第3話 干上がり

気がつけばもう1時間半が経過していた。時刻はまだ朝の7時20分過ぎ。

いつも以上に練習に打ち込んでいたはずなのに、まだ昔の夢が頭から離れてくれない。それどころか夢で見た頃よりあとの思い出まで、脳裏に浮かんではそのまましつこく残り続ける。流れてくれない。



初めてつま先をふかふかのハーフシューズで包んだ感覚、汗をかきまくって必死についていった練習、コーチに初めて褒められた時の嬉しさ、長い時間をかけて1つの演技を完成させたことの達成感、やる気と緊張でいっぱいだった初めての発表会、人より何倍も努力して合格を勝ち取った選手育成コースへの進級テスト、新体操で悔しいと強く感じた初めての試合、そしてよりいっそう打ち込んだ練習、憧れの団体演技に招待された喜び、練習練習練習練習............。


それから、中学2年のときの団体の試合のトラウマと、



「ーーぢゃんだっだら、よ"がったの"に"ッ!!!」



私に泣き叫んで訴える3年生の先輩の顔。


「ハッ ハッ ハッ ハッ」

鮮明に思い出して呼吸が早くなる。

私はその場にしゃがみこんで、額に汗をかきながら思った。


私は、もうとっくの前から誰からも必要とされてない選手で、こうして新体操をする資格なんて無かったんだ。


口が開けっ放しだから、喉が、とてつもなく渇いて、しんど―


ガラガラガラッ バンッ

「おっはようございまぁぁぁっす!!!!」


「........ぇ?」


「え。...えぇっ?!だ、大丈夫ですかって絶対これ大丈夫じゃないでしょぉ!!先輩...?ですよね、顔色が真っ青です!汗もすごいので、タオルこれ使って下さい!」


「ぁ...えっと、ありがとう...。ハァ。」


しんどくなって、目の前が真っ暗になったと思ったら突然ドアが開いて、この子が現れた。


「うん、だいぶ顔色が良くなりましたね!良かったです!」


「改めて、ほんとありがとう。おかげで助かった。」


「お礼なんていいんですよ!困っている人を助けるのは当然ですから!それで、どうしてあんなことになってたんですか?ちゃんと水分とか取ってました?」


「あ、水分不足とかでは無いの。まぁ、ちょっと昔のことを思い出しただけ。」


「んー...じゃあ、踏み込んだ質問ですけど、何があったんですか。

緑 彩華 センパイ。」


「!?」


なんで私の名前を...。








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