第15話 お転婆な姫様

俺は追っ手から逃れるために当てもなく走る。

肩に担いでいる美少女はとても楽しそうだ。

しかし、脇に抱えている美女は不満があるようだ。


「ちょっと、どこへ行くのよ」

「しゃべるな、下噛むぞ」

「わーい、すごい速い」


脇に抱えたローズは俺に質問してくる。

ただ、ソフィアは、なんというか……能天気な言葉で流れる景色を楽しんでいた。


そのまま、俺はなんとか振り切ることに成功


「ぜえぜえ……この辺りまでくれば大丈夫か?」


簡易戦闘プログラムが終了しており二人の女性を抱えて走ることがすでに限界だった。ナノマシンさん、ありがとう!


「どうでしょね」


とても呆れているローズ


「それよりも早く降ろしてよ」

「あ、ごめん」


脇に抱えていたためすごい怒っているように思える。

どうしよう……思いついたことをすぐにやってしまうのは良くないと反省したばかりだというのに……。


二人を降ろして俺は謝ることにした。


「すまなかった」

「どうして、謝りますの?」

「いや、なんか怒っているから」

「私は怒ってません。むしろ面白かったです」

「は?面白い?」


この金髪美少女のソフィアが何を考えているのかさっぱり分からない。


「それにしても、あなたすごいのね。あれほどの強化魔法が使えるなんて」

「言われてみれば、サム、あなた魔法が使えたのね」


どうやら先ほどの簡易戦闘プログラムが強化魔法と思われたようだ。しかし、強化魔法でなくナノマシンによる簡易戦闘プログラムだということを説明するのは躊躇った。


まあ、本当の理由は……理解してもらえないだろうからな。


「いや、俺にもわからないんだ。急に力が出て……」


なんとか取り繕うとするとソフィアが興味深々に俺を嘗め回す様に観察する。


「え!そうなの?うーん、体が特殊……それとも変なのかな?」

「おいおい」


更には何の躊躇もなく彼女は俺の体を撫でまわし始める。


「あははは、くすぐったい」

「一体、どこに秘密が?」

「ヒィーやめてー」


くすぐったいようなこそばゆい感じ


「はいはい、そこまでにしようね」


俺の体を撫でまわすソフィアの肩を捕まえて制止するローズ。

そして、悶絶状態から脱出した俺に問いかける。


「ねえ、あなた……これからどうするのよ」

「え!どうするって……何が?」

「はぁ……」


クソデカため息をつくローズ。

なんだろう、またちょっと違ったローズだなっと思っていた。

しかし、彼女の口からとんでもない真実が出てくる


「あのね……彼女……ソフィアはお姫様よ」

「……………………は?」

「間抜けな顔しない」

「いやいやいや、だって……え?」


ソフィアがお姫様?

そう言われてみれば、あまり着飾ってないが着ている服の生地はとても高級そうだ。

この世界で全身、絹の製品はいいとこのお嬢様だろう……って、まじで……いや、まだこの程度では……んー?


「で、ソフィー、あなたは何の用でSPから逃げていたの?」

「あら、ローズばかり楽しそうだったので私も混ぜてもらおうかと」


急に親しげに話し始める二人

あれ?やっぱりというか……王女様?

しかもSPって……さっきの黒服?


…………あ、俺……詰んだ?


「それよりも、どうしても行きたい場所があるの」

「どこよそれ」

「あのね、前に食べたあの謎肉が食べたいの」

「謎肉って……」


なるほど、どうやら彼女は屋台の肉が食べたいようだ。

そのために俺はSPをやっつけてしまったのか?

というか、そんなことよりも……

今後の自分がどうなってしまうのか気が気でない。

俺は肩を落としてうなだれる。


「ほら、落ち込まない」

「そうです。かっこよかったですよ」


落ち込む俺を慰めてくれる二人。

俺はソフィアの顔を覗き込むと満面の笑みになっていることに更に落胆する。

ソフィアさん……原因はあなただって気づいてますか?


俺たちはそのあと彼女が言う謎肉を求めて屋台へ行く


「あー、この匂い……求めていたものだわ!」

「そうですか……」

「あら、元気がない?ほら、肉を食べて!元気になるよ」

「あ、ありがとうございます……」

「んーーーー、ジュースィー」

「うん……美味い……」


求めていた肉にありつけたソフィアは超が3つ付くほどご満悦だ。

「ほっぺが落ちる~」を全身で表現できている。

その反対側にいる俺は絶望のオーラで満ち溢れていた。


ローズは俺の傍に来て世話を焼いてくれる。

たぶん、俺の絶望オーラが見るに堪えないという感じで世話を焼いてくれているのだろう。


「もう、ソースが垂れているよ」

「おっと……はぁ」

「元気出しなよ」

「いや、出ねえよ……SPの人を殴って王女を誘拐したようなものだろ?」

「大丈夫よ」

「何を根拠に?」

「私がいるからよ」

「どういうことだ?」


ローズは大したことのない胸を張りドヤ顔をしてくる。

自信満々なのはいいが……根拠はあるのだろうか?


「私は公爵令嬢よ、それにあのSPとは面識があるわ。だからあの人たちも気が付いたはずよ」

「なあ、その理屈でいうと俺はお前を脇に抱えて走り去った犯人だ……更に罪を重ねていないか?」

「そう言われればそうね」


俺は更に罪を重ねていることに気づいてしまい、頭を両手で抱えて悶絶する。


「ぬぉぉぉぉぉ」


悶絶する俺の肩をポンポンと叩き親指を立てるソフィア。


「まあまあ、そんなに気にすることないよ」


ソフィアさん、根本の原因はあなたなんですよ……いや、早合点した俺も俺だけど……


「ローズ、この人の無実の罪を晴らすために協力しましょう」

「まあ、仕方ないわね……って、どうするの?」

「いい考えがあるの」


ソフィアは手招きをする。

それに対応するローズ。

ソフィアはローズの耳元を両手で覆い、俺に聞こえない様に囁く

「ヒソヒソ」

「んー、ヒソヒソ」

「ヒソ」

「わかったわ」


何が分かったのか分からないが……任せるしかないのか。


「はぁ」


俺はこの後どうなってしまうのか……そればかりを考えてしまう。

牢獄……打ち首……どれも嫌だな……。


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