード……たしか……


『MOEMOEQN』


前世を思い出しながらパスワードを入力したのだが………


「マジかよ……」


パスワードをクリアしてしまう。


適当に入れたパスワードが通ってしまったことに驚いていると、新たにウィンドウが現れて画面に文字が浮かび上がる。


『ダウンロードとインストールを行いますか?y/n』


と、装飾などはなく質素というかシンプルな画面が怖かったりする。

何をダウンロードするんだ?

俺の経験上、訳の分からないものはダウンロードもインストールもしないのが良い

それにこれは学園のマギネスギヤで俺のものじゃない。

ここはNOだ。


俺は「n」を打ち込んだ。


『要求は取り消されました』


は?


『ダウンロードとインストールを行いますか?y/n』


おいおい、もしかして?

「n」は違うということはと思い俺は「no」を打ち込んだ。


『要求は取り消されました』


まじか……


『ダウンロードとインストールを行いますか?y/n』


一体、どうなっているんだ?

プログラムを見た限りそんなものはなかった。

俺がやったことといえば、文法エラーを修正しただけだ。

パッケージ管理?

それともヴァージョンに問題が?

もしかして、ウィルスか何かに感染しているのか?

うーんと唸っても解決策が浮かんでこないのでダメもとで俺は「いいえ」を打ち込んだ。


『要求は取り消されました』


はぁと溜息をつく


『ダウンロードとインストールを行いますか?y/n』


何度も俺の目の前に浮かび上がるウィンドウスクリーン。

魔力の残量を見るともう残り少ない

魔力を持たない俺がこれ以上触るには新しい魔石が必要だ。

魔石も安いものじゃない。

これ以上は授業にも支障が出るだろうと思い俺は電源を落として帰ることにした。

マギネスギヤから降りて出入口へ向かおうとしたのだが……


『ダウンロードとインストールを行いますか?y/n』


なぜかマギネスギヤの動力を切っても俺の目の前に現れるウィンドウスクリーン。

更にはマギネスギヤから離れてもウィンドウスクリーンは付いてくるのだった。


もうどうでもいいやと少々やけになり俺は「y」を押す。

ダウンロードが開始されインストールが始まる。


…………と同時に激しい腹痛が襲い掛かる。


「え?」


急に腹が熱くなり全身が動かなくなる。

俺は恐る恐る視線を腹部へと持っていく。

何故か俺の腹部から剣の刃の部分が生えていた。


薄れゆく意識の中、ゆっくりと世界が動く。

どう考えても剣を背中から突き立てられたようだ。


しばらくすると、剣が俺の体から引き抜かれる。

それと同時に、振り向くとそこには黒ずくめの男が立っていた。

正直、もう駄目だと観念した俺はゆっくりと意識が遠のいていく。


「か……可憐……また、会えるかな……」


前世を思い出し真っ先に頭をよぎった人物は可憐だった。

最後まで可憐のことが頭から離れなかったことに我ながら未練がましいと思う。

ただ、次こそは…………。



☆彡



目を覚ますと辺りは真っ暗だった。

現状、分かるのは冷たい床の上にいるということぐらい。


ここがあの世だろうか?


音もなく静まり返っていた。

その静寂を破るような音が鳴り始める。

その音はどこか懐かしい……前世の自作パソコンの起動音に似ている。


次の瞬間、辺り一面が光り始める。

見たことのない場所。

辺りを見渡せばずらりと並ぶ制御基板や制御装置。

そして、天井にも大型のスクリーンによるレーダー探知機のようなものがある。

展望台のような窓から見える光り輝く無数の星々。


まるでアニメの宇宙戦艦のメインブリッジのような場所。


「目が覚めましたか?マスター」


性別は男だろうか?

ただ生身の人間というよりも合成音声のような声がする。

声のするほうに振り向くが誰もいなかった。


「おい、誰だ?誰かいるのか?」

「マスターこっちですよ」


今度は左から声が聞こえるので左を向く

しかし、誰もいない。


「ですからこっちです」


またも左側から声が聞こえる。ただ、少しばかり下にいるようなので左下に視線を移す。


「……は?」

「その呆れたような顔はなんですか。失礼ですマスター」


やっと姿を見ることができたが,


やはり、人間ではなかった。


一言でいうと前世のご当地キャラって感じだ。

とても小さく拳ほどの大きさである。


まあ、前世でいうところの手のひらサイズのブリキのおもちゃという感じだ。


真っ白い体は手入れが行き届いているのだろうか?

光に当たる部品の光沢は眩いほどであった。

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