第2話 歌のお姉さん

初等部の教室前


俺が初等部のガキが鬱陶しいので殴ろうと決心したが心優しいので許してやることにした。

なんていう、そんな冗談を頭の中で考えながらバケツを持つ手に力を入れる。

何とも情けない姿をさらしながらやり過ごしていたところ……とある女性が俺の目の前に現れた。

そう女神が降臨したのだ。


「ダーリンったら、また廊下にいる」

「おや、モカこんにちは」

「もう、こんにちはじゃないよ。今度なにしたの?」


少年少女をかき分けて俺に掛ける声はまるで天使のように美しく澄んでいた。

ボリュームのある金髪をなびかせながら、大きな瞳でこちらを見てくる。

俺と同じ17歳のはずだが、とても成熟した女性で男性なら誰しもが見惚れて釘付けになってしまうほどの美貌を持っていた。

そんな彼女は俺の自慢の恋人であり婚約者だ。

名前はモニカ=マクスウェルというのだが俺は親しみを込めてモカと呼んでいる。

なんせ俺の将来の伴侶だからな!


「ああ、ちょっとマギネスギヤのブラックボックス部の改造をしていたんだよ、そしたら先生がさぁ……」


俺はマギネスギヤのエンジニア志望だった。

魔力を持たない俺でも出来るエンジニアという職を目指すのだが、まさかテストで魔力が必要な問題を出されるとは……。

別に魔力がゼロでも他人に魔力を魔石に入れてもらい使ってもテストでは合格が出来る。

いつもならモカにお願いしていたのだが、ある思い付きで学園のマギネスギヤを弄っているところを先生に見つかってしまったのだ。

そして、今に至る……とほほ。


「あっ、ダーリン……ちょっと待ってね」


俺が愚痴をこぼそうと思っているとモカは手で遮り少年少女たちに体を向ける。

そして、優しく微笑みながら少年少女と目の高さを合わせるように座り込み早く帰るように諭す。


「みんな早く帰らないとお父さんとお母さんが心配するよ」

「うん、わかった」

「はい、よいお返事です」


少年の元気のよい返事に天使の笑みを浮かべるモカ。


「ねえ、お姉ちゃん」

「ん?」

「今日ね歌魔法ならったの!」

「そうなんだ、偉いね」


今度は小さくて可愛い女の子が興奮した状態でモカに詰め寄る。

どうやら今日の授業は小さな女の子にとって衝撃的だったのだろう。


「お姉ちゃんはお歌を歌えるの?」

「お歌?歌魔法の?」

「うん」


目を輝かせて期待に満ちた眼差しをモカに向ける。

モカは歌唱学科の生徒特有のピンクリボンが付いた制服を着ているので少女も歌が歌えると思ったのだろう。


モカは若干戸惑いながらも少女の光り輝く瞳に応えることした。


「ええ、ちょっとだけね」


モカは軽く息を吸い込み


『ら~らん、ららら~♪』


素晴らしい歌声を子供たちに披露する。

モカの歌声はいつ聞いても素晴らしい。

天使の歌声と賞賛があるほど彼女の歌は全校生徒が認めている。


「お姉ちゃん、きれいな歌声!」

「ありがとう」

「ねえ、もっと聞かせて」

「また今度ね、早く帰らないとこのお兄ちゃんみたいになっちゃうよ」


モカさんそれは最高のオタクになれる素質がありますよ。いいんですか?


「それはイヤ!」


少女は物凄い嫌そうな顔をして条件反射的に答える。

そんな少女にモカはにっこり……俺はガックリする。


「それじゃあ、早く帰りましょうね」

「うん!」


モカの笑顔は誰でも幸せにできるのだろう。

俺のようになると脅されたせいで、先ほどまでの眉間のシワは取れ満面の笑みで頷く少女。

これにはさすがの俺も笑みがこぼれる。

なんというか微笑ましい光景だ。


「ばいばい、お姉ちゃん」

「ばいばい」


少年少女はモカに手を振り帰っていく。

モカもそれに応えるように手を振って見送る。

手を振るだけなのにモカは絵になるよな。


「ねえ、ダーリン……あのね」


皆が帰ったのを確認してモカは俺のほうに向きを戻す。が、しかし……


「おい、少しは反省したか?」


何やらモカが話し始めていたのだが突如現れた諸悪の根源が威嚇するように俺に詰め寄る。


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