Ⅹ 父の仇(1)
「……む? なんだ? 巨人か? どこから湧いてでおった?」
そうした痛ましい喧騒の中、少し離れた場所で殺戮を繰り返していた〝
「あれは……ダーマ人め。あのような怪物まで隠し持っていたか。やはりヤツらは危険分子。世の平穏のため、あの巨人ともども根絶やしにするしかありませぬな」
「よーし! 今度は巨人退治だ! ものどもかかれぇぇぇーっ!」
黒マントの従者シュトライガーの言葉に、熱に浮かされ英雄気取りの城伯ジョハンは、覆面の衛兵達に向けて突撃の号令をかける。
「おおおぉーっ…!」
「おりゃあああぁぁぁーっ…!」
その雄叫びに呼応し、ハルバートを持った兵士六名が一斉にゴーレムへと斬りかかった。
「くっ…刃が通らん……」
「生身じゃねえのか……」
だが、その矛先も厚い斧の刃も尖った鉄槌も、やはりその巨体に傷一つ付けることはできず、見事に当たるもギン…! と鉄板を叩いたかのような音がするだけだ。
「無駄だよ。パパの造ったゴーレムはすっごく頑丈なんだから……ゴリアテちゃん、お返しだよ?」
「オオオオオオ…!」
その様を、肩の上から冷ややかな
「…!
ところが、彼らは市民の暴徒とは違い、〝衛兵〟という名の戦闘の
ゴーレムの反撃を察すると咄嗟に後方へと飛び退け、辛くも叩き潰される憂き目を避けることができた。
「娘? あの肩にいる娘を守っているのか……? まあいい。図体がデカい分、動きは遅いぞ! 取り囲んで続け様に攻めたてよ!」
「おおおぉーっ!」
さらには、肩の少女を訝しみつつも的確に状況把握するシュトライガーの指揮の下、兵士達はゴリアテを取り囲むようにして散開すると、休まず交互に四方からハルバートを振るい始める。
「オオオオオオ…!」
これまで同様、刃はその身体を貫くことはないが、攻めては退き、入れ替わりに今度は背後から突いてくる兵士達の巧みな戦法に、振るわれるゴーレムの拳も彼らを捉えることができない。
「もお! パパのゴーレムに何すんのよ! そんなに叩いたら傷できちゃうでしょ!? ……て、そうか。わたしがゴリアテちゃんの足引っ張ってるんだ……」
それでも傷つきそうにはないのだが、何度となくハルバートで叩かれるゴーレムを見て、思わず声を荒げてしまうマリアンネは、自分が肩に乗っているためにその動きが制限されていたことに気づく。
「ゴリアテちゃん! わたしは大丈夫だから降ろして! 身軽になって思う存分闘って!」
「オオオオオオ…!」
そこで彼女がそう命じると、ゴーレムは一旦、兵士達の囲みを突進して切り崩し、近くにある家と家との隙間の路地に肩のマリアンネをそっと掴んで降ろす。
「ありがとうゴリアテちゃん。じゃ、思いっきりやっちゃって」
建物の影に身を隠したマリアンネは、目の前に
「オオオオオオォォォーっ…!」
すると、立ち上がって両腕を振り上げたゴーレムは、これまでにないほどの大きな唸り声を響かせながら、そのビリビリと痺れるほどの気迫を同心円状に周囲へと振りまいた。
「…む! 来るぞ! 気をつけろ!」
その間、囲みを突破されるも背後から迫っていた兵士達は、巨人の殺気を感じて足を止めると、ハルバートの矛先を突きつけて各々に身がまえる。
「オオオオオオォ…!」
「フン! そんなものに当たるかよ! 今度はこっちの番…ぶへはっ…!」
そして、ゴーレムの拳を飛び退いて避け、その反動でハルバートを突き出そうとする兵士だったが、その瞬間、反対側からの強烈な一撃を受けた彼は鮮血を上げて宙に身を踊らせる……右のフックを避けられた刹那、巨大な拳の左フックをゴーレムは放っていたのである。
「は、速い! 動きが変わったぞ! 気をつけろ…んぐっ……ぐはぁっ…!」
ゴーレムの変化に警戒し、仲間にも注意を促そうとしたその兵士も、正面からの拳打をなんとかハルバートの柄で受け止めたものの、続け様にもう一撃を叩き込まれ、砕けたハルバートの版がとともに背後の家の壁まで殴り飛ばされてしまう。
「なっ!?…ぎゅはっ…!」
「ぶへぇ…!」
間髪入れず、巨体を回転させたゴーレムは裏拳で後方の二人を弾き飛ばし……。
「そ、そんな…ぐへぇっ…!」
さらに半回転すると勢いのついた巨拳で反対側の兵士も叩き潰す。
「た、た、た、助けてくれ…う、うわぁあああーっ! …んぎゅ……」
そして、顔面蒼白に許しを乞うや背を向けて逃げ出す最後の一人も飛びかかって踏み潰し、一瞬にして城伯の精鋭部隊はゴーレムの手によって全滅させられた。
やはり、これまではマリアンネの身を庇って動きが鈍かっただけのようである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます