歴詩
◇
いと美しきそのかんばせは
ただのひとつも動かない
如何にせん 如何にせん
絹を裂く音は
まるで民草の悲鳴のごとく
あなや烽火を上げたれば
蠢く兵どもに笑みをくべ
その哄笑は
あまねく戦禍に響き渡る
ああ、そなたの笑みは国を亡ぼしたり
美しきかな 美しきかな
-褒姒-
◇
勇猛果敢なる王よ
獅子の心持つ王よ
その手にあるは聖剣か あるいは傲慢か
ひとたび奮えば戦火に走り
安息を知らぬ猛き王
汝の似姿を求め 諸人はそなたを語り継がん
獅子は眠る
古く優しきルーアンに
眠れる獅子を起こすなかれ
さて彼の地は失われたのだから
-リチャード獅子心王-
◇
盛者滅びて竜胆栄え
蝶の散る散る壇ノ浦
-壇の浦の戦い-
◇
遅咲きの紅薔薇よ
その道は美しき鵲と 輝かしき剣に彩られ
愛深く知性溢れる紅薔薇よ
その歩みは気高き信仰と 誠実なる心の標となり
憧憬は海を越え 勇と愛を胸に抱け
あゝ紅薔薇よ
そなたの王国はここに栄えん
-フィリッパ・オブ・ランカスター-
◇
いと気高き鹿の園の女主人
アイリスの冠は今や枯れ果てん
そなたに手折られることを待つ
ああ、されど
そなたの手によりあらたなる花を咲かせる
ああ、されど
そなたのペティコートは黒鷲を覆う
いと気高き鹿の園の女主人
冠を正す人よ 雨天の葬列にいざ散らん
-ポンパドゥール夫人-
◇
海を渡ってきた雌狼よ
その身に纏う紅き薔薇は
お前の食い殺した者たちの血で染まっている
いとおぞましき雌狼よ
篤き信仰にさえ御せぬその心根を
白き薔薇に穢されるがいい
ああ憐れなる雌狼よ
御旗は猪の首となり
魂は大鴉に啄まれるであろう
-マーガレット・オブ・アンジュー-
◇
天渡るくものいずこか知られざる 信貴に蔦散る惑う夢かな
-松永久秀-
◇
硝子の小匣 詰め合わせ 硝子匣 @glass_02
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