第4話 日本最高のハンター

三十分ほど休憩(夏希が無理矢理取らせた)を挟み、標はついに憧れと対峙する。

『私は助言しないから、君自身の現在地と、この世界の人間の頂点を知ってきたまえ』

ちょうど良い、とばかりに稽古試合前のガチガチに緊張した標にそう言った。

(お、おう。胸借りてくらぁ……)


◆◆◆


世界ハンターランキング、第7位。

【七極星剣】七条夏希。

女性ハンターとしては【酔華傾国】に続く第2

位の実力者であり、日本最高のハンター。

付け加えれば、世界ハンターランキングは純粋な個人の実力ではなく、ギルドとしての活動なども評価項目に入るので、純粋な個人の実力ならばこの世界の人間としては三指に入る実力者だとエルは考えている。

ギルドの長としての指揮能力も高く、まさにハンターの理想形である。

そして【遺物】──記憶違いでなければ、魔装の元大賢者の作品である──【七星剣】と、

【極星剣】を使い戦闘する。

中距離では【七星剣】に集団リンチ、近距離では【極星剣】による、一撃必殺。

中々にえぐいというか、利にかなったと言うか。

まぁ兎も角、単体で彼女に敵う存在はそうそういないだろう。

『速いな。制御も正確だ』

一本の剣が標の周囲を飛び回り翻弄する様を、感心した様子で観察するエル。

『七星剣か。懐かしい』

かつての大戦ではあれらの廉価版が飛び回ったものだ。

騎士不要論を唱えていた魔装の大賢者が剣聖に左腕を持ってかれたのは愉快痛快であった。

『しかし、まさか残っていたとは』

かつての大戦で剣聖と騎士王が根こそぎ折って壊してたが、まだ残っていたとは。

いや、

『手動操作なのをみるに、プロトタイプか』

例の戦争で持ち出されなかったから残っていた訳か。

『平均的にあれ程の使い手を用意出来たのならば、あの戦争も危うかったかも知れないな』

意味の無い仮定であり、勝者はこうして立っている。

今さら掘り返すのは、あの天才魔装の帝王に対する冒涜だろう。

『ほぉう?今のは上手いな。なんだ、思ったよりもやるじゃないか』

連撃を三ループ目にしてようやく弾くことの出来た標を見る。

『だが、ここからは更にキツいぞ?』


◆◆◆


(速いっ。目で終えないっ!?)

最初の方はかなり、いや滅茶苦茶手加減してくれていため結構余裕があったが、三分程でその余裕は消え失せた。

今は反撃すらままならない状況だ。

「さぁ、どうする標君」

こちらを見る夏希の目に油断は無い。

(──っ流石だ!けど、夏希さんの言うとおりだ、どうする?)

心の内で感嘆しながらも打開案を探す。

『いいか、これから修行するに当たって、当たり前の事を言うぞ。目標は、出来そうな所から立てていけ。そしてその点を繋げばいずれ届く』

契約の後、本格的に修行を始めると言われたその日にエルが言った言葉だ。

(出来そうな、所から!)

まず───

(あの人を攻略するとなったらまず突破しなきゃならんのは七本の飛来剣!いや、今は七本は無理だ。なら、何本ならいける?現実的に、今の俺に可能なラインは?)

「二本、までなら…!」

この一本に翻弄されているじゃないかって?

「もう、なれましたよ!」

弾けた!

いけるっ!

(行けるぞ!)

「ならば、もう一段上げよう」

当然だ。

彼女は世界最高峰。

これが限度であるわけない。

(なるほど、これが、か……っ!)

歯牙にもかけず、息を吹けば飛ばされる。

つまり、

(現在地も糞もねぇミソカスっ!ってことだろ師匠!?)

一瞬、エルと目があった。

その美しい魔術師は、なにか、ちょっと気まずそうと言うか、呆れていると言うか、兎も角そんな顔だった。

(どこまで──どこまでだっ!?どこまで追い縋れる!七条さん相手に!)

しかし、次の刹那、その事は頭のどこへやら。

恐ろしい程の頭の切り替えに、心の声を聞いていたエルは人知れず賞賛を贈った。

ただ一言、『早いな』と。

「!なるほど!」

夏希もそれに気づいたらしく、口角を上げた。

「っつ!二本目、ですかっ」

早速二本目を投入してきたことに驚きつつも、それにしっかりと対応するあたり、かなり異常である。

『いや───』

「君の限界を越えて行け、標君」

三本目の、剣の軌跡が標の頬を掠める。

「マジっ!?ですか!?」

『大概、スパルタじゃないか』

「かわいい子には旅をさせよと言うものだ。──標君、大丈夫だ、君ならやれる」

(何の根拠をもってーー!?)

そうは思えど、不思議と力が溢れてくる。

こんな期待は、初めてだ。

人から、こんなにも心地の良い感情をぶつけられるのは、生まれてこのかた、本当に、初めてだ。

「応えなきゃ、嘘でしょう」

槍をぎゅっと握りしめる。

(やるぞ、やるんだ)

『その意気だ。自分の予想なんぞ、越えていけ』

期待を込めた複数の視線に、彼は未だに気付かない。

けれど、いつかは。




魔装の「元」大賢者(別名 魔装の帝王)

魔装技術により魔法の機械化を図った天才。

どんくら位すごいかと言うと、蒸気機関の開発、つまる所の産業革命とかってレベルの技術的特異点シンギュラリティ

それらの功績をもって聖十三大賢へと召された。

エルネハイム曰く、「私とはまた違う天然物ナチュラルボーンの天才だ。ただし性格に難がある」との事。


騎士不要論

魔装技術の開発によって前衛の必要性が薄くなり、何人かの賢者、大賢者が唱えた論説。

まぁ、ある種戦争の歴史の定番ではあるのだが、彼の世界の騎士は基本人外で、剣聖に至っては核を積んだステルス戦闘機みたいなところあるので、文字通り一刀両断された。


【七星剣】

魔装の大賢者の【遺物】。

指輪型の【遺物】であり、所有者が触った剣を最大14本登録し、最大7本まで操れる。

また、操作対象に特殊強化を付与できる。

ちなみに、今回は無強化の木剣。

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天への塔が告げる刻 あじたま @1ajn

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