第9話 (ロゼッタ視点)
夜会が終わり私は自室へと戻ってきました。
椅子に腰かけふと思い出す今夜の出来事。
婚約破棄、そして悪役令嬢
この単語を知ったのは私が12歳の時。
家の廊下で思いっきり転んで頭を強く打った時に思い出したメロディー。
それはアニメソングと呼ばれるもの。
そして、徐々に思い出される前世の記憶。
そう、私は転生者だった。
前世の死因はガン。
最後の病院のベットの上で飽きるまで見たアニメ達のオープニングテーマが今でも脳裏に焼き付いている。
アニメソングを歌うたびに少しづつ戻る記憶。
部屋ではアカペラで熱唱。
意外にもメイドの受けが良かった。
この体は前世と違い美貌も美声も兼ね備えているおかげで、いつの間にか周りから歌姫と呼ばれる。
更には聖女に一番近いとすら噂されるほど……
父も母も変わった歌だなというが否定はしない。
更には演奏者までつけてくれる始末。
私は本当に恵まれた環境に生まれ落ちたのだと実感。
まあ、前世の記憶と家柄、生まれ持った素質が3拍子揃ったおかげでしょうね。
14歳の時にこの国の第二王子と婚約。
婚約時に目の前のアンソニー殿下を見て……ああ、この人なのね。
と、冷めた目で見てしまう。
前世の記憶が蘇った時に一緒に思い出される乙女ゲームのタイトル
「勇者達と恋するマギネスギヤ」
という、SFRPG要素が入った女性向け恋愛シミュレーションゲーム。
ロボットに乗った勇者に守ってもらったり、お姫様抱っこでコックピットに乗ったりとどちらかというと男性が好みそうなものであまり人気がなかったはず。
私は……なぜかプレイしていた。
あれ?
誰だっけ?
確か、知り合い?
恋人?
片思いの相手?
正直、思い出せない。
が、ロボットオタクの彼ことを思いながら……彼なら好きだろうなと思いをはせながらポチポチやっていたので覚えていた。
そういう意味では彼に惚れていたのでしょうね。
全く思い出せないけど……。
そして、この生まれた世界とゲームの世界があまりにも酷似。
今回の婚約破棄はゲーム内のイベントとして存在していた。
だからこそ、いずれ起こるだろうと予期することが出来た。
まあ、婚約破棄されたところで痛くも痒くもない。
なぜなら、第二王子のアンソニー殿下と話をしたことなんて数えるぐらいしかない。
感情なんてものは何もない。
強いて言えば、父がどんな顔をするのかが不安。
ゲームでは婚約破棄後のロゼッタのことは触れられていなかった。
それにしても、我ながらかなりの名演技よね。
ゲームで何度か見ているけどセリフも完ぺきには覚えていなかったから、半分以上はアドリブ。
自分でいうのは何だが、名演技だったわ。
ただ、一つ気がかりなことがある。
恋マギのゲームでモニカに恋人なんていなかったはず……。
だから、彼の存在を知った時……もしかしたら婚約破棄はイベントは発生しないのでは?っと思っていたのだがイベントは発生してしまう。
それにしても、あのモニカの恋人が可哀そうだったわ。
絶望という言葉が彼の周りに纏わりつくように覆っていた。
顔面が真っ青になっており、立つことも辛そうだった。
モニカは女の私から見ても超美少女。
私だって今の自分の見た目に自信があるけど、あの子は反則だわ。
それなのに決して驕ったりしないいい子なのよね。
まあ、おかげで男女問わず人気でるってものね。
モニカの恋人、正確には元恋人かしら……やっかみとかあったのに平気な顔しているから何というか、精神的に逞しいと思っていたけど、やっぱりモニカが心の支えだったようね。
それが失われて今後、どうするのかしら?
まあ、私が考える事じゃないわね。
明日から夏季休暇のために準備を始めることにした。
「あれ?ない……私のお気に入りが……ない!……あっ……教室に忘れたのね」
私は慌てて教室へ忘れ物を取りに行く。
夜の学園は少し不気味……早く忘れ物を奪還して部屋に戻ろうとした。
しかし、廊下で意外な人物に出くわす。
「やあ、ロゼッタ」
「これは、アルフレッド殿下」
教室へ行く途中で顔見知りに出会った。
私は立ち止まりスカートを裾をつまみ挨拶をする。
公爵令嬢の私がここまで礼儀正しくしないといけない相手だからだ。
その出会った人はこの国の第一王子。
第一王子は第二王子と違ってとても優秀で気品のある男性。
正直、第二王子と婚約するより第一王子と婚約したかった……いや、本命は現在の勇者レイブン様だけど。
「その、今回の件については……僕も知らなかったことで……何といえばいいのか」
どうやら婚約破棄の件をアルフレッド殿下は知らなかったみたいね。
でも、私の心配よりも自分のほうがかなりダメージ大きいと思いますけど。
なんたって、モニカを狙っていた一人ですもの。
「いえ、私は大丈夫です。お気遣いありがとうございます。清々した気分です」
私の意外な回答にキョトンとするアルフレッド殿下。
「え?あ、あ、そうなんだ……えっと、こんな時間にどうしたんだ?」
「教室に忘れ物をしてしまいまして、アルフレッド殿下は?」
「君が?珍しいこともあるもんだね、僕は騎士として見回りをしているのさ」
「流石ですわ、アルフレッド殿下」
オホホと手を口に当てて微笑む。と同時に嫌な声が聞こえる……。
「おや、これはロゼッタ令嬢ではありませんか」
私がアルフレッド殿下と話をしていると割って入くる男が現れた。
「このような時間にこのような場所で会えるなんて運命を感じます」
「あら、お上手ね、ポルトンさん」
「いえいえ、滅相もございません」
私たちにズカズカと近づく坊ちゃん刈りのぽっちゃり男子は男爵家子息のポルトン=ウブリアーコ。
苦手な男なのよね。
先ほどから視線が私の胸にしか行ってないのですが?
そんなにも私の胸とおしゃべりがしたいのかしら。
まあ、あまり大きくない胸で喜べるなんて……そこだけは見る目があるわね!
ただ、生理的に彼を受け付けないのはどうしようもない。
「お二方ともごめんなさい。急いでますので」
早くこの場から切り抜けようと脱出を試みる。
「そうだね、もう時間も遅いから早く戻ったほうがいい」
「ありがとうございます。アルフレッド殿下」
流石にアルフレッド殿下は分かっていらっしゃる。
この場からすぐにでも逃げたい私の気持ちが!
「まあ、ここで会ったのも何かの縁です。用事があるならお供しますよロゼッタ令嬢」
いや、一秒でも早くあなたと離れたいのよ!
空気を読みなさい!
「いえいえ、私も用事が済み次第、すぐに部屋に戻りますので」
「ならば、しばしの間、わたくしめが……」
どうしよう、意地でも付いてこようとしてない?
「ポルトンくん、ちょっといいかな?」
「これはアルフレッド殿下、いかがなされました?」
アルフレッド殿下はポルトンの耳に顔を近づけ手で壁を作りヒソヒソと小声で何か話しかけていた。
私には聞こえないが次第にポルトンが興奮していき……。
「申し訳ございません。ロゼッタ令嬢。用事が出来ましたのでここで失礼させていただきます」
「ええ、大丈夫ですよ。ごきげんよう」
ポルトンはアルフレッド殿下に何を吹き込まれたのか知らないが大きな体を揺らしながら急ぎ足でその場を離れる。
私は彼を笑顔で手を振りながら見送る。
残された私はアルフレッド殿下に視線を向けると彼と目が合う。
するとアルフレッド殿下は二コリを笑いかけてくれる。
たぶん、アルフレッド殿下が助け舟を出してくれたみたいだ。
「アルフレッド殿下、ありがとうございます」
「気にしないで、それじゃあ俺はこれで」
アルフレッド殿下は進行方向へ体を向け背中越しに手を振る。
私はその背中に頭を下げアルフレッド殿下が見えなくなってから移動を始めるのだった。
目的の教室に到着。
正直、深夜の学園は不気味なので早く帰りたいと思っていた。
お化け?いえ、この世界では正直、人間のほうが怖いわ。
人の命を何とも思っていない人が多いこと多いこと……。
日本人の感覚では命がいくらあっても足りないもの。
っと、自分が今しがた深夜の学園に一人でいることに気が付き更に恐怖する。
「誰も……いないよね」
ガタ!
「きゃぁぁぁぁぁぁ!」
私はあまりの恐怖に絶叫する。
しかし、冷静に物音がするほうを見ると机から教科書が落ちただけだった。
「なんだ……脅かさないでよ」
ホッと胸をなでおろす。
しかし、次の瞬間に激しくせき込む。
「ゴホゴホゴホッ」
手で覆い咳き込む
かなり苦しく咳が止まらなかった。
そして、何かを吐き出してしまう。
正直、食べたものが少し出たのだろうと思っていたのだが
手に付いたのは……大量の血のりだった。
「そ、そ、そんな……今度こそ……今度こそ……幸せになろうって思っていたのに」
その場でペタンと座り込んでしまう。
自分がこの後、どうなってしまうのか……不安で一杯になりしばらく立ち上がることが出来なかった。
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