第10話 日系人は幸せのために生きる
「我々が最初に失ったのは、取るに足らないように思えた、小さなネズミでした。しかしそのネズミはただのネズミではなかった。それは愛着によって私の部下、松村ニンジャに繋がったネズミでした。ネズミの死によって、かわいがっていた部下の心が死んだ。
つまり、です。我々は目に見えない、認識できない、つまらない感情的繋がりによって生きています。まだ気づいていない繋がりも色々あるだろう。生きることの繋がりの広さと愛着の深さは、失ってから気付いても遅過ぎるのではないか。
私のスピーチは以上です。まとまってなくて、すみません。センキョ、万歳!日系宇宙ステーション、フォーエバー!ピース!」
割れるような拍手が起こった。たぶん、今年のセンキョで一番の嵐のような拍手だ。ニンジャ・マスター岡田は、猫を手に拍手する松村に小声で詰め寄った。
「おい、あれはどこだ?ハムスターのおもちゃにしていた樹脂のキーは?」
「つよしの形見ですね。ここにあります。」
松村ニンジャは胸に吊るしたドッグタグを外した。
「おい、IDネックレスの改造は禁止事項だぞ!」
「すみません。」
「後で話そう。」
ニンジャ・マスター岡田は松村のドッグタグをつかみ、アカシックレコードのリーディング・ルームに向かって走り出した。俺がアルゴリズムに新たな変数を与える。目標設定は「日系人は幸せのために生きる」だ!
―だがしかし、これがなかなか難しかった。
ニンジャ・マスター岡田は、最初はテキストで「人間の幸せ」を設定しようとした。が、埒があかない。
「口角が上がる」「笑い声を出す」「目じりが下がる」「抱き合う」「見つめあう」…ダメだ、とても設定しきれない。いったい幸せの発露は何通りあるんだ…!
ニンジャ・マスター岡田はテキストによるアプローチを捨てて、今度は自分が貯め込んだ「幸せな瞬間」のイメージを読み込ませることにした。
仕事を終えてゼリーをすするニンジャたち、宇宙出産後に赤ちゃんを初めて抱いたくノ一と家族、年末のニンジャ忘年会のかくし芸、ニンジャ全員で撮った“踊ってみた動画”…どれも笑顔あふれるイメージばかりだ。
「これで良し。」
岡田はアルゴリズム・アップデートの自動更新も無効化した。これでしばらくは人の笑顔あふれる政策が実行されるようになるだろう…!
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