第2話 新たな門出

『まず、退院おめでとう標君』

契約から三日後、元々傷自体は完璧に修復されていたこともあり、三日間かけた厳密な検査を終えた後は直ぐに退院する事ができた。

そして、退院した彼を待っていたのは、

「おはよう、日釈君。体の調子は大丈夫かい?」

日本最高にして世界ハンターランキング第7位に名を列ねる女傑、七条夏希だった。

「おはようございます、七条さん!」

「うん、元気の良い返事だ。今日は例の物が完成してな。私と一緒に取りに行かないか?」

「本当ですか!?ありがとうございます!」

例の物、とは七条夏希に頼んだダンジョン用の装備である。

仮にも国家ギルド、【七星】のマスターが用意する装備、相当な物だろう。

が、今の標にそんな事を気にしている余裕はない。

何せ車内と言う狭い密室で、隣に憧れの人がいるのだ。

焦らない訳が無い。

(やべぇ……やべぇよ、どうしよエルさん)

エルさん、とはエルネハイム・ローレンス・ブラッドの事である。

『焦りすぎだ。そこまで焦る必要も無いだろうに』

(い、いやいや!国民的ハンターですよ!?最年少Sランク!【天への塔】準最前線50階への最年少到達者!ギルド【七星】の伝説を含めたら数えきれない位に逸話のあるお方だよ!?)

『今の君の立場を考えれば、そこまで固まる必要も──』

エルがそう言いかけたその時、

「ふふっ」

そう、七条夏希が微笑んだ。

(──────────)

まさしく、新星爆誕ビッグバンのごとき衝撃が標の身体を駆け抜ける。

「君は少し固すぎだな。もう少し気を抜いてくれ。…そうだな、もうお昼時だろう。吉沢君、本部に行く前にマックに寄ってくれ。……あぁ、勝手にマックにしてしまったが、それでも良いだろうか?なんなら今から変更しよう」

そう言って、その微笑みを此方に向けた。

(ふがっ)

「も……ち論です!是非!」

特段マックが好きと言う訳でも無いが、彼女と一緒となれば話は別だ。

『マックか…一度は食べてみたいな』

隣のエルさんが哀愁を漂わせる感じの事を言っているが、標は気付くことがなかった。


◆◆◆


「さぁ、そろそろ着くぞ」

車内での昼食を終え、しばらくは団欒とした空気で会話をしていた夏希と標だったが、大通りを抜けたタイミングで、夏希が言った。

そこから、更に数分。

車が止まった。

ドアが自動で開く。

「さぁ、ようこそ標君。我が【七星】ギルドの本部に!」

両手を広げ、誇らしげな笑みを称えて、

「歓迎しよう、君の新たな門出を」


◆◆◆


「髪型、お肌、服、笑顔、全部よし!今日も可愛い!行ってきます、お母さん!」

金髪の少女は、彼女の母親と思われる女性の写真が入った写真立てに敬礼をして、後ろを向く。

「コケッ!」

遅いっ!とばかりに玄関で待っていた鶏が鳴いた。

「ごめんなさいポッポちゃん!今行きます」

この鶏と少女の運命が少年と幽霊と交差するのは、もう少し先の話。

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