第4話 「あんただって、猫じゃないか!」
センキョの警備に当たっていたニンジャ・マスター岡田は、部下の松村ニンジャの顔色が優れないことに気付いた。
「どうした、松村ニンジャ、体調が悪いか?」
「いえ、なんでもありません。」
「そうか。そろそろ日系コンセプト大賞が始まるぞ。たしかお前達ペット愛好家グループのコンセプトが候補だったな?楽しみだろう。」
松村の忍者服の胸元が、チョコり、と動いた気がした。気のせいだろう。今日はつまらないことを問いただす余裕もない。
スピーチは終わり、“今年の日系コンセプト”の発表が始まった。コンセプトは宇宙で生きるうえで、もっとも重要で価値の高いものだ。
モノは壊れ、技術は追い抜かれる。しかし集団と結びついたコンセプトは磨き上げることでアイデンティティを醸成し、「ゲイシャ」や「オタク」のようにグローバルでの認知度を上げ、波及的経済効果までも生み出すのだ。
過去には「今年の流行語大賞」と呼ばれていた日系コンセプト大賞は、いまや宇宙時代における知的資産創出の場だ。
「今年採択を検討しているコンセプトは、『モフモフ』と『モグモグ』、そして『MOTTAINAI』のみっつニャ。
コンセプト『モフモフ』は小動物と暮らしたがる、ペット愛好家から提案されたが、資源の無駄を顧みてないニャ。
かつて地球に存在したとされる美食の再現に血道をあげる美食家たちの提案コンセプト『モグモグ』も同罪ニャ。資源需給を厳格にコントロールして成り立つ宇宙ステーションにおいて、食事と認められるのは少量のゼリーと固形ペレットだけニャ。
美食やペットなどは許されニャい―今年の日系コンセプトとして受け容れられるのは、『MOTTAINAI』だけニャ!」
猫は住民から小動物を引き離し、キッチンと呼ばれる機器設備を破壊するよう、各ステーションに行政執行を命じた。いつもの猫らしくないせっかちな展開と結論だ。例年ならもっと「みんなはどう思うニャ?」とか、「いかがかニャ?」といった司会をするはずなのに―今年の猫は機嫌が悪い。
小動物愛護管理行政―つまり収容殺処分はまことに残酷である。
「あんただって、猫じゃないか!」
子犬を抱いた女が叫ぶ。必死に子犬を守ろうとする女の姿に、人々からどよめきが起こる。人々の生体反応が高まり、これを随時読み取って動くステーションの指示系統に、混乱が生じかねない。猫は演壇から飛び降りると叫んだ。
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