第3話 最高の贈り物

「さて、確認してくれたまえ」

少し気取った口調で、自信満々に七条夏希は武器や防具の計三点と、プレートの上に乗ったガードを出してきた。

「ありがとうございます!…それと、これは?」

カードを指差して標が尋ねる事前にお願いした物にこんな物は入っていなかった筈だが……。

「実はだね、君の住所の徒歩十分圏内の場所に我々【七星】ギルドの訓練所を建てる事になってね。一年ほど前から計画が進んでいて、つい先日完成したのだが、そこの鍵だ。存分に活用してくれ」

うちの近くの七星の訓練所と言うと……あれか。

結構デカかった気がする。

あんなものの自由使用権までくれるとは、太っ腹だ。

「有り難く使わせて貰います」

「うん、そうしてくれ。そして、次がメインだ。君が我々に注文オーダーした装備品。良ければ解説しようか?」

「お願いします」

「分かった。まず、武器である槍だが、君の注文通り、素材は矛先が風竜の角、持ち手が星鉄と魔晶鉱のインゴット。付与効果エンチャントは通魔性強化、耐久性強化だ。我がギルドの幹部を出張らせた、最高のエンチャントになっている筈だ。次に上半身の装備だが、水竜の革鎧をベースにして各種属性竜の装飾を目立たない、邪魔にならない位置にあしらった。温度調節、属性攻撃耐性に加えてエンチャントには通魔性強化を施した。下半身も同様だ」

『完璧だ』

エルが惜しみ無い称賛を送る。

因みに、間接的だが先程の注文を送り付けたのはエルだ。

【七星】ギルド側のお財布事情、今の標の能力を考慮して現状において最高の装備品を注文した。

尤も、天の塔産の『遺物』や、階層ボスと呼ばれる存在から取れるもの並ばまだまだ上があるだろうが、まだそう言ったものは入手出来ない。

「ありがとうございます!期待通り、いえ、期待以上です!!」

一刻も早く試したいと言う表情の標に、微笑ましそうな顔をした七条が、こんな提案をした。

「良かったら、下の訓練所でその装備を試してみるかい?今の時間なら人は少ない筈だ」

その、思いもよらない提案を聞き、更に目を光らせる標。

「はい!是非ともお願いします!!!」


◆◆◆


(うぉぉぉぉ、すげぇぞエルさん!!あそこにいんのは竜道君じゃね!?本物だ初めて見た!うお、あそこにいるのは(ry)

標が内心絶叫系オタクとなってから三十分。

とうとうあきれた様子のエルがため息を吐いた。

『標君、遊びに来たんじゃないだろう?』

(あっ、そうだったな。えっと、まず何すれば良いんだっけ?)

『本来ならば魔力調律か魔法を教えたいところだが、せっかくこのような施設が揃っている。パフォーマンスも含めて、身体強化に勤しむとしようか』

(パフォーマンス?)

『あぁ。ここにいるのはその誰もが才ある一角のハンター達だ。彼らからの評価を稼ぐのは、君にとっていずれ必ずプラスになるだろう』

(なるほど、そういう)

確かに、それはそうだろう。

恐らく、将来の幹部候補もいる。

それに、個人的にも彼ら憧れからの評価は高い方が嬉しい。

(よしっ、やろう!)


◆◆◆


「なんだ、ありゃあ……?」

今季最年少Aランクハンター、竜道誠はドン引いていた。

上司である七条夏希が自分より少し下くらいの少年を連れてきたかと思ったら、自分に、

「彼は客人なんだ。まだステータスも得ていないそうでな。何かあったら不味いから無茶しないように見てやってくれ」

そう言ってきた。

いや、そこまでは良い。

最近、自分は伸び悩んでいたし、延々と成果の出ないトレーニングをするならまだ初心者のお守りの方が気付きもあるかも知れない。

しかし、その初心者は三十分ほどぼーっと辺りを見渡したと思ったら、突然物凄い勢いで筋トレを始めたのだ。

もう一時間ほど経過したが、その勢いは衰えを知らず、ずっと

「よぉ、竜坊。聞きたいんだが、ありゃなんだ?」

かつてパーティを組み、その後個人的な交遊を持った先輩が話かけてきた。

「ギルド長曰く、客人だそうです。ステータスも持ってないらしいんですが……」

「おいおいマジかよ。あの坊主もうずっとあんな感じだぜ?」

無論、そのトレーニングは彼ら二人ならば余裕でこなせるような物ではあるが、仮にランクがまだ低かった時ならば?

まして、ステータスを得ていない時期など持っての他だ。

「ボスは、とんでもねぇ奴を連れてきたな?」

「……ですね」


◆◆◆


『先程より0.3秒起き上がりが遅い』

原因は、エルだった。

(くどくどくど!!うるせぇぇぇぇ)

『そう思うなら手を動かすと良い』

(死ぬ!マジで死ぬ!ホントに死ぬから休憩しよっ!?)

『大丈夫だ。まだ四時間はこの負荷の運動を生命維持に問題なく続けれる。君の身体を直したのは誰だと思っているんだい?君以上に把握していよ』

(休憩もぉっ!大事でしょって!こんの鬼畜師匠がぁぁぁ)

『師匠?まぁ良いが、そう言うなら私の指導には従って貰う』

(いやぁぁぁぁ)

三時間後

『よし、休憩だ』

その言葉を聞いて、標は道具をもとの位置に戻す。

『どうだ?案外余裕があるだろう?』

(確かに……まだちょっと位ならやれそうだ。……俺の体に何かした?)

『回復した時にね。まぁ、内臓機能の向上と五感の鋭敏化位さ。身体能力の劇的な向上は潜在魔力の覚醒によるものが大きい。それに加えて、契約による活性化と私による魔力の制御、魔力回路の形成。……まぁ、つまり君は外付けではないステータスを得たような物だと思ってくれ』

(それって、ステータス得たら二倍になったり?)

『いや、しない。あれはあくまで外付けの魔力タンクだ。出力も多少増えるが、その本質はあくまで貯蓄。倍と言える程の劇的な変化は無い……筈だ。実際のところ、前例を確認したことがないから何とも言えない』

(なるほど……分かった。それで、次はなにをする?)

『ふむ、次か。直ぐに移行したいところだが、恐らく彼らが許してくれまいよ』

「?」

誰の事か分からず、疑問符を浮かべる標。

エルはそんな彼の後ろを指差した。

「標君」

凛とした声と共に、頬に冷たい何かが当てられる。

「はい!?」

声と冷たさに少し驚いて後ろを向くと、予想通りの人物が立っていた。

「差し入れだよ」

そう言って、標の頬に当てたアクエリアスを差し出す七条。

「頑張りすぎは良くない。試験までもう少しなんだ。少しは身体を労った方がいいよ」

その声には、呆れと心配の色が後者多めで混ざっていた。

「そうですね。……でも、僕頑張りたいんです。今まで、こんなチャンス無かったから」

「そう、か」

何処か悲しげな表情の夏希は、少し目を伏せて次の瞬間笑顔になった。

「なら、私が少し稽古を付けて上げよう。少しは為になる筈だ」

「是非!!」

瞬きの暇すらなく、イエスの意思を提示する。

「うん、ならばあちらの武道場を使おうか」

夏希はそんな彼を微笑ましげに見つめるのだった。

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