歴詩


いと美しきそのかんばせは

ただのひとつも動かない

如何にせん 如何にせん


絹を裂く音は

まるで民草の悲鳴のごとく


あなや烽火を上げたれば

蠢く兵どもに笑みをくべ


その哄笑は

あまねく戦禍に響き渡る


ああ、そなたの笑みは国を亡ぼしたり

美しきかな 美しきかな


-褒姒-



勇猛果敢なる王よ

獅子の心持つ王よ

その手にあるは聖剣か あるいは傲慢か

ひとたび奮えば戦火に走り

安息を知らぬ猛き王

汝の似姿を求め 諸人はそなたを語り継がん


獅子は眠る

古く優しきルーアンに

眠れる獅子を起こすなかれ

さて彼の地は失われたのだから


-リチャード獅子心王-



盛者滅びて竜胆栄え

蝶の散る散る壇ノ浦


-壇の浦の戦い-



遅咲きの紅薔薇よ

その道は美しき鵲と 輝かしき剣に彩られ


愛深く知性溢れる紅薔薇よ

その歩みは気高き信仰と 誠実なる心の標となり


憧憬は海を越え 勇と愛を胸に抱け


あゝ紅薔薇よ

そなたの王国はここに栄えん


-フィリッパ・オブ・ランカスター-



いと気高き鹿の園の女主人


アイリスの冠は今や枯れ果てん

そなたに手折られることを待つ


ああ、されど

そなたの手によりあらたなる花を咲かせる

ああ、されど

そなたのペティコートは黒鷲を覆う


いと気高き鹿の園の女主人

冠を正す人よ 雨天の葬列にいざ散らん


-ポンパドゥール夫人-



海を渡ってきた雌狼よ


その身に纏う紅き薔薇は

お前の食い殺した者たちの血で染まっている


いとおぞましき雌狼よ


篤き信仰にさえ御せぬその心根を

白き薔薇に穢されるがいい


ああ憐れなる雌狼よ


御旗は猪の首となり

魂は大鴉に啄まれるであろう


-マーガレット・オブ・アンジュー-



天渡るくものいずこか知られざる 信貴に蔦散る惑う夢かな


-松永久秀-


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