第9話 お前が話してみろ、おっさん
人々はいっせいに松村を讃え始めた。昨日、小動物を回収されて落胆していた人々はとくに熱狂した。通常なら、これほど大きい人々の反応にアルゴリズムは変数を即時書き換えするはずだ。そろそろモフモフ追放令が解除されてしかるべきである…しかしアルゴリズム・アップデートは起こらない。
「そっかー!」
ニンジャ・マスター岡田は走り出した。
シンギュラリティによってアルゴリズム自身が作り出したアルゴリズムは、人間の感情や意見を、アップデートの加点にしてくれないのだ。愛情や感動は行動データとして目に見えない。体温が上昇したり、大声を出しても、宇宙サッカーの応援と同じぐらいの扱いなんだ。
悪気はない。あいつらに心はないからな。こうなったら、俺がアルゴリズムをチューニングしてやる。
アカシックレコードのリーディング・ルームに飛び込んだ岡田は、アルゴリズムの変数を変更しようとした。しかし、完全にブロックされている。そうだ、たしかアレがあったはずだ。ゴミとして廃棄された、チューニング用のマスターキー。ださい小さな樹脂製の物質で、あれを差し込むとアルゴリズムの強制停止と修正ができるという、過去の遺物。
「うーむ、そういえばたしか、松村ニンジャがハムスターのおもちゃに貰っていったな!」
岡田は演説中の松村のところに走った。
「松村ニンジャ、松村ニンジャ!」
演壇裏の緞帳から呼びかける岡田に、松村が気付いた。
「…ニンジャ・マスター岡田!みなさん、私がこの世でもっとも尊敬する仲間、ニンジャ・マスター岡田をご紹介します!」
「えぇっ!」
緞帳から引きずり出された岡田に、日系宇宙ステーションのすべての目が注がれる。何か言わないわけにはいかないようだ。
「ご紹介に預かったニンジャ・マスター岡田です。えー…これの発端はといえば、小さなネズミであります。それを猫が不要であるといい、排除しました。みなさんが昨日見ていた通りです。」
ざわざわ、と人々が不穏にうごめく。岡田は全身から噴き出す汗を止めるために、忍法の十字秘術を使った。できる―できる―俺なら、できる―。ニンジャ・マスター岡田の精神が整った。
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