慶華高等学校 新体操部

第1話 夢

私、緑 彩華みどり あやか美しい世界新体操に出会ったのは、今から10年前の小学1年生のときだった。


当時、母から何かしらの習い事に通うことを求められていた私は、その日もサッカーの体験教室やら、ピアノ教室やらと連れ回されていた。

そしてその日の最後に行ったのが、新体操レッスンの見学だった。


体育館の重たいドアを開けると、汗と熱のこもった空気がドッと押し寄せた。

この時期はちょうど試合が近いときで、中学生くらいのお姉さんたちはみんな、ストーンでキラキラに飾り付けられた衣装を着ていた。

お姫様みたいなヒラヒラした可愛らしいデザインや、大きなストーンやシルバーの模様で飾られた、思わず見とれてしまうような美しい衣装。

そして宝玉のように輝くピンクや水色のボール、ヒラヒラなびく赤とオレンジ色の綺麗なグラデーションをしたリボン。


私はすぐに新体操に引き込まれて、夢中でお姉さん達の演技を見ていた。

彼女たちがターンやジャンプをするたびに大きな拍手を送って、衣装のストーンが輝く様子、リボンが美しくなびく様子を必死に目に焼き付けた。


演技を見続けていると、1人のお姉さんが私のところにやって来た。

その人は周りより一際上手に踊っていた人で、さっきのコーチの指導も聞いていたら難しいことばかりだった。


「ねえ、どう?新体操は。」


「えっ」


そんな人に話しかけられてびっくりした。


「手具も衣装もお姉さんも、みんなキレイでしょ〜?」


「は、はい!ぜんぶ、キラキラしてて、すごかったです!ジャンプも、きれいだったし、たくさんまわってたのも、ボールなげたり、リボンをクルクルしてたのも、すごかったです!」


小学1年生なりに必死に頑張って感想を伝えた。

結局、すごいしか言えてなかったけど。


「今はこうして輝いているけど、それまでみんな沢山の努力を重ねてるんだよ。失敗と成功を繰り返して、体にあざをいっぱい作って、泣いて、悩んで、苦しんで、たまに喜んで、また頑張って、頑張って...そうやってきてるんだよ。って、見学しに来てる君の前で言うことじゃなかったね、ごめんよ。」


「じゃあ、わたしも、たくさんがんばったら、おねえさんみたいになれるんだ。」


「おっ、そうだよ。新体操嫌いになったかも、なんて君には要らない心配だったね。」


「わたし、こんなふうにキラキラのいしょうをきて、すごいわざもたくさんやって、リボンをクルクルまわして、きれいにおどれるせんしゅになること...が、ゆめになりました!ここのレッスンうけたいです!」


「そっかぁ〜!いい夢だね。君みたいにやる気いっぱいの子なら、きっとその夢叶えられるよ!私達とはコースが違うから、一緒に練習出来ないけど、同じ夢に向かって頑張れることを楽しみにしてるよ。」


「はいっ!」


(ぜったいに、あのおねえさんみたいにおどれるようになりたい。)


それから一週間後、高いお団子ヘアの私は再び体育館のドアを開けた。


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