干さずに乾かして
お隣の戦争がそのうち終わりそうだということで、若干ギルド内の空気がゆるんできました。
とは言え、未だ悪魔や魔物の流入は止まっていません。仕事の量は、まださほど減ってないんじゃないかな。
魔術師としての最低限の役割は、やはり悪魔の処理でしょう。これさえ終えれば、ひとまず仕事は果たしたと言える。
ですが、冒険者としてはそうも言ってられません。魔物を退けた後も、付近の生態系に目を光らせる必要があります。
両方のギルドを行き来していて肌で感じる分には、緊張感に結構な差があります。まだ仕事はあるのですから、気のゆるみもこのくらいで留めておいてほしいですね。
近頃の天気は相変わらず不安定ですが、たぶん早めに収まるんじゃないかしら、と予想しています。
悪魔はともかく異常気象なんて、よほど大規模な戦闘でも起こらない限り発生しません。戦争が終結に向かっているのなら、少なくともこれ以上悪化することはないでしょう。
しかし、最近は雨ばかりで困ってしまいます。結局、洗濯物を乾かすために魔術を使いました。もちろん、細心の注意を払ったうえで。
私は現在、とあるお家の屋根裏に寝泊りさせてもらっています。四人家族の仲睦まじい空間に、部外者が割り込んでいる形です。
あまりお邪魔もしたくないので、できるだけ遅めに帰ったり、いらない接触は避けています。とはいえ、ときには助け合いも必要でしょう。
温風で乾かそうかというときに「そういえば、この雨では奥さんも洗濯物で悩んでいるだろう」と思い至って、声を掛けました。
すると奥さんは「せっかくなら」と、乾きの悪かった洗濯物を預けてくれたのです。人様の家に住み着いている身としてはこんなとき、少しでも役に立ちたいものです。私は喜んで引き受けました。
そんなわけで、私の前に家族四人分、私の分を含め計五人分の洗濯物が並びました。
うん、想像以上に多い。屋根裏がいっぱいになってしまいました。家族一つ分ってこんなに多いんですねえ。いや、五人分なんてマシな方でしょうか。
そして、洗濯物が広がる屋根裏に何となく見覚えがあったのですが、今思い出しました。こういう干物だか、燻製だかを作っている場所を見たことがあるのです。
たしかあそこも屋根裏でしたねえ。魔術で温度や湿度を調節しているらしくて、結構驚いた記憶があります。出来た食べ物は、あんまり美味しくなかったですが。
ということで、慎重に、滅茶苦茶注意しながら、魔術を組み始めます。ここに住む前、宿でちょっとしたボヤ騒ぎを起こした身ですし、間違っても、お世話になっている方々の衣服を燃やしてはいけません。
しばらくして、乾かしている途中で気が付きました。めっちゃ暑い。窓も閉じて温風出しているんだから当たり前です。しかも雨のせいで湿気があって、蒸し暑いのなんの。どうして始める前に気づかなかったんでしょう。
一旦部屋を冷やそうかとも考えました。ですが、こんな馬鹿らしい魔術の使用で生まれる悪魔がいるのだと思うと、何となく憚られるものです。
何度か洗濯物を抱えて下の階と屋根裏を往復したりして、ようやく乾かしきることができました。下手な討伐依頼より疲れました。
この忙しさが落ち着いたら、洗濯物を乾かす魔術の開発、本気で始めようかしら。
(エスメラ)
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