Ⅱ 秘儀の巨人(1)
「──なるほどお……
父エリアスが出かけた後、
ただし、ここでいう〝硫黄〟と〝水銀〟とはそれそのものをいうのではなく、象徴的な意味合いにおいてのそれである。
錬金術の理論によると、原初の存在〝
また、その結合を促す触媒が
この理論に基づけば、「熱・冷」、「乾・湿」という相対する性質の最たるものが硫黄と水銀であり、つまり、すべての物質はこの二つによってできているため、究極にまで精錬されたこれを結合させることで最も純粋な金属〝黄金〟が生まれ、さらにその中から四大元素を純粋な状態=〝黄金〟に結合させる
なので、錬金術師達は他の鉱物はもちろんのこと、タマネギや生姜などの植物、牛やカモシカ狐なんかの動物、果ては血液、骨、尿などの有機物に至るまで、ありとあらゆるものを材料として用いており、貧しいバルシュミーゲ家のマリアンネも、現在、そこら辺で拾った石ころを
「でも、やっぱ火薬だと爆発に炉が耐えられないよねぇ……いったい、何を使えば
錬金術書を机に置き、石ころを
そう……マリアンネも父の跡を継ぎ、将来は錬金術師になろうと心に決めており、そのためにこうして日々仕事の手伝いをしながら、自分一人でも専門書を読んで、その知識を深めようとしているのである。
「でも、あんなにすごい錬金術師のパパですら、いまだに成功してないんだしなぁ……ほんとに〝
そんな疑念にかられたマリアンネは、振り返ると部屋の隅に立つ、父の成した功績の一つへと視線を向ける。
そこには、天井につくほどの巨大な物体が埃よけの布を被されて置かれている。
「これを造れたパパの技術を以ってしても、ずっと錬成は失敗続きなんだもんねえ……」
椅子から立ち上がり、そちらへと歩み寄ったマリアンネは、その布を引っ張って剥ぎ取ると、下に隠されていたものをまじまじと見上げる。
それは、ゆうに人の三倍はあろうかという巨体を誇る、全身が陶器のような質感を持った大きな土製の人形だった……筋肉隆々の、太古の時代のレスラーが如き外見をしたその土の巨人が、片膝を突いた状態で部屋の隅にうずくまっているのだ。
正確には聖別された粘土と
それは一年ほど前、いつものようにマリアンネが
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