スペイス・ニンジャ・カンパニー

林 晶

第1話 センキョの日

「ニン、ニン、ニンジャー!」

「モ・ノ・ヅ・ク・リ!オ・モ・テ・ナ・シ!」


スペイス・ニンジャ・カンパニーは、宇宙一のなんでも屋だ。忍者が走り回る同社のコマーシャルは意味不明ながら力強く、広告効果は抜群だ。


宇宙ステーションの補修や修繕は、西暦2045年の今日においても複雑かつ非定型的である。人間による手作業がいちばん低コストだ。


外壁に不具合があるようだと分かったら、さて、誰を修理に呼ぶだろうか?迅速にそつなく作業し、サービスでダクト掃除もしてくれ、ついでにコスチュームがかっこいいから子供も大喜びする―スペイス・ニンジャ・カンパニー一択である。


かつて地球上に存在した日本という国家地域では、「私はだれか?」「どこに帰属するのか?」「他人にどう思われているのか?」がきわめて重要であったという。


しかしその自意識過剰で階層意識の強い文化から「ニンジャ」「サムライ」「ゲイシャ」「オタク」などの驚異的に強力な集団コンセプトが生まれ育った。


「ニンジャ」は宇宙一のなんでも屋、

「サムライ」は宇宙一の用心棒、

「ゲイシャ」は宇宙一セクシーなエンターテイナー、

「オタク」は宇宙一ユニークなコンテンツ・プロバイダー(兼消費者)として、各国ステーションからも引きが多い、グローバル・コンセプトといえるだろう。


今日は、スペイス・ニンジャ・カンパニーの書き入れ時、国家祭典「センキョ」である。宇宙中に散らばっている日系宇宙ステーションは、宇宙間光通信マイクロ波が届く距離に集結することが義務付けられている。今年のセンキョ会場はケプラー1649c上空だ。


スペイス・ニンジャ・カンパニーは毎年のセンキョで交通整理を請け負っており、ニンジャたちはてんてこまいだ。到着したステーションの水先案内や突然のワープによる事故を防ぐ管制行動、そしてセンキョに花を添える「スペイス・ゲイシャ・シスターズ」の護衛―これが一番楽しみだ。


午後一時、今年のセンキョの幕が開いた。


幕開けとともに景気づけのパフォーマンスが始まる。「スペイス・ゲイシャ・シスターズ」が、ビートの効いたポリリズムに乗って美しい手足をパタつかせ、不思議な歌と踊りを披露する。三人組の彼女たちは宇宙的な人気を誇るグループであり、その経済効果は計り知れない。人々は脳内に投影されたゲイシャたちの圧倒的な美しさにうっとりと酔いしれる。

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