第2話
防犯システムなどなく、この辺りは顔見知りしかいないのだから、とまともに見回りもしないおじいちゃん先生しかいない学校に忍び込むのは容易いことだ。
ところで、例の話の内容だが至って簡単なものだ。
「ある廊下で奥の壁に向かって口笛を吹くと、何本も手が出てきて引きずり込まれる」
そのある廊下というのが、昔ほんの少し増えた子供のために増築され、今はもう使われなくなった教室しかない、この廊下である。
暗くて見えないが私の約30メートル程先には壁がある。そこから手が出てくるというのだ。随分と長い手が出てくるようだな。
ロケーションは完璧。時間指定は夜とだけ。残すは口笛を吹くだけだ。
さて、ここで一つ問題がある。誰にも言ったことがなかったが、私は口笛が吹けない。
では確かめようがないじゃないか!と誰だって思うだろう。全くもってその通りである。
……が、だからといって「よし帰ろう」と行かないのが、少人数・幼なじみしかいないという田舎的環境の辛いところだ。
唇を湿らせ、息を吸い、口をすぼめ、そっと息を吹く。
ヒュォー…………
隙間風の方がマシ、という音が出た。弱々しいなどという言葉ですら足りないくらい、弱々しい。もはや情けない。しかし、音が出ただけで褒めて欲しい。私のレベルはそんなものだ。
……何も起きない。
私の口笛が下手くそだからだろうか。それとも嘘だったのだろうか。出来れば後者であってほしいところだが、もう一度試してみてもいいだろう。親へ叱られるリスクを冒し、わざわざ情けない口笛を虚しく響かせに来たわけではない。
スゥ……ピォ~~……
さっきよりまともな音が出た。隙間風には匹敵するだろう。
しばらくの重苦しい静寂。その間、私は奥にあるであろう壁を、身じろぎもせず睨みつけていた。先ほどより雲が厚くなったのか、暗闇に慣れたはずの目でもほとんど周りが見えない。
すると突然、暴力的なまでの威力を持った閃光が走った。完全に不意打ちを喰らい、反射で閉じた目の奥は白に塗りつぶされている。涙がにじんだ。
混乱する頭で「来た」と思った。私の口笛で例の怪異を呼び出したのだ。私の口笛が認められたようでやや嬉しかった。
しかし、そんな悠長なことを言っている場合ではないとすぐにわかった。まだづくづくと痛む目を無理やり開けてみると、私には見えた。
白い手が。
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