第3話 和を以て貴しニャ
「国家ステーション大分裂時代―宇宙ステーションはそれぞれに内部紛争を繰り返し、分離独立を行いながら、同質性の高い小さな集団へと変化していったニャ。
そしてそれらは、集団防衛のために緩やかな繋がりを結成して現在に至っているニャ。
日系ステーションといわれる現在の疑似国家は、地域的な縛りから解き放たれ、日本的コンセプトのもとで暮らす共同体ニャ。したがって組織内には多種多様なDNAと考え方を持つ者が存在するニャ。
寛容は日系ステーションのキーワードニャ。和を以て貴しニャ。」
ふぁぁ、と誰かがあくびをした。猫の話は小難しい。
「宇宙におけるアイデンティティの確立と確保は正気を保つこととほぼ同義ニャ。毎日が同じ景色、同じ環境が続く宇宙空間では個人のアイデンティティは生まれ難いニャ。
あなたは誰なのかと聞かれて“私はオタクです”と、躊躇することなくアイデンティティを答えられる―この点において、すべての日系宇宙ステーションは、先達に深く感謝をしなくてはいけニャい。
ニンジャもオタクもサムライも、心の底から湧き出る指向性とこだわりを一言で表現し、グローバルに理解してもらえる。つまりは強いコンセプトこそが、宇宙におけるブランド力だニャ!」
パチパチ、と、どこかで拍手がした。それほど熱烈ではない。猫が長いスピーチをするのは、時間稼ぎだ。センキョが終わるまでにメタデータの統合とアルゴリズム分析による立法行為を終えて、すべての日系宇宙ステーションにインストールしなくてはならない。
各ステーションはセンキョで新たにインストールされた法律で一年間過ごし、メタデータをため込んで、また一年後に集合する。地方公共政策レベルであれば、宇宙ステーションごとのメタデータ即時分析、法令のオートメーション施行も許されている。
裁判もオートメーション化されていて簡単だ。警察、検察も要らない。過去一年間に日系宇宙ステーションで違法行為がなかったか、アルゴリズムによってメタデータからあぶりだされ、判例もアカシックレコードに揃っているため、裁判は即時結審する。刑執行も即時執り行われる。
だが殺人やひどい暴力行為など重犯罪の場合は、即時収監か、ステーション外に放り出されて終わる。滅多に起こらない犯罪異常値は管理コストが高すぎるからだ。
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