第2話 人はネコに勝てニャい
2045年のセンキョに投票行動はない。基本的には記念日とか祭典のような雰囲気だと考えてもらえばいい。
年に一回のセンキョは、人々がお祭りを楽しんでいる間に、すべての日系宇宙ステーションが一年間溜めこんだメタデータをリモートセンシングで繋ぎあい、相互認証するのが最大の目的だ。ここでいうメタデータとは、日系宇宙ステーションごとに個別収集した住民行動データをうっすらと匿名化したものである(本気で調査すれば誰の行動データかはすぐわかる)。
日系ステーションに属するすべての住民のメタデータは一元回収後に、アカシックレコードと呼ばれる集合意識体(古い言い方をすればクラウドデータベース)に統合される。人工知能がアルゴリズムを使ってこれを分析することで政治は自動化されている。
最初は交通政策などにおっかなびっくり導入された人工知能による執政は、第三次世界大戦と宇宙彷徨時代を経て完全に確立された。より多くの人々が望むことを、人工知能が公平に分析して実行するため、人々は以前よりはるかに政治に満足していた。
立法と司法は人工知能が行い、行政は各宇宙ステーションがオートメーションでプロセスするため、政治家の最後にして最大の仕事―イベントで祝辞を述べたり、スピーチをすること―は、猫が担当する。
猫のいいところは、挙げればきりがない。まず寿命が短いので老害になりえない。そしてかわいい。どんなに現実的で塩っ辛い政策を口にしても、猫が「~ニャ。」話法で話すと角が立たないのだ。
開会演説が始まった。演説をするのはもちろん、猫である。
「我々の長い宇宙彷徨時代には、福音と呪いがあったニャ。」
人々は静まり帰った。
「宇宙において国境という二次元の縛りから解き放たれたのは福音であったニャ。見た目も年齢も趣味趣向も異なる老若男女が、地球の同じエリアに先祖がいたという薄弱なモチベーションだけで、狭いステーションでの集団生活を続けることは正直、しんどかったニャ。」
センキョで猫が演説をする慣例が生まれたのは、じつはそれほど昔ではない。少し前まで人間の政治家がやっていたのだが、退屈なスピーチは誰がやっても退屈だ。見ていてかわいいほうがいい。結局、人間の政治家はスピーチからもリストラされて、猫が表舞台を牛耳るようになった。
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