第2話 夢の目覚め

朝5時、重たい瞼をゆっくり開けながらアラームを止める。

10年も前の、すごく懐かしい記憶を夢で見た。

今となってはあまり思い出したくないほど、夢に出てきた私は瞳を輝かせていて、その姿ははっきりと目が覚めた今もまだ脳裏に残っている。

この少女の瞳は、年々輝きを失っていくというのに。


私はどうしていれば、はならなかったのだろうか。


答えが出ない問題について考えるのをやめて、私は朝練に行く準備をした。

それから母と妹を起こさないように慎重に1階に降りて、夜中に母が作り置きしてくれたお弁当を鞄に入れる。

「行ってきます。」

小さな声で呟き、そのまま家をあとにした。


夢に出てきた私の年齢から10年後。今は高校2年生。

4月下旬、桜はほとんど散って、青緑の葉を枝に付け始めている。

清々しい朝の空気をめいいっぱいすいながら、いつも通り朝練に向かう。

私が通っているのは慶華高等学校けいかこうとうがっこう

それなりの進学校で、男子バレー部が強い。

この高校に入ったのは、家から近かったのと新体操部があったからだ。


ここの新体操部はそれほど活動をしておらず、部員も10人、この前3年生の先輩方が引退されて今は私達2年生6人しかいない。そしておまけに新入部員が入る見込みももちろん無い。

同学年の部員は私以外みんなバレエからだったり、体操からだったりと新体操の経験が無く、去年は基礎を教えるので精一杯だった。


特に試合に出ることもしない。毎年文化祭のステージでちょこっと踊るだけだ。

それもミスをするのが当たり前のような演技。

新体操経験者である私からしたら見るに耐えないものでも、私はそうなってしまう現状を変えることは無いし、そもそも私がこの現状を変えるなんて出来るわけがない。


私はに来てまで新体操にズルズルとしがみついている。

こんな学校生活も2年目に入った。

私はここで何をしているんだろう。


もう何度目かわからないこの問いから目を背けたところで、第2体育館に到着した。

第1体育館は男バレが朝練に使うということで、私はこの天井もそれほど高くなく、少しボロっとした第2体育館で練習せざるを得なかった。

ほこりっぽいし色んな虫は出る汚い体育館だが、ここの窓から朝日が差し込むこの時間だけは好きだ。


レオタードに着替え、長年使い古して穴のあいたハーフシューズを慣れた手付きで履く。歩きながらお団子にくくり直し、お団子ネットを被せる。

タイマーをセットし、朝日を浴びながらいつも通り1人で練習を始めた。


昔の夢のことなんて忘れるように、ただがむしゃらに、ハーフシューズの裏を床に擦り続けた。







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